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魔族(あね)と俺の共同戦線  作者: 恵/.
第二話 中国・歌姫編
32/60

これでようやく一区切り


 ……その頃、蝶香たちは。


「……なんか、凄いことになってきたわね」

 自分たちの周りを見て、蝶香はそんな言葉を漏らした。……今、蝶香たちの周りには、多数の魔族で溢れていた。スティやフェアリー、四郎たちは当然として、他にも鳥人や人魚、その他魔族も引き連れていた。

「ああ。どんだけ現状に不満があるんだって話だな」

 妹の呟きに、フェアリーが同意した。……彼らは四郎たちの協力で、警備の魔族たちを続々と味方につけていた。それがこの大所帯の理由だった。四郎が協力を呼びかけるだけで、皆、彼について来るのだ。相当人望があるらしい。

「それで、こっちに囚われている魔族ってどれくらいなのかしら?」

「ん? こっちは警備の魔族が殆どで、生産活動用の魔族はいないぜ?」

 スティの呟きを聞いた四郎が、そんなことを言う。……っていうことは、警備要員の魔族を仲間にすれば、それだけで任務完了なのか?

「なら、あなたの仲間を引き込んだら、そのまま離脱しましょう。捕らえられた魔族はエディたちが確保してるはずだし」

「そうだな。残ってるのは次の区画だけだ」

 そんな調子で、移動を続ける一同。警備側を味方につけた以上、襲撃を恐れる必要はないので、後は消化試合みたいなものだ。……描写も面倒だし、一旦飛ばすか。



  ◇



 ……警備の魔族を全て引き入れ、いよいよ脱出という状態になった。


「それで、どうやって脱出するんだ?」

 仲間全員を連れ出して、四郎は当然の疑問を蝶香にぶつけた。……今彼らがいるのは、施設の最奥部。勿論出口はない。大勢の魔族を連れているので、入り口まで戻るのも大変だ。

「ああ。それならスティに任せておいて」

 となれば、壁抜き役のスティが重要になってくる。しかし、未だに魔族特性を見せていないスティ。どうするつもりなのか?

「よっし、ようやくまともな出番ね」

 やっと活躍の機会が得られて、スティは意気揚々と何かを取り出した。

「……何だそれは?」

「何って、手榴弾よ」

 スティが手にしたのは、小さいパイナップルのような形の金属塊。ただし、パイナップルなら葉に当たる部分には、レバーとピンが取り付けられている。一般的にイメージされている手榴弾そのものだった。

「これを使えば、普通の壁なら簡単にぶっ飛ばせるわよ。高威力の特別性だもの」

「……俺たちが巻き添えになりそうだな」

「大丈夫よ。ちゃんと余計な被害が出ないように使うから」

 スティは軽い調子でそう言うが、四郎は不安げだった。……まあ、その辺の女の子が爆発物を取り出したら、そういう反応になるよな。

「じゃあ、ちょっと仕掛けてくるわね」

「いってらっしゃい」

「……俺たち、生き埋めにならないよな?」

 物騒なことを呟く四郎には構わず、スティは手榴弾を使うために一人で奥へと進んでいった。



「んー……この辺でいいかしら?」

 出口を作るため、スティは手榴弾を設置していた。手榴弾とは言いながらも、実際は遠隔操作でも爆発させられるので、万能な爆弾として運用していた。

「……よし。後は、ケーブルを延ばして、っと」

 手榴弾の底に接続したケーブルを延ばして、曲がり角の向こうへと退避するスティ。ケーブルには起爆装置のスイッチが取り付けられていて、ボタン一つで爆破できる。この辺の技術は、「キラー」勢力地域にいたときに身につけたのだ。あそこは科学技術が抜きん出ているからな。

「せーの……えいっ!」

 耳栓を着用した上で、スティは一思いにボタンを押した。―――直後、辺りに響き渡る轟音に、スティは体を震わせる。……耳栓程度では完全な遮音は出来ないし、そうでなくても距離が近いので、熱や爆風が体を撫でてくるのだ。

「さてと……どうなってるかしら?」

 火薬の匂いと熱に顔を顰めながら、スティは爆破した壁の様子を見に行く。

「……うん、上出来ね」

 爆破された壁は、コンクリートが飛び散り、内部の鉄筋が剥き出しになっていて、酷い有様だった。生じた穴は比較的大きく、大人三人が横並びで通行出来そうだ。外から漏れてくる光が、施設内部を明るく照らしている。まさに、自由への入り口という感じだな。出口だけど。

「さてと、蝶香たちを呼んで来ないと」

 出口を確保したスティは、蝶香たちの元へと戻るのだった。



 ……その頃、蝶香たちは。


「……!?」

「な、何だ……!?」

 突然聞こえてきた爆音に、魔族たちは戦慄した。スティが壁を爆破した音なのだが、そもそも爆破の件が彼らに伝わりきっていないので、余計に混乱したようだ。

「うまくいったのかしら?」

「どうだろうな」

 無論、蝶香やフェアリーは動じていない。寧ろ、「何を驚いているんだ?」と言わんばかりである。お陰で、四郎たちが事態を収拾する羽目に。

「ただいま~」

「あら、おかえり」

「その様子だと、うまくいったみたいだな」

「ええ」

 すると、スティが戻ってきた。無事に脱出経路を作り、満足げだ。……折角、囚われている魔族の説得役になったのに、四郎が仲間になったためにお役御免だったからな。ようやく仕事が出来て嬉しいのだろう。

「さ、行きましょ。こんなところとは、すぐにおさらばしたいし」

「ああ」

 そうして、彼らは施設から脱出した。



  ◇



「フェアリー!」

「エディか」

 施設から出ると、蝶香たちにエディ班が合流してきた。その後ろには、解放したと思しき魔族の姿も。

「やっと合流できました……」

「何だ? 俺たちを探してたのか?」

「というか、夜朗と一緒にいるのが耐えられなくなったんです。夜朗ったら、私にセクハラしてくるんですよ」

「してねぇよ!」

「夜朗……? どういうことか説明してくれる……?」

「予想通りの反応だなおい!」

 お約束のコント(夜朗にとっては命懸け)をかましつつ、連れ出した魔族を先導していく一同。その間に、それぞれの紹介も済ませていく。

「四郎、これが私の弟分、夜朗よ。適当にぶん殴っていいから」

「何でだよ!?」

 先程の一件が尾を引いているのか、夜朗の紹介が酷くなっている蝶香。まあ、四郎は本気にしていないようだが。

「なるほど、こいつが……。俺は四郎って呼ばれることになった」

「なった?」

「てめぇの姉さんがつけたんだよ」

「……なんか、悪いな」

「?」

 姉のネーミングセンスに、夜朗は思わず謝罪していた。……まあ、言ってやるなって。因みに、施設の魔族が番号で呼ばれるのは知っているので、名前がつけられたことには何の疑問もない。

「それで、この後はどうするの?」

「ええ。今通信で指示が来ました。連れ出した魔族を分散させながら護衛して、このまま手近な拠点に入るそうです」

「そうか。なら、俺たちも拠点に行くのか?」

「そうね」

 そして、今後の方針も決まった。さて、どうなるのやら。

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