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麗蘭れいらんはいるか?」

 フォレスさんは店の扉を開け、埃っぽい薄暗い部屋の奥に向かって呼びかけた。

 ややあって奥からごぞごそと物音が聞こえてくる。

「おや、フォレスじゃないかい。今日はどんな用だい?」

 着物を着た中年の女性が現れる。

 麗蘭は何でも屋を営む女性で、フォレスさんがこの世界に来る以前からの知り合いだった。

「麗蘭、急いで用立てて欲しい物があるのだが」

 フォレスさんが早口で言うと、麗蘭はあでやかに笑う。

「ふふっ、セイナに使う惚れ薬かい? 媚薬だったら良い物があるよ?」

 麗蘭は暗い店の奥からこちらへとやって来る。

 どっかりと椅子に座る。

 フォレスさんは少し考えて、淡々と言う。

「違う。用立てて欲しいと言うのは、サンタの持ち物一式なのだが」

「おや、サンタとな?」

 麗蘭はテーブルにもたれかかる。

 その拍子に着物の裾から蛇の尾が現れる。

 彼女は異界から来た蛇の化身で、普段は人間の姿をして何でも屋を営んでいる。

「そう言えば、今日はクリスマスだったね。それでサンタの持ち物が必要なのかい。しかしこの世界では、サンタは実在には存在しない妖精のたぐいじゃなかったのかい?」

 麗蘭はフォレスさんの話を聞いて首を傾げる。

「実在しようが、実在しなかろうが、保育園の子どもたちのためにも、サンタの持ち物が今すぐ必要なのだ。子どもたちに夢を与えるのが、サンタの役割なのだろう? サンタは子どもたちにとって、なくてはならない存在だと聞いている」

 フォレスさんは力を込めて言う。

 麗蘭は蛇の尾をぱたぱたと動かす。

「へええ、サンタがそんなに重要な役割を持っているとは知らなんだね。この世界に来て、ずいぶんと経つが、まだまだ知らないことが数多くあるみたいだね。わかった。サンタの所持品を出来る限り揃えよう」

 フォレスさんは短く答える。

「頼む」

 麗蘭は店の奥に引っ込むと、しばらくして赤い服を手に戻って来た。


 *


 十時少し前になって、保育園の門の前に出たセイナさんは通りを見回した。

「フォルさん、早く来ないかしら。衣装もプレゼントも、こちらで準備しているのに。あれからいくら電話を掛けても、カルーアとにゃんたましか出ないし。フォルさんはいったいどこで何をしているのかしら?」

 セイナさんは心配な顔で、腕時計を見る。

 クリスマス会の始まる十時まで後五分しかない。

 急いで着替えてぎりぎりの時間だろう。

「やっぱり他の人に頼めば良かったかしら?」

 セイナさんが額に手を当てて、溜息を吐いた時だった。

 足元に影が落ちる。

 顔を上げると、赤い服を着た人物が二頭の動物に引かせたソリに乗って空を駆けていた。

 セイナさんは口をぽかんと開け、言葉もなく立ち尽くしていた。

「もしかして、フォルさん?」

 セイナさんの顔が引きつり、フォレスさんに頼んだ後悔の念が押し寄せてきた。

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