呼び名
ラブラブ?な短編小説です。
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「メグミー、腹減ったよ。何か作って」
戸を開けるなり放たれた言葉に、メグミと呼ばれた青年は額に青筋をたて振り向いた。腰をおろしていた椅子がその勢いに音をたて軋む。
「メグミ、じゃないっ。恵『メグム』だっ、莫迦!! お前は何回言ったら理解するんだ、孝司!」
「えぇー、いいじゃん。その方が似合ってるし。それより腹減ったぁ。何か作ってよ」
孝司は腹に手をあて、入口のドアにもたれかかった。
へたり込まんばかりのその様子にレポートをする為に机に向かっていた恵は、激高し立ち上がった。
「……お前にはこの状態が目に入らないのか? 俺にそんな暇があるように見えるのか!」
指ししめられた机には、雪崩を起こさんばかりに広がる資料が積み重なっていた。その中心に置かれた真っ白なレポート用紙が逼迫した状況を物語る。
充血した眼をキリキリとつり上げて怒る恵にさすがの孝司も後ずさる。
「だって……」
「『だって』じゃないっ。明日までにこのレポートを教授に提出しないと駄目なんだ。――――食事は自分でなんとかしろよ。自分だって料理できるだろ」
反論をさせない口調で言い切ると、背を向け再び机に向き直る。その背中はこれ以上の討論を完全に拒んでいた。
室内にはパラパラと頁をめくる音だけが聞こえていたが――。
グゥーー。
「孝司、お前なぁ……!」
こめかみに青筋をたてた恵が、怒気もあらわに振り返る。だが、鳴りつづける孝司の腹の音に言葉の力が抜ける。
「……だって」
「なんだよ」
言い淀む孝司に眼光鋭く先を促す。
しばらく迷っていた孝司だったが、下唇を噛むと躊躇いを振り切るように口を開いた。
「…………だって、メグミが作ったのが食べたいのに」
「!」
「なぁ、メグミィ」
甘えた声に耐え兼ねたように、恵は机に手をつき俯いたまま立ち上がるとそのまま孝司を押しのけ部屋を出た。
「……あんまり手間かからないやつだぞ」
「え!? いいのっ。メグミ大好き!」
「…………メグミ言うな」
背を向けているため顔はみえないが、キッチンに向かう恵の耳はこれ以上にないほど朱く染まっていた。