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魔族(あね)と俺の共同戦線  作者: 恵/.
第二話 中国・歌姫編
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そしてすんなり突入


 ……さて、蝶香たちのチームはどうなのか。


「蝶香。悪かったな」

「ううん、気にしないで」

 打ち合わせのときに、フェアリーは蝶香へ謝罪していた。夜朗と別のチームにしてしまったからだろう。

「エディとスティがあんな調子なのは確かに困るし、仕方ないって割り切ってるわよ。そりゃ、何があるか分からない仕事だけど、少しくらい離れてても問題ないわ」

「……そうか。助かる」

 思ったよりも聞き分けのいい妹に、フェアリーは素直に感謝した。……彼女だって夜朗とは離れたくないだろうに、よく我慢しているものだ。

「っていうか、悪いのは私じゃなくてエディだから。私のせいにしないで頂戴」

「何寝言を……いや、どうせ無駄か」

「そうね。不毛なだけだから、止めておきましょう」

 そんな二人に文句を言うスティだが、フェアリーたちはまともに相手をしない。それより、優先すべきことがあるのだから。

「それで基本方針だが。施設に侵入後、二手に分かれたら、俺と蝶香で内部の「キャプチャー」共を制圧。囚われた魔族を解放し、スティが壁をぶち破って脱出。詳細な行動は通信で指示を受けつつになるが、問題は連れ出した魔族の護衛と、連れ出すまでの防衛だな」

「そうね。事情を説明しないと出てきてくれないだろうし、数が多いと護衛も大変だから。多分、牢屋みたいな場所に囚われているんだろうけど……入り口を抑えられると面倒だから、防衛は二人で、説明は一人だけが無難かしら?」

「その場合……説明するのって、もしかして私?」

「だな」

「そうね」

 打ち合わせの中で、誰かがやらなければならない説明役。囚われた魔族に事情を話す役割は、スティが候補となった。

「だって、スティは単体戦闘能力ほぼゼロだし」

「だな。俺や蝶香の風魔法は足止めに向いているが、お前のは対人よりも対物向きだ。足止めは俺たちに任せて、魔族をしっかり説得して来い」

「うっ……私、そういうの苦手なんだけど」

「細かいことはどうでもいいのよ。要はさくっと説明して引っ張ればいいんだから。一応、残りたい人は残すってことだけど」

「簡単に言うわね……」

 なんだかんだで、説明役はスティで確定。……っていうか、壁抜き役なのに戦闘力皆無なのか? 対物ってことは、人相手には使えない危険な攻撃でもあるんだろうか? それで対人戦闘ができないとか。

「じゃあ、引き受けるけど……その代わり、やっぱり防げませんでしたって言うのは駄目よ?」

「分かってる」

「大丈夫よ。私たち兄妹を信じなさい」

「だったらいいけど……」

 そうして、エディチームとは対照的に、こちらは役割分担がしっかり決まるのだった。



  ◇



 ……そして、とうとう作戦決行となった。


「さ、行くわよ。私の部下はもう配置に着いてるわ」

「ええ」

 グナリの指示を受け、一同は移動を開始。手入れのされていない林を抜け、目的施設の近くまでやって来た。

「アルフ。状況はどうなってるの?」

「あ、グナリ! 助っ人連れてきたの?」

 そこでグナリが合流したのは、赤毛の少年だった。あどけない顔立ちと華奢な体躯。恐らくはまだ十代前半であろう彼は、グナリの顔を見るなり嬉しそうな表情を見せた。

「いいから状況説明」

「あ、うん……。えっと、全員配置について、待機中だよ。いつでも突入できるよ」

「そう。じゃあ、十分後に動くわよ」

 そんな少年に、グナリはあくまで簡潔な用件しか言わない。素っ気無いが、状況を考えれば当然だろうか。

「全員に通達。十分後に陽動開始。精査班はそれぞれ事前通達した回線に通信を絞って。今後は通信係を経由して報告するように。それから、事前精査の結果も報告させなさい」

「う、うん、分かった……」

 グナリの指示を受け、少年は通信機と思しきカードで連絡を取る。そうして、作戦実行のときは徐々に近づいていった。



  ◇



 ……十分後。


「……陽動開始! エディ、突入して!」

「了解です!」

 グナリの指示を受け、エディたちは施設の前まで走った。そして、近くの茂みに身を隠し、そっと様子を窺う。

「陽動はうまくいってるみたいですね……」

 見れば、施設の前では数人の魔族が暴れていた。マーメイドの少女が水の魔法で壁を濡らし、警備員の気を惹いている。彼女を捕らえようとしたのか、中から数名の人間―――いや、どうやら魔族らしい―――が出てきて、マーメイドの少女のほうへ駆け出す。獣人タイプの魔族がマーメイドの少女に爪を伸ばすが、彼女は水の魔法で迎撃。水の塊をぶつけて吹き飛ばし、蛇のようにゆるゆると逃げ出した。マーメイドの少女を追って、魔族たちは施設を離れていく。

「……これで、警備は大分手薄になりましたね」

「だな。見たところ、入り口の警備員はただの人間っぽいし。拳銃で武装してるから、気をつけないとだがな」

「それなら私がやるわ」

 蝶香は茂みの陰から風の魔法を発動。風の塊で殴りつけて、あっさりと警備員を昏倒させる。

「……にしても、大きな施設ね」

 侵入する準備が整って。スティが漏らしたのは、施設の外観についてだ。……打ちっぱなしのコンクリートで覆われた「キャプチャー」施設は、とにかく巨大だった。愛美ならば、まるで小学校の校舎のように思っただろう。校舎と違う点があるとすれば、一階建てであることと、窓が全くないことだろうか。

「どうやら、入り口から少し行ったところで左右に分かれるみたいです。右は私たちが行きますから、フェアリーたちは左をお願いします」

「了解」

 分担を決めつつ、エディたちは施設に侵入する。内部にも何人か人間がいたが、姿を見られる前に蝶香とフェアリーが昏倒させる。そうして進んでいき、やがて分岐点に差し掛かった。

「それでは行ってきますけど……フェアリー、私がいなくても大丈夫ですか?」

「当たり前だ。スティも蝶香もいる。心配するな」

「私は心配です……スティがフェアリーに変なことしないか」

「するわけないでしょ!? エディこそ、新人にみっともない姿見せないで頂戴」

「スティにだけは言われたくありません」

「もう既にみっともないからな、二人とも」

 分かれる寸前。エディとスティは案の定、喧嘩を始めてしまった。……班を分けて正解だったな。

「……フェアリー、さっさとスティを連れて行ってくれ」

「了解した」

「夜朗、気をつけてね」

 そうして彼らは、それぞれの担当区画へと移動していった。

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