作戦なんて、大雑把で適当なほうが存外うまくいくものさ
◇
……問題は色々とあったものの、彼らはどうにか進んでいき、集合地点まで辿り着いた。
「さてと……エディから聞いてるとは思うけど、もう一度説明するわよ」
グナリは一同を集め、作戦手順の再確認を行う。
「まず、私が部下に指示して、「キャプチャー」施設の警備を引きつけるわ。つまり、陽動ね」
「その後、私たちが突入します。最初は六人同時に、その後二手に分かれて内部を捜索します」
まずはグナリたちが陽動し、エディたちが突入。そして手分けする。シンプルな作戦だな。
「一応、外からも援護要員をつけるけど。正直、あまり期待しないで頂戴。あくまで、エディたち強襲捜索班がメインよ」
規模が大きい施設のようだが、内部探索はたったの六人。正直、全然人手が足りない。それでもやるのだろうか?
「囚われた魔族を見つけたら、援護要員が護送するわ。分かれるときは、壁抜きが出来る人をそれぞれに入れて頂戴」
「壁抜きが出来るのは、うちだとスティだけでしょうけど……夜朗班だと、愛美にお任せできますか?」
「うん……多分、大丈夫」
「そうなると、班ごとに分かれたほうがいいですね」
「ちょいまち」
とんとん拍子で話が進み、チーム分けも普段通りにしようとしたら、フェアリーが異議を唱えた。
「蝶香とエディは交換して欲しい。……作戦中にエディとスティが喧嘩したらまずいからな」
「ちょ、フェアリー……!? さすがの私もそのくらい自重しますから……! それにそれなら、スティと愛美を入れ替えれば―――」
「アホか。愛美を慣れない面子の中に入れられるか。それに、今までどれだけ作戦中に喧嘩して、危なくなったんだと思っている? 折角、他と交換が出来るんだ。この機会に、少し反省しろ」
「そ、そんなぁ……」
日頃からエディとスティの喧嘩に悩まされていたフェアリーは、これを機に、彼女を反省させることに。……うん、喧嘩の光景が目に浮かぶな。
「グナリ、それでいいか?」
「そっちのことは、私は関知しないわよ」
「だそうだ。蝶香もそれでいいな?」
「別にいいけど……」
フェアリーの提案を、グナリも蝶香も了承した。蝶香のほうは不服そうだったが、事情が事情だからなのか、不満は口にしない。
「うぅ……フェアリーのいけず」
「ともかく、魔族を集めたら、壁を抜いてそこから外へ。エディ班が分かれるなら、内部構造を覚えてもらう必要はなさそうね」
チーム換えを強制されていじけるエディ。彼女には構わず、グナリは作戦の説明を続けた。
「感知能力のある子に内部を精査させて、全員救出できたら撤退してもらうわ。エディ、フェアリー、これを」
そしてグナリは、エディたちに何かを渡した。一見すると、白紙のカードに見えるが……何かのアイテムなのだろうか?
「それを使えば、短距離だけど音声通信が出来るわ。今までみたいに、伝達係を配置するのは手間だから、今後はこういう形で連携を取ることになりそうね」
このカードは、どうやら通信機器らしい。蝶香たちの脳内チャットと、原理的には同じなのだろう。魔族の中には、こういうアイテムを作るのに特化したものもいるらしいな。
「ふむ……俺と蝶香が同じ班である以上、こういうものはあったほうがいいな」
「っていうか、今までが不便すぎたのよね……」
スティの言うように、今まではかなり大変だった。テレパシーのような能力を持った魔族を司令部に配置し、襲撃班に命令を送っていたのだが、この方法だと相互通信が出来ない。つまり、現場でイレギュラーな事態があっても、指示を仰げなかったのだ。それも、このカードによって改善されるだろう。
「撤退後の逃走経路と集合場所はエディたちに教えてあるわ。……一応はこんなところだけど、何か質問は?」
「そうだな……夜朗たちは、何かないか?」
エディがいじけて使い物にならないので、代わりにフェアリーがそう尋ねる。エディ班は予め聞いていたことも多いだろうが、夜朗たちは初めて聞かされただろうからな。
「陽動で全部の警備が引きつけられるわけじゃないし、非戦闘員もいるだろ? そういうのはどうするんだよ?」
「陽動はあくまで、戦力を分散させるものよ。過度な期待はしないで。スムーズに侵入するためだと思って頂戴。それと、非戦闘員は気絶でもなんでもさせればいいじゃない。その辺はそっちに丸投げするわ」
夜朗の質問に、返ってきたのはご尤もな意見。……もしかして、この規模の施設には突入したことがないのか? だから、その辺のことは分かってないとか? そんなわけないよな……?
「じゃあ、私も一ついいかしら? もし、囚われてる魔族が救出を拒否した場合、どうすればいいの?」
「……そんなこと、あるの?」
続く蝶香の質問に、グナリはそんな疑問を返した。……不当に囚われた魔族が、施設から出て行きたくないということがあるのだろうか?
「前に一度あったの。そのときは規模が小さかったから、十分に話し合う時間もあったんだけど……今回は、ちょっと無理そうだから」
「ああ、そういえばあったな。確か、マーメイドの女だったっけか?」
「ええ、その子よ。……あのときは、結局、無理に連れ出せなくて置いてきたんだけど」
「なるほどね……そういうこともあるか」
過去にあった予想外の事態を聞いて、グナリは唸るように呟いた。暫し考えた後、対応を蝶香に伝える。
「その場合、無理に連れ出さなくていいわ。ただし、必ず報告はすること。でないと、内部精査班が混乱するわ」
「了解」
質問も終わり、これで説明も終了だな。
「じゃあ、時間までここで待機。時間になったら移動するわよ。それまで各自休憩するなり、作戦会議するなりして頂戴」
「「「「了解」」」」
……というわけで、作戦開始までの自由時間となった。各自、突入時のチームに分かれて、事前の打ち合わせをすることに。
「うぅ……フェアリーと離れ離れなんて、この世の終わりです」
「いくらなんでも大袈裟だろ」
さて、こちらはエディ、夜朗、愛美のチーム。フェアリーにチーム換えを強制されたエディが、未だにいじけていた。というか落ち込んでいた。
「夜朗は寂しくないんですか……? 蝶香と離れ離れなんですよ……? あ、愛美に乗り換えたから平気なんですね」
「だからなんでそうなるんだよ……。そりゃ、蝶香と離れるのは不安だけどさ。別に一人っきりなわけじゃないんだ。フェアリーやスティがついていれば、滅多なことがなければ大丈夫だろ?」
「……少し、蝶香に同情しました」
「何でだよ……?」
「えっと、二人とも……その、いいの? 打ち合わせしなくて」
しかしながら、エディが終始こんな調子なので、こっちは全然打ち合わせが進まないのだった。……大丈夫なのか、本当。




