こんなあっさり纏まるのは非常に稀です
「夜朗、しっかりしてくださいね。私や愛美が怪我したら、蝶香に「夜朗に傷物にされた」って言いつけますから」
「んなこと言ってる場合かよ……!?」
二人の襲撃者を相手にして、夜朗は焦っていた。エディは近接戦が苦手だし、愛美の力は強力すぎて対人戦に向かない。そしてどちらも、戦闘時に隙が大きすぎて、彼女たちを庇う夜朗の負担も大きい。要するに、仲間を守りながら一人で戦わなければならないのだ。
「おい、お前ら……! ここの警備なのか……!?」
「……」
「……」
夜朗が呼びかけるも、武器人の少年たちは無反応。交渉をするつもりはないようだな。
「はっ……!」
「せいっ……!」
そして、二人同時に襲い掛かってくる。夜朗は二刀を振るい、どうにか対処しようとした。
「くっ……!」
右の刀で一方の攻撃を弾き、左の刀でもう一方を牽制する。……だが、夜朗一人では防御が限界。そこから反撃するには、どうしても手数が足らなかった。それでも相手が弱ければ何とでもなるだろうが、向こうもそれなりの手練れなので、夜朗は苦戦を強いられていた。
「らぁっ……!」
夜朗は片方の少年を吹き飛ばし、その間にもう片方を片付けようとする。
「……っ」
「なっ……!?」
しかし、武器人の少年は夜朗の刀を受けても、どうにか踏み留まる。こちらをさっさと倒す予定だったのだが、思惑が外れてしまった。
「エディ……! 愛美……!」
大きな隙を晒してしまった夜朗は、自分よりも、エディたちのことを真っ先に案じていた。そして結論を言えば、その心配は全くの無駄だった。
「―――」
「「「っ……!」」」
頭を揺さぶられる感覚に、武器人二人と夜朗が体のバランスを崩す。倒れた三人は、頭を抱えて悶絶していた。
「痛っ……おい、エディ! いきなり何するんだよ……!?」
「正当防衛です。技の性質上、夜朗を巻き込まないようにするのは不可能ですから。それにそもそも、夜朗がだらしないからここまでしないといけなくなったんですからね」
「ぐぅ……」
正論を出されて、何も言い返せない夜朗。……エディがやったのは、特定の周波数を持った声で鼓膜と三半規管を揺さぶるというものだ。耳を塞げば防御できるのだが、攻撃が来ることを事前に知らなければ防ぎようがないので、夜朗はまともに食らってしまったのだ。因みに、愛美はエディが耳を塞いだので無事。また、使用者であるエディ自身は影響を受けないのでこちらも無事だ。まともに食らった夜朗がすぐに復帰したのは、前にも何度か受けているからだろうか?
「それに、伏兵も仕留められましたし」
「伏兵?」
「そこです」
エディは通路の奥を指差しながら、伏兵の存在を示す。……見れば、確かに武器人らしき少年が伸びていた。隠れていて、機を見て夜朗を奇襲するつもりだったのだろう。
「どうです? 少しは感謝してもいいんですよ?」
「……助かった」
勝ち誇ったようにそう言うエディに、夜朗は渋々頭を下げる。……彼は酷い目に遭ったが、エディの行動は、結果的には正解と言えるだろうからな。
「それで、この子達はどうしましょうか?」
「それだよな……」
戦闘を終えて。エディと夜朗は、倒した武器人たちの処遇について悩んでいた。襲ってきたとはいえ、彼らも一応は勧誘の対象なのだ。このまま放置しておくことも出来ない。だからといって、そのままにしておけば、目を覚ましたときに再度攻撃される可能性もある。
「とりあえず、適当に拘束するか?」
「それが無難ですかね」
エディはロープを取り出すと、気絶した武器人たちを縛り上げようとする。
「―――だ、駄目……!」
「え?」
しかし、通路の奥から人の声がして、その手を止めた。……通路から現れたのは、一人の女性。頭を抱えてふらふらしながらも、必死にエディたちのほうへと歩いてくる。
「そ、その子達に手出ししないで……!」
「……もしかして、彼らの担当官ですか?」
「そ、そうよ……!」
エディの質問に、女性ははっきりとそう答えた。立っているだけでやっと、という様子だが、意地と執念でエディたちを睨みつけている。
「エディ、担当官って確か……」
「ええ。「キャプチャー」が魔族を使役する際、指令・管理・監視などを行う人間のことです」
エディの話す「キャプチャー」の魔族担当官とは、使役している魔族に指令を与えたり、体調やスケジュールの管理を行う者。魔族が奴隷扱いされていることを考慮すると、担当官は主の立場にあるわけだ。この女性は、この武器人たちの担当官なのだろう。
「その子達を殺さないで……! その子達は、私たち「キャプチャー」が無理矢理従えているだけなの……!」
「ええ、ちゃんと理解していますよ」
足元が覚束ないながらも、必死にそう訴える女性担当官の懇願に、エディはそんな言葉を返した。
「私たちは魔族を殺しません。寧ろ、魔族を助けるために活動しているんです」
「魔族を、助ける……?」
「ええ。魔族を弾圧から解放する。魔族を殺したり、奴隷のように使役するようなことは無くして、人間と魔族が共に歩んでいける世界を構築するのが目的です」
女性担当官が武器人の少年たちを庇ったことから、彼女も自分たちの理念に共感できる。そう踏んだエディは、早速説得に掛かった。
「……そんなの、綺麗事だ」
「ア、アルマ……!」
そんなエディに、気を失っていたはずの武器人が一人、起き上がってそう言った。女性担当官の台詞から、アルマというらしい。……「キャプチャー」の魔族には名前がないようなのだが、彼女がつけたのだろうか?
「魔族は所詮、人間の道具でしかない……俺の仲間だって、使えなくなったら処分されていった。俺が入ったときは七人いたこの部隊も、今ではたったの三人だ。それだって、本来なら別の奴が補充されているんだ。そうやって、俺たちは消耗品にされる運命なんだよ」
「その運命、変えたくありませんか? そこの彼女と一緒に」
「……っ!?」
自虐めいた武器人の言葉に、エディはそう問い掛けた。エディは続ける。
「私たちは、あなたたちを歓迎します。私たちは、理想を同じくする者に寛容ですから」
「だから、俺たちは―――」
「「綺麗事」というのは、それが理想であるときに出てくる言葉ですよ?」
「っ……」
「それに、彼女のことが大切なんですよね? 私たちは人間も大歓迎ですから。そこのだっさい男子も人間ですし」
「だっさい言うな」
エディの台詞に夜朗が突っ込むも、誰も構わない。そんなことよりも、武器人の少年がエディに論破されているほうが重要だからだ。
「……アルマ、俺はこいつらに賛同したい」
「俺も……」
「カルマ、ナルア……そうか」
そして、他二人の武器人たちも起き上がり、エディに共感していた。……仲間の声を受けて、アルマは女性担当官のほうを向いて、こう言った。
「……俺が行くと言ったら、あんたも来てくれるか?」
「……! え、ええ、勿論よ……!」
「決まりですね」
そういうわけで、エディ班の担当区画は無事に終わるのだった。……丸く収まってよかったな。