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魔族(あね)と俺の共同戦線  作者: 恵/.
第二話 中国・歌姫編
17/60

不適切に修羅場る


 ……というわけで、愛美はエディに連れられて、彼女たちの部屋へとやって来た。


「戻りました」

「おう、早かったな」

 エディたちを出迎えたのは、金髪の少年だった。さらさらの金髪はやや長く、エメラルドのような瞳を半分ほど隠している。身長は高くも低くもなく、歳相応。どちらかと言えばほっそりとした体つきは、その顔立ちも相まって、中性的な印象を受ける。彼が、話に聞くフェアリーなのだろうか?

「で、夜朗たちはどうした?」

「廊下で修羅場です」

「……あいつらは相変わらずだな」

 エディがその原因を作ったとも知らず、少年は溜息を漏らした。……つーか、夜朗と蝶香の修羅場って、よくあることなんか。

「こんなところで修羅場なんて、面白そうね。煽ってこようかしら?」

「スティ。止めておけ」

 そして、部屋の中にはもう一人いた。スティと呼ばれたのは、赤毛の少女。下半身に届くほどの赤毛を三つ編みにし、ピンクのチャイナドレスを着た彼女は、ルビーのように真っ赤な瞳と、人を食ったような笑みが特徴的だった。

「それで、この子は?」

「夜朗たちが連れてきた子です」

「ふーん。じゃあ、例の?」

「でしょうね」

 そして彼らは、愛美に注目していた。……蝶香の話を聞いているだろうから、彼女が闇天使であることにも気づいているはずだ。闇天使は魔族の中でも都市伝説のようなものだから、興味津々なのも仕方ない。

「お名前、聞いてもいいですか?」

「あ、えっと……三夜愛美、です」

「愛美ですか。いい名前ですね」

 知らない人に囲まれて、やや緊張気味の愛美。対してエディは、優しく微笑みながら、彼女の名前を褒める。

「あ、自己紹介がまだでしたね。私はエディです。種族は歌姫ディーヴァ。こっちがツインズのフェアリーで、この頭の悪そうな赤毛の変化妖怪シェイプシフターがスティです」

「ちょっと、私の扱い酷くない!?」

「当然の扱いですよ?」

 あまりに不名誉な紹介の仕方に憤慨するスティ。しかしエディは、何を言っているのか? とでも言いたげに首を傾げていた。……こちらでは、エディとスティが喧嘩しまくるのか?

「当然って何? 私、そんなに馬鹿じゃないわよ?」

「それは意外でした。スティの名前は馬鹿の代名詞、馬鹿といえばスティ、スティといえば馬鹿というのが世界の常識だとばかり……」

「そんなわけないでしょ? 馬鹿じゃないの?」

「馬鹿はスティのほうです。この腐れ―――(自主規制)―――が」

「はぁ!? 私の―――(自主規制)―――は腐ってないわよ! 寧ろあんたの―――(自主規制)―――のほうが腐ってるわよ!」

「私はちゃんと洗ってますから。スティと違って」

「そう、そこまで言うなら見比べてみようじゃない! フェアリー! 審判して!」

「望むところです」

「望むな。っていうか、ガキみたいな喧嘩するな。そして―――(自主規制)―――、―――(自主規制)―――連呼するな」

 エディたちが汚らしい単語(それも、愛美の教育上良くない部類の)を連発しながら口論を始めていた。しかし、その矛先がフェアリーに向いたことで、彼に仲裁される。……っていうか、年頃の女の子が―――(自主規制)―――なんて言うなよ。

「……悪いな。うちの女共は、喧嘩するほど仲が良いって奴なんだ。許してやってくれ」

「「仲良くなんてないから!」」

「……ほらな」

「……うん」

 喧嘩している割に息がぴったりなエディたちと、そんな彼女たちに溜息を漏らすフェアリー。彼らの姿は、まるで夜朗や蝶香、そして自分を見ているかのようで、愛美は同情的な気持ちになった。

「エディのアホ!」

「スティのうすのろ馬鹿!」

 一方のエディたちは、不適切な単語を禁じられたせいなのか、口論のレベルが一気に幼稚になっていたのだった。



  ◇



 ……それから暫くして。エディの部屋に夜朗と蝶香がやって来た。


「お待たせ~」

「ああ、確かにそこそこ待ったな。……それで、隣にいるのは誰だ?」

「何言ってるのよ? 夜朗に決まってるじゃない」

「……悪い。俺には別人にしか見えない」

 フェアリーの指摘通り、蝶香の隣に立つ夜朗は、顔の形が変わっていた。顔が全体的に腫れ上がり、輪郭も歪んでいる。……蝶香から暴行されたのだろうか?

「ま、当たり前の制裁よね」

「な、納得がいかねぇ……」

「エディ……お前の仕業か?」

「何のことです?」

「……やっぱりか」

 フェアリーは状況から、全ての元凶がエディであると推理した。当のエディはすっ呆けていたが、彼には丸分かりだ。

「悪いな夜朗。お前はエディと同い年だから、色々とからかって遊びたいんだろう。許してやってくれ」

「まあ、それはいいんだけどさ……」

「ていうかフェアリー、私が夜朗に気があるみたいに言わないでください。こんな、女の子の尻を追いかけるしか能のない男を誰が相手にするんですか?」

「……夜朗? まだお仕置きが足りないのかしら?」

「も、もう止めてくれ……!」

「エディ、お前はもう黙ってろ」

 またもやエディの悪ふざけが始まったが、フェアリーがどうにか仲裁する。……っていうか、フェアリーがいなかったら夜朗が確実に死んでるよな。

「あ、夜朗。色々あって忘れてましたが、渡すものがあるんでした」

「その色々はお前が起こしたんだろ……。で? 何だよ?」

「これです」

 一度場が落ち着いたところで、エディが何かを夜朗に渡す。彼女が取り出したのは、細長い棒。黒くて表面がつやつやしているが、金属なのか、それとも樹脂なのか……少なくとも、後者はこの時代ではあまり見ないのだが。

「刀の鞘です。まだ渡してませんでしたから」

「そういやそうだったな……」

 どうやらそれは、夜朗が使う刀の鞘らしい。……そもそも、彼の刀はエディが用意したものなのかよ。

「確かに抜き身のままなのは危ないと思ってたけど、あんまり目立つのはなぁ……今みたいにロッドケースに仕舞えばいいし」

「マントでも羽織ればいいんじゃないですか? 夜朗に似合うわけないですけど」

「喧嘩売ってるのか?」

「私は事実を言ったまでです。それとも、私を襲いたいんですか? 蝶香と愛美だけでは満足できませんか? とんだケダモノですね」

「夜朗……!?」

「頼むからもう止めてくれ……!」

「はぁ……どこから突っ込めばいいのやら」

「フェアリー。フェアリーが突っ込んでいいのは私だけですよ?」

「とりあえず、エディは後でぶん殴るからな」

 メンバーが一気に増えたせいか、またもや収拾がつかない事態に。……一旦切ったほうがいいな、これは。

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