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第五話 初投稿!

前回までのあらすじ。

優からアドバイスをもらいつつ、夢で見た話を小説として完成させた翔。できあがった処女作を褒めてもらい、翔は小説の楽しさを感じ始める――

「これは、叙述じょじゅつトリックと言われる手法だね。かける、こんなのよく知ってたね」


 感心したようにすぐるが言った。

 僕は首を傾げた。


「じょじゅちゅトリック? なにそれ、おいしいの?」

「いや、言えてないし。っていうか、知らないでこれを書いたの!? それはすごいね」


 優が目を丸くさせて言った。

 よくわからないけど、また褒められたので僕は嬉しくなった。照れ隠しにポリポリと頬を掻く。


「で、結局そのじょじゅちゅトリックってなんなの?」

「だから言えてないし」

「うるさいな、言えないんだよ! 悪いか!」


 僕は両手を振り上げて抗議した。

 優は笑いを堪えるように、口元を押さえた。 


「ごめんごめん。叙述トリックっていうのは、読者の先入観を利用して読み手を勘違いさせることで、最期にあっと驚かせるテクニックのことだよ。主人公の夢オチかと思わせておいて、実は主人公が夢の一部だったと最後に気付く。夢が終わるときの主人公の絶望感は、正直ゾクッときたよ。翔の書いた『夢からさめれば』は、まさにこれだろ?」


 僕は大きく目を見開いた。


「おー、本当だ! よくわからないけど、じょじゅちゅトリックになってる!?」

「もうツッコまないよ?」


 そ、そんなテクい方法だったとは全く知らなかった。

 思わず感嘆かんたんの声を上げた。

 


「この話、いつ考えたの?」

「夢だよ。さっきの授業中、居眠りしいたときにみたんだ。僕が主人公で、夢が終わる瞬間、本当に自分が消えるって思っておもわず……」

「それで、授業中大声上げながら目覚めたわけか。納得いったよ」


 優はすっきりしたような表情を見せた。

 っていうか、良く考えたら僕の夢すごいな。


「それで? その小説を今から投稿するの? 小説家になろう……だっけ」


 優はスマホを僕に差し出した。僕はそれを受け取りポケットにしまった。


「うーん、家に帰って見直してからにするよ」

「そっか。頑張りなよ」


 本当はそのつもりだったけど、思いのほかうまくできてしまったので、きちんと完成させた状態で投稿したくなったのだ。

 あー、早く帰りたいな。いや、むしろサボって帰っちゃおうかな!?

 うん、それが良い。スマホより、パソコンの方が編集しやすいしな……。

 僕は下顎したあごをさすりながら、脳内で作戦を練っていった。

 その時、背後から声が上がった。


祭ヶ丘まつりがおかぁ……」


 心臓が大きな音を立てる。同時に、肩がビクンと跳ね上がった。

 こ、このしゃがれた声は……まさか!?

 錆びたロボットのように、僕はゆっくりと首を回した。

 そこにいたのは予想通りの人物だった。


組長オヤジ……」


 あ、あれ。なんか怒っていらっしゃいます? 

 いつにも増して威圧感が強い。もともといかつい顔が、なんだか今日は更に恐ろしい。

 その理由はすぐに知れた。


「誰が組長オヤジじゃ。お前、見え見えの嘘をついて数学の授業をサボったらしいのぉ?」


 なるほど。もう情報が耳に入りましたか。

 どうやらうちの先生たちは横の繋がりが強いらしい。


「な、なんのことですか? 僕はお腹が痛かっただけで――」

「廊下に聞こえるほど大きな声で、『ばっちり仮病だ』と叫んだのはどこの誰じゃろうなぁ、祭ヶ丘君?」


 君付くんづけ!?

 こここ、これはまずい! 組長オヤッさん、ガチで頭に来ちゃってますね!?

 優が頬杖ほおづえをついて、薄い笑みを浮かべた。


「翔、これは観念した方が良さそうだね」

「す、優ぅー……」

 

 僕は助けを求めるように、優に手を伸ばした。

 しかし、その手が届く前に、僕は首根っこを掴まれた。


「来い。その根性叩きなおしてやる」

「た、助けてくれぇ! 東京湾に沈められるっ!」

「あきらめろ。毎年命日には会いに行ってあげるよ」


 こいつ、友達を裏切る気か……!?


「失礼な。裏切るなんて人聞きの悪い」

「だからなんで心が読めるんだよ!?」


 僕は優の眼鏡に向かって叫んだ。

 その時、ふいに後頭部が激しい痛みに襲われた。

 感覚的に、組長オヤジの手によって自分の後頭部が鷲掴みにされているのだと理解した。


「祭ヶ丘。わしに黙らせてもらうか、自分で黙るか選ばせてやる」

「あ、はい。黙らせていただきます!」


 僕はサラリーマンのようにピシャリと頭を下げて、組長オヤジと一緒に教室を後にした。

 職員室で僕に雷が落ちたのは言うまでもない。



 八時間後――

 

「へぇ、こんなものがあるんだ」


 僕は自室のパソコン画面を見つめながら呟いた。

 ユーザーページをいじくっていて、面白い機能を発見したのだ。


「お気に入り機能ねぇ」


 どうやらこれは、気に入った作家や小説をお気に入り登録できるシステムのようだ。作家からすれば、これで自分や自分の書いた小説がどれだけの支持を受けているのかがわかる……ということでいいのだろうか?

 それに付け加えて、小説に対して文章評価やストーリー評価、感想やレビューなんかもつけられるらしい。

 まじですごいな、小説家になろう……。

 僕の作品も、誰かにお気に入りされたり、感想書かれたりするのかなぁ。


「うー……なんだかわくわくする!」


 よし。手直しも終わったことだし、そろそろ投稿しますか!

 僕は画面上で投稿ボタンにカーソルを合わせた。

 

「な、なんか緊張するな!?」


 マウスを握る手に汗が滲んできた。

 これをクリックしたら、僕の小説が世界中に公表されるのか……。なんか、気軽に押せないな。

 それに、もし作品に『この小説クソだろ!』とか『才能無さ過ぎワロタ!』とか『レベル低すぎプギャー』とか、ひどい感想書かれたらどうしよう……。 

 僕の脳内によくない妄想がぐるぐるとめぐった。


「だあああああぁぁっ!」


 僕は叫びながら両手の拳を振り上げた。 

 そんなこと考えてたら投稿なんてできないから!

 優も面白いって言ってくれたし、きっと大丈夫だ!

 ええい、押しちゃえ!

 思い切って僕は投稿ボタンをクリックした。


 ディスプレイに、『投稿完了しました』の文字が浮かぶ。


「投稿……しちゃった」

 

 ユーザーページに戻ると、投稿小説履歴に『夢からさめれば。』と表示されているのが目に映った。

 ……これ、投稿できてるのかな? いや、ここに表示されているということはしっかり投稿されてるんだろう。

 僕は自分の作品名をクリックしてみた。

 

「おお、ここでお気に入り数とか評価とか確認できるんだ」


 当然だが、感想もレビューも評価点もお気に入りも、まだ全てゼロだった。

 これから増えていくのかと思うと、胸の奥がくすぐったくて仕方ない。

 僕の手が、無意識のうちにページの更新ボタンに伸びていく。更新してみるが、ページになんの変化もない。


「って、当たり前か。まだ投稿して三分も経ってないしな。何やってんだ僕は……」


 ――と、言いながら再び更新をクリックする僕。

 無論、未だ変化はない。

 あれ、なんでこんなにそわそわしてんだ、僕は!?

 ――と、思いつつも三度みたび更新をクリックする。



「あああっ、もお! 落ち着かねぇええぇ!」


 

 これ以後、僕が眠りにつくまで数分おきに更新を押し続けたのは恥ずかしいから内緒である。

 そんなこんなで、僕の初投稿は無事終了した。

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