回収終了
……さて、夜朗は。
「っ……!」
今まで、睨み合いになっていた公園で。衝突のタイミングは、唐突だった。
「くっ……!」
離れたところにいる「キラー」が発砲。文字通りそれが引き金になったようで、そこから銃弾の嵐が夜朗を襲った。
「はぁ……!」
さすがに、全方向からやって来る銃弾を全て防ぐわけには行かない。夜朗は背後の外灯を盾にして、刀で受ける弾を最小限にする。更にはジャンプやステップを交え、まるで神業のように弾丸を回避していった。
「ふんっ……!」
そして、それでも避けられない分は、両手の刀で弾いていった。……この超人的な動きも、全ては蝶香を守るため。彼女のために、死に物狂いで身につけたのだ。
「おらぁっ……!」
しかし、逃げてばかりではいけない。前方の敵集団に向かって駆け出し、そのまま弾幕を走り抜けて、突っ込んでいく。
「うらぁっ……!」
「わっ……!」
「ぐっ……!」
そこにいた「キラー」十名を一瞬で昏倒させ、夜朗は次の集団に襲い掛かる。……こちらは問題なさそうだな。
……では、蝶香たちのほうは。
「……ふぅ。第十射目も撃墜したし、さすがにもうないみたいね」
「……ふぅ」
ミサイルを撃墜し続けていた二人は、ようやく一息吐くことが出来た。最後の一発を迎撃してから暫く経つが、一向に来ないということは、もう残弾はないのだろう。
「……そういえば、愛美。一つ聞き忘れてたわ」
「……何?」
「あなた、結局一人なの? それとも、誰か連れてくの?」
「……」
蝶香が投げかけられた質問は、今後の方針を立てる上で重要なものだった。……だが、愛美にとっては、あまり心地の良いものではなかったが。
「……私、一人だけ」
それでも勇気を振り絞って、愛美は蝶香にそう伝える。……自分が孤独な存在であること。それを他人に打ち明けるのは、どうしても抵抗があるのだ。
「そう。じゃあ、さっさと夜朗を拾って退散したほうがいいわね」
しかし、肝心の蝶香は大した反応を見せなかった。……魔族を勧誘したのは今回が初めてではないようだし、こういう状況は割と多いのだろうか。
「でも、あいつ、「キラー」に囲まれてるし……どうやって拾おうかしら?」
「え……? 「キラー」に、襲われてるの?」
「そうよ。奴らを惹きつけてるのよ。まあ、安心していいわよ。あいつ、人間とは思えないくらい強いから。それより、どうやって回収しようかしら?」
夜朗本人よりも、彼を連れ出す方法のほうが心配な蝶香。確かにあの様子なら、まず大丈夫だろうが……要するに、それだけ信頼しているということなのだろうか。
「うーんと……愛美、暫く一人で飛んでいられる?」
「う、うん……」
「そう、良かった。じゃあ、ちょっと連れ戻してくるから、待っててね」
蝶香は愛美から手を離すと、地上へと降りていく。本当に夜朗を迎えに行ったのだろうか。
「……」
残された愛美は、手持ち無沙汰になりながら、空中を漂っているのだった。
……さて、夜朗の元に戻ろう。
「はぁ……、はぁ……、はぁ……」
夜朗は街路樹にもたれかかり、息を切らしていた。……彼が使っている刀は、とある魔族が魔法で作ったものだ。二刀形態では手数が増える分、両腕が戒められることにより負担も増大する。そうでなくとも、両手でそれぞれ攻撃する都合上、体力の消耗は一段と大きいのだ。
「ったく、ここまでさせておいて、実は死んでましたとか言ったら吹っ飛ばすぞ……」
愚痴を零しながらも、夜朗は刀を握り直し、木陰から飛び出す。ライフルを構えていた「キラー」を一人倒すと、勢いのままに次の集団を撃破。横合いからの不意打ち射撃を刀で弾いて、そちらのほうも潰しておく。……彼の奮闘が功を奏したのか、公園付近にいる「キラー」の数は大きく減っていた。夜朗に恐れをなして逃げ出したものもいるらしく、最早数えるほどしか残っていない。その僅かな「キラー」たちも夜朗に怯んでいるらしく、公園内はすっかり静かになっていた。
「……こういうときほど、油断するとやられるんだよな」
夜朗は再度、街路樹の陰に身を隠す。蝶香が合流するまでは、「キラー」をここに惹きつけなければならない。それまで、やられるわけにはいかないのだ。
「……蝶香」
「あら、何よ?」
「……って、蝶香!?」
彼女の身を案じる夜朗の前に、蝶香本人が姿を現した。一体いつの間に……?
「迎えに来たのよ。愛美も上で待たせてるから、すぐに行くわよ」
「へいへい……ったく、元気そうで安心したぜ」
「あら、こっちだって大変だったのよ? またミサイルが飛んできたから、愛美と協力して迎撃してたし」
「大丈夫かよ……?」
またミサイルを撃たれたと聞いて、途端に不安になる夜朗。無論、大丈夫だったから、彼女は今ここにいるわけだが。
「大丈夫よ。愛美の魔法が凄くて、ミサイルを一撃で消し飛ばしてたから」
「マジかよ……!」
愛美の火力を聞いて、夜朗は驚愕する。魔族に協力しているとはいえ、魔法に馴染みのない人間だからなのか。それとも単純に火力が高すぎるからなのか。蝶香は然程驚いていなかったから、多分前者だろう。
「それより、さっさと脱出するわよ。あんたのお陰で「キラー」が少なくなってるけど、またいつ来るか分からないし」
「了解」
夜朗が蝶香に抱きつくと、彼女の魔法で、一緒に上空へと舞い上がる。地上の「キラー」は疲弊しきっていて撃墜する余裕はないし、ミサイルはもう打ち止めだ。二人は何の障害もなく、上空に辿り着いた。
「さてと……愛美が待ってるわ。早く行きましょう」
「それはいいんだが……結局、愛美はついて来るのかよ?」
「そうみたいよ。だからこそ、ミサイルを撃墜してくれたんだし」
「そりゃそうか」
実際のところは、自分が原因なのではないかという罪悪感からの行動なのだが、二人が知る由もないか。
「それで、あいつ一人なのか?」
「ええ。……あんまり触れられたくない話題だったみたい。多分、家族にも黙ってたのね。自分が魔族だってこと」
「……そっか。まあ、蝶香だって、ずっと俺にも黙ってたし、それが普通なんじゃないのか?」
「……そうね。そのせいで、私、夜朗を―――」
「ちょ、その話は後にしろ……! つーかしなくていいから……!」
何気なく口にした話のせいで、蝶香の古傷を抉ってしまう夜朗。慌てて彼女の気を逸らそうとする。
「だ、だったらさ……!」
「何……?」
「愛美を、俺たちの班に入れたらいいんじゃね?」
「……そうね。まあ、その辺はエディとでも相談しましょう」
今後の予定を話し合いながら、二人は夜空を飛行する。