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魔族(あね)と俺の共同戦線  作者: 恵/.
第二話 中国・歌姫編
21/60

何もないと思っていたのに、何かありました


 ……翌朝。


「……んっ」

 夜が明けて、夜朗はゆっくりと瞼を開けた。……今日は何故か目覚めがいい。今までで一番―――というのは大袈裟だが、そう言ってもいいくらいには気分が良かった。妙に体が温かく、気持ち良いのだ。

「……すぅ」

「……ん?」

 と思っていたら、夜朗の耳に妙な音が聞こえていた。……すぅ。それは、誰かが呼吸をした音だろうか。しかし、それは夜朗のものではなかった。では一体、誰のものか?

「……!?」

 それに気づいて、夜朗は慌てて目を覚ました。瞼を開けて、弾かれるように布団を捲る。

「……すぅ。……すぅ」

「……なんで、愛美が?」

 夜朗の懐には、愛美がいた。彼の服にしがみつき、すやすやと寝息を立てている。……隣の布団で寝ていたはずなのだが、いつの間にか潜り込んだのか?

「……んっ」

「あ……」

 すると、規則正しい寝息を立てていた愛美が、身じろぎした。そろそろ目を覚ますのでは?

「……夜朗お兄さん? おはよー」

「あ、ああ、おはよう……」

 そして案の定、愛美は目を覚ました。まだ完全には覚醒していないのか、どこかぼんやりとしている。

「むにゅ……」

 まだ寝惚けているのか、愛美は可愛らしい声を出しながら、夜朗の胸に顔を埋める。……どうやら、事の重大さに気づいていないらしい。まあ、この状態では仕方ないだろう。

「……すぅ」

「……どうする? つーか、どうなってるんだよ?」

 そしてそのまま愛美が二度寝を開始したことを確認し、夜朗は焦ったように呟いた。……今までの経験から言って、この状況を蝶香に見られれば、まず間違いなく誤解される。少し前ならまだしも、エディと会ってからは、彼女によって「夜朗ロリコン説」が植えつけられてしまった。今の蝶香なら、あらぬ誤解をすること間違いなしだ。そもそも、何故愛美はこちらの布団にいるのか。隣の布団で寝ていたはずなのだが、寝惚けて潜り込んだのか。だとしても、それは初めてのことだ。彼女と共に行動するようになったのはここ最近だが、同じ場所で寝ていてもこのような事態に陥ったことはない。温泉でリラックスした上にちゃんとした布団で眠って、気が緩んだのか。そういう夜朗だって、普段ならば、物音一つで目を覚ますことだって出来たはずだ。それなのに、朝までこの状況に気づかなかったのだから、相当油断していたらしい。

「蝶香が起きたら……絶対死ぬな、うん」

 そして夜朗は、今後予想される最悪の未来を思い描き、絶望した。……もしもそうなれば、夜朗は蝶香から、折檻という名の死刑に遭う。それだけは絶対に避けなければならなかった。

「……で、どうすればいいんだ?」

 幸い、蝶香はまだ寝ているようだ。愛美も再び眠っているし、暫くは大丈夫だ。しかし、このままでいても、いずれは地獄がやって来てしまう。早急に対策を取らなければならないだろう。とはいえ、愛美はしっかりと夜朗の服を握っているし、引き剥がすのは難しい。下手なことをすれば、起きてしまって、ちょっとした騒ぎになりそうだ。

「……うん。俺も二度寝するか」

 そんなことを考えていたら面倒になったのか、それとも腹を括ったのか、自分も二度寝することにした夜朗。……そんなことで大丈夫なのだろうか?



  ◇



 ……三十分後。


「……んっ」

 盛り上がった布団がもぞもぞと動き、中から蝶香が這い出てきた。その姿は、まるでゾンビのようだった。

「ふぁ~……よく寝た」

 久しぶりにゆっくり眠れ、身も心も休まった蝶香。無意識に衣服の乱れを直した後、のっそりと体を起こした。そして、隣の布団に目をやる。

「夜朗……は、まだ寝てるのね」

 まず最初に、弟分の姿が目に留まった。……というか、他の姿が見えなかったのだ。物理的に。

「……あれ? 愛美は?」

 段々目が冴えてきた頃、愛美の不在に気づいた蝶香。布団が膨らんでいないため、彼女のように潜っているわけでもないようだ。

「……多分、トイレよね」

 蝶香はそう自己完結して、それ以上愛美のことは気に掛けなくなった。……それよりも、問題は夜朗のほうだった。

「……夜朗ったら、寝顔は相変わらず可愛いんだから」

 蝶香は、未だに眠り続けている夜朗に近づき、そんなことを呟いた。……彼らは、姉弟同然に育ってきた中だ。そうでなくとも、長い間、様々な国で共に行動している。当然、寝顔の一つや二つ、見たことはあった。それでも、ここまでじっくりと眺めたことは、あまりない。

「……ちょっとだけなら、いいわよね?」

 何がちょっとなのかとか、何がいいのかとか、そもそも誰に聞いているのかとか、そんな疑問を置き去りにして。蝶香は夜朗に近づいていく。そして、彼の布団に手を掛けた。

「む、昔は一緒に寝てたんだし……少しくらいなら、許されるわよね?」

 どうやら、夜朗の布団に潜り込みたいらしい。……まあうん、昨日は色々あったんだから、少しは好きにすればいいさ。

「じゃ、じゃあ、失礼して……え?」

 しかし、そんな彼女に罰が当たったのか、蝶香は布団を捲って凍りつく。……夜朗の布団には、既に先客がいた。愛美が、彼の懐ですやすやと寝息を立てている。つまり、同衾しているのだ。

「……愛美? どうしてこんなところで寝てるのかしら?」

 顔を強張らせて、優しく問い掛ける蝶香。しかし、寝ているのだから答えるはずもない。

「……そういえば、エディが変なこと言ってたわね。まさかとは思うけど……夜朗?」

 そして、蝶香の手が、夜朗の首に当てられた。……その柔らかな手は、彼の首を掴み、そして握り潰そうとする。

「死に絶えろこの変態がぁ!」

「※☆≠×?!∵~~~」

 ……まあ、もうお約束過ぎる展開なので、ここから先は割愛で。



  ◇



 ……そして朝食時。


「……」

「……」

「どうしたんですか二人とも? そんなに黙りこくって」

 食堂にて。ただもくもくと食事を続ける夜朗と蝶香に、エディはそんな疑問を投げ掛けた。

「もしかして、夜朗が愛美に手を出して、気まずいんですか?」

「「ご、ごほっ……! げほっ……!」」

「え……冗談のつもりだったんですか、本当なんですか……?」

 いつものように笑えない冗談を口にするエディだが、二人が揃って咽たのを見て、それが冗談で済まないことを悟った。そして、珍しく後悔している模様。

「……夜朗。性欲の権化だからって、まさかそこまで見境ないとは」

「……」

 エディの不名誉な発言にも、夜朗は反論しなかった。返す言葉がないのではなく、蝶香に喉を潰されて喋れないのだ。

「えっと、その、ごめんなさい……私のせいで」

「愛美のせいじゃないわよ。夜朗がゴミ屑だからなのよ」

 一連の原因を作った張本人である愛美は、申し訳なさそうに謝罪する。だが、蝶香はあくまで夜朗が悪いというスタンスらしい。

「夜朗が死ぬべき最低野朗なのはいいですけど、作戦に支障が出ないようにしてくださいね」

「分かってるわよ」

「……」

「うぅ……」

 そんな感じで、気まずい朝食を取り続けることになるのだった。

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