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魔族(あね)と俺の共同戦線  作者: 恵/.
第一話 日本・闇天使編
3/60

シャワーシーンだけど全然サービスカットじゃない件

 ……その頃、蝶香は。


「……ふぅ」

 服を脱ぎ、当然全裸になって、シャワーを浴びながら。蝶香はそっと溜息を吐いた。

「……駄目よ。夜朗は、弟。弟なんだから」

 そして、自分に言い聞かせるかの如く、独り言を繰り返す。……蝶香はツインズという魔族だ。この種族は、ホルモンバランスの影響を受けやすい。例えば、女性である蝶香が女性ホルモン過多になっている場合、異性の匂いに強く反応して―――平たく言えば、発情してしまう。これは別に、女性ホルモンの影響だけではない。だが、そもそもツインズという種族は、繁殖に特化している。相手に合わせて性別を変え、確実に繁殖できるように進化したのだ。故に、ホルモンバランスによっては、激しく劣情を催す。そんな傾向にある。

「これはただの生理現象よ。別に、夜朗のことなんて……」

 そして彼女は、長い間、夜朗と一緒にいた。特に密航中は体臭を落とせないような状況で、しかも狭い場所で、過剰接触を余儀なくされていたのだ。そうなれば、ただでさえデリケートな蝶香は、彼を異性として意識してしまう。それが例え、弟分であっても。

「それに……私は魔族。夜朗は人間。違う種族なのよ」

 けれども。そんな蝶香を踏み止まらせるのは、種族の壁。種族の違いを意識すると、どうしても踏み越えられなくなる。いや、そのお陰で踏み越えずにいられる、というべきか。

「……そうよ。だから、私と夜朗は、絶対に」

 しかし、蝶香は忘れていた。―――魔族とは、人間から派生したものだ。つまり、人間も魔族も、元は同じだったということを。故に、種族の違いなど、精々人種の違い程度だということを。まあ、人間たちが魔族を差別している世界なのだから、そうなってしまうのも無理ないが。



  ◇



 ……夕刻。


「……」

 夕焼けの街中で。ランドセルを背負い、一人で歩いているのは、女子小学生―――愛美だった。

「……ふぅ」

 そして彼女も、どこかの魔族少女よろしく、そっと溜息を吐いていた。

「……」

 しかし愛美の場合、独白するようなこともなかった。ただ、何かを憂うような表情で、夕日を見つめているだけだった。或いは、他に出来ることがなかったのかもしれないが。



 ……その頃、夜朗たちは。


「……うまい」

「ほんと、こんなおいしいご飯、いつ以来かしら?」

 宿の食堂にて。夜朗と蝶香は夕食を取っていた。テーブルに並んでいるのは、沖合いで獲れた魚介類。刺身や天麩羅、煮魚に焼き魚など、見事に魚一色だ。一応貝や蟹などもあるが、魚類が圧倒的過ぎる。

「あらあら、そんな、大袈裟ねー」

 そんな彼らに、店主の女性は嬉しそうにそう言った。……夜朗たちの場合、密航をしていたせいで、まともな食事が出来なかっただけな気もするが。

「それで、姉弟での観光はどうだったの?」

「はい。とっても楽しかったです」

 彼らはチェックインした後、二人で町を散策していた。とはいえ、それは観光ではなく、彼らの目的―――その下調べのためだったが。

「いいわね~、姉弟仲が良くて。うちの子供たちもそれくらい仲良しだと助かるんだけど」

「あはは……」

 実際は小便引っ掛けたり喧嘩したりなのだが、それは言わなくていいことだった。お食事時だし。

「蝶香、俺のサザエやるから、鯖の味噌煮くれ」

「あんた、まだサザエ食べられないの? 好き嫌いしてたら駄目よ?」

「お前が鯖嫌いだからトレードしようって言ってるんだろ?」

「……分かったわ。ついでに天麩羅も頂戴?」

「蟹身をくれるならな」

「あらあら、ほんとに仲良しね」

 食事のトレードを、店主の女性は微笑ましそうに眺めていた。……しかし、実際のところは違う。二人とも、本当は苦手な食材などないのだ。ただ、自分が一番食べたいおかずを寄越してもらってるだけだ。普段なら断られるであろう取引なのだが、今は店主の手前、仲良しの振りをしなくてはならず、取引が成立しやすくなる。故に、水面下での駆け引きが生じているのだ。

「ははは」

「うふふ」

「あらあら」

 表面上は和やかだが、その実緊迫した空気に、当事者以外は一切気づかないのだった。



  ◇



「ふぅ……結構食ったな」

「そうね。あんたがこれでもかってくらいにねだるからね」

「それはお前もだろ? そんなに食ってると太るぞ」

「馬鹿ねぇ。それは普段から食っちゃ寝してる人でしょ? 私は普段、そんなに食べないし。日頃の運動も欠かさないから問題ないのよ」

「それで全体的に脂肪が足りないのな」

「……喧嘩売ってんの?」

 食後、部屋に戻った夜朗と蝶香。相も変わらず口論ばかりだ。

「大体、それはホルモンバランスと種族特性のせいだし。個人の問題じゃないから」

「お、おい……壁に耳ありだぞ」

「平気よ。そういう心配がない場所を態々選んだんだから」

「そういう問題でもないだろ」

 自分の秘密を―――魔族であると特定されるであろう情報を口走ってしまった蝶香。夜朗は彼女を諌めるが、蝶香は全く気に留めていない。無警戒だな、おい。

「ここは奴らの勢力下なんだぞ? 何で、故郷の国でドンパチやらないといけないんだよ?」

「これからドンパチやりに行くのに、何でそんなに弱気なのよ?」

「俺たちは隠密行動が基本だろうが……」

 夜朗は疲れた様子でそう呟いた。……どうやら今の蝶香は、ホルモンバランスが男性側に傾いているらしい。大胆不敵で物怖じせず、細かいことは気にしない。男の夜朗ですら心配になる男らしさだった。

「さ、そろそろ行くわよ」

「それはいいとして、せめて見つかせないようにしてくれ……」

 入り口から堂々と出て行こうとする蝶香に、夜朗は窓を指差しながらそう言った。要するに、そこから外へ出ろということか。

「あら、何弱気になってるのよ?」

「弱気とかじゃなくて、見つかったら一発でアウトなんだから、用心しろって話だろ」

「大丈夫よ。二人で夜の散歩とでも言えば。あんまりこそこそしてると、却って怪しいじゃない」

「それもそうだが……」

 確かに、理屈の上ではそうだろう。だからといって、そうも豪胆な態度を取れるのは、果たしてホルモンの影響だけなのか。元々の性格も影響しているのではないかと思う夜朗。

「それにグズグズしてると、それこそ問題よ? 当初の目的を果たせないんだから」

「はぁ……ったく、分かったっての。行けばいいんだろ、行けば」

「最初からそうしなさい」

 最終的には、夜朗が折れた。蝶香の言う通り、宿の入り口から素直に出入りすることに。

「……はぁ」

 だが、例え怪しまれなくても、別の意味で勘繰られるんじゃないかと思う夜朗であった。

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