ドジっ娘も色々と役に立ちます。主にお色気方面で
◇
……朝食も終わり、夜朗たちは移動を開始した。
「……うぇっぷ」
となれば当然、ボートでの移動になる。そうなると、愛美が船酔いしてしまうのは必然だった。
「だ、大丈夫ですか……?」
そんな彼女に、スノーは心配そうに声を掛けた。……水中を自由に行動できる人魚なのだが、また流されては敵わないので、彼女も一緒にボートに乗っている。それほど大きくないボートに五人も乗るのはさすがに手狭だったが、重量的には問題ないらしい。
「だ、大丈夫じゃない、かも……うぇっぷ」
「ほんと、これをどうにかしないとまずいかもな……」
もう何度も船に乗っているのに、慣れる気配を見せないでいる。やはり、三半規管が弱いのだろうか?
「スノー、船酔いを抑える方法を知らないか? このままではさすがにまずい」
「え、えっと……確か、治癒魔法の一つで、船酔いにも効果的なものがありますけど」
「よし、それを使ってやれ」
「わ、分かりました……」
師匠の指示を受けて、スノーは愛美の背中に両手を当てて、意識を集中させた。
「……すぅ」
「……ぁ」
スノーの呼吸に合わせて、愛美の背中に淡白い光が灯る。それに伴い、愛美の表情も段々と和らいでいるので、ちゃんと効果があるのだろう。
「……ふぅ。これで、暫くは大丈夫だと思います」
「あ、ありがと……」
スノーの治療が功を奏したのか、愛美は大分落ち着いていた。師匠が行った治療よりも効果的のようだな。
「これでスムーズに移動できるな。海の移動もあるし、下手すれば数日単位で船の上だからな」
「それは……」
「スノーがいなかったら、冗談抜きで愛美が死んでるぞ」
スノーがいなければ、愛美の命はなかったかもしれない。彼女がドジで本当に良かった。そう思う夜朗たちであった。
◇
……そうして彼らは川を下っていった。夜には陸に上がって休息を取り、昼間はボートで移動。そうして数日が経過した頃。
「もうすぐだな……」
夕方。今日も夜の休息なのだが、今いる場所は海に程近い、河口付近だ。大きく八の字に広がった河口には三角州が出来ており、その手前で休むことにしたのだ。
「つーか、今ってどの辺なんだよ?」
「インドの東辺りだな。こっからインド洋に出て、そのまま中東まで行く。そっからは車が使えるから安心しろ」
「インドから中東って……どんだけ掛かるんだよ? つーか、あんな手漕ぎボートで行けるのかよ?」
「そっちも安心しておけ。さすがにあのまま海を渡ろうとするわけないだろ」
師匠はそう言っているが、夜朗は不安で仕方なかった。……インドから中東まで、直線距離でも数千キロメートルある。インド半島を迂回すればその何倍も移動しなければならない。少なくとも一日で辿り着くのは不可能だし、夜になったら海岸で休むわけにも行かないだろう。
「それはそれとして、お前も遊んで来たらどうだ?」
「……っていうか、どうしてこうなった?」
夜朗が言っているのは、目の前の光景。……近くの浅瀬で、水着姿の少女が三人、水遊びをしているのだ。三人とは、言うまでもなく蝶香、愛美、スノーのことだ。
「まあ、「ガーディアン」地域は「キャプチャー」地域よりも緊張するだろうからな。ここでは魔族とばれても然程問題とならないが、向こうではそうはいかない。確保されてしまうからな」
「いや、それは分かるが……だから、何で水着なんだよ? つーか、どこで手に入れたんだよ?」
「服だと濡れるだろ。こういうこともあろうかと、ちゃんと用意していたんだ」
「用意周到すぎるだろ……」
移動途中のレクリエーションのために、態々水着を用意する。そんな暇があったら、愛美の船酔い対策でもして欲しかったな。まあ、船酔いの件は実際に乗船しないと分からないのだが。
「因みに、スノーの水着は自前な。まあ、普段は下着として使ってるみたいだが」
「何でそんなこと知ってるんだよ?」
「本人がそう言っていた。……まあ、ともかく、お前も行ってこい。明日からはかなりハードになるぞ。今の内に英気を養っておけ」
「……ったく。そうするよ」
師匠に言われて、夜朗も女子たちのところへ向かった。彼自身は水着を着ていないが、別に多少濡れたところで気にしないので問題ない。
「あら、夜朗。あんたも遊びに来たの?」
「ああ、師匠に言われてな」
近づいてくる夜朗に、最初に反応したのは蝶香だった。……彼女が着ているのは紺色のワンピース型水着。かつてはスクール水着と呼ばれていたものだ。細身で高身長な彼女には合わないかもしれないが、自身のコンプレックスでもある慎ましやかな胸が露出しないという点ではぴったりかもしれない。
「夜朗お兄さん、服のままで大丈夫?」
「別にすぐ乾くだろうし、問題ないだろ」
続いて愛美。彼女の水着もスク水であったが、蝶香とは違い白色だった。その白さは、幼い故に色白な愛美の肌よりもずっと無垢で、彼女にぴったりだった。……というか、日本ではまだ小学生だったし、スク水が似合うのも当然か。まあ、白スクを指定する小学校はないだろうが。
「濡れ濡れなのも結構居心地いいですよ」
「言いたいことは分かるけど、その台詞はどうなんだよ……?」
そして、スノーの水着は水色のビキニだった。空のように青い三角の布地は、彼女の豊かな膨らみを頼りなさげに覆っている。……しかし、下半身には水着らしきものを身に着けていない。まあ、下半身は魚だし、人間の基準で考えてはいけないのだろう。
「それで、何にしてたんだ?」
「師匠がボールを用意してくれたから、ビーチバレーもどきよ」
夜朗の問いに、蝶香は片手のボールを示しながらそう言った。ビニール製の軽くて柔らかいボールだが、この時代にも普及しているんだな。
「夜朗さんもやりましょう」
「そうだな。スポーツは嫌いじゃないし」
こうして夜朗は、女の子三人と一緒に戯れることに。……このリア充が、爆発しろ!
「じゃあ、行くわよ。……えいっ!」
「……よっ、と!」
蝶香がボールを打ち上げ、それを夜朗が捉えた。……このビーチバレーもどきは、打ち上げたボールを落としたり、まず取れないような場所に飛ばした人の負けという、蹴鞠みたいなルールだった。
「愛美……!」
「うん……!」
そして夜朗は愛美にパス。愛美もそれを問題なく受け止めた。
「スノーお姉さん……!」
「は、はいっ……! ―――きゃぅ!」
続けてスノーへとパスするが、スノーはうまく取れなかった。……彼女の下半身は魚なので、うまく直立できないのだろうか? しかし、陸上では普通に立っていたしな……。ただのドジか?
「スノー、大丈夫?」
「な、なんとか……」
尻餅をつくスノーに、蝶香が手を貸す。……その手を掴んでスノーが立ち上がろうとしたとき、起き上がるときの反動で、彼女の胸がぷるんと揺れた。それを見たとき、蝶香の中で何かが千切れたのか、彼女は差し伸べた手を離してしまった。
「きゃっ……!」
となれば必然、スノーはまたもや転倒してしまう。盛大に飛沫を上げながら、水に落ちるスノー。
「おい蝶香、どうしたんだよ?」
「ごめんなさい、ちょっとイラっとしちゃって……」
「は、はい……?」
「蝶香お姉さん……」
そんなハプニングがあったものの、彼らは水遊びを存分に楽しんだのだった。




