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第四話 処女作!

前回までのあらすじ。

トラブルがあったものの、何とか作品を書いてみた翔。優に感想を聞くが、これは小説ではないと言い切られ――

「これが小説じゃないって……ど、どういうことだよ!?」


 徹夜して書いた小説を否定された僕は、頭に血がのぼって思わず声を荒げた。

 ワナワナと手が震えてしまう。

 すぐるは困ったような顔をして口を開いた。


「申し訳ないけど、最後まで読めなかった。内容云々うんぬんよりも前に、この作品は書き方に問題がある」

「か、書き方?」


 優が小さく溜息を吐いた。


かけるのことだ。どうせ、『ラノベくらいなら簡単に書けるだろう』とか言って、何の勉強もせずに書いたんだろう?」


 僕は心臓が飛び出るんじゃないかと思うくらい驚いた。


「ギクリッ!?」

「それ、口でいうものじゃないから」


 優はそう言って呆れたように笑った。


 な、なんでバレたんだ? まさか……こいつのメガネ、心の中が見えるのか!?

 そんなことを考えながら、僕は優にジト目を向けた。 


「僕のメガネはそこまで優秀じゃないよ」


 やっぱり見えてるー!?


「お前はスピリチュアルカウンセラーか!?」

「ははっ。何年友達やってると思ってるんだよ。翔の考えることなんてすぐわかるさ」

「えっ、そういうもんなの?」

「そういうもんだよ。それに、ほら。翔って単純だし」


 僕はぽかんと口を開けたままフリーズした。

 僕には全然わからないんですが……。これが、秀才と落ちこぼれの違いか。世の中不公平にできてんだな。


「加点した五点は、がんばって書いた熱意に対する点数。残念だけど、それ以外は評価対象にすらならないよ」


 申し訳なさそうに、でもはっきりと優は言い放った。


「さいですか……」


 僕はカクンと首を落とした。

 ショックだけど、ラノベを軽んじてたのも、勉強してないのも事実だから、言葉もなかった。


「書き方が悪いっていうのは、具体的にどういうことなんだ?」

「うーんと、そうだな。まず、翔の書いたこの作品は、人称がバラバラなんだよ」

「認証がバラバラ? なんの話だ。パスワードの話なんて書いた覚えはないぞ!?」

「それ、たぶん字が違うよ」


 優は鞄からシャープペンとノートを取り出し、『人称』と書いた。

 僕は首を傾げた。


「ごめん。字見ても意味わかんない」

「そういえば、国語の成績は悪かったんだっけ」

「いいや、それは間違いだ。正確には国語の成績、だ!」


 僕は胸を張って訂正した。


「……すみません。続き、お願いします」


 言うだけ言って、悲しくなった僕は続きを促した。


「えっとね、小説は書くときに視点を意識して書くんだよ。一人称っていうのは、自分の視点。三人称っていうのは、俗に言う神さまの視点ってやつだね。どういうことかわかるかい?」

「な、なんとなく」

「たぶんこの小説は三人称にあたるのだろうけど、所々『俺は思った』とか『俺は言った』なんて一人称の表現が含まれてしまっているんだ。ほら、こことか――」


 優は僕のスマホを手に取って、その一文を見せてきた。

 僕はスマホの画面をのぞき、その文章を確認した。


「……本当だ」

「これはどちらかに統一すべきだね。どちらにもメリット、デメリットはあると思うけど、とりあえず最初は書きやすさ重視で良いんじゃないかな? たぶんだけど、一人称の方が書きやすいんじゃないかと思うよ」

「なるほど。わかった、そうしてみる」


 僕はコクリと頷いた。

 そうかぁ、人称ね。そういえば、普段読んでる小説はきちんと統一されてた気がするな。なんで気がつかなかったんだろ。


「それから、描写びょうしゃが圧倒的に少ないのも駄目な理由の一つだね。台詞と心の声ばっかりなんだよ、これ」

「びょ、病者びょうしゃ?」


 なんだそれ? 

 僕の頭上に、クエスションマークがポンポンと音を立てていくつも発生する。

 優は溜息を吐いて、再びノートにペンを走らせた。


「描写っていうのはこういう字だよ」

「ごめん。字見ても意味わかんない」

「それ、さっきも聞いた」


 僕はがっくりと肩を落として項垂うなだれた。

 くそぅ……なんだか悲しいを通り越してだんだん恥ずかしくなってきたぞ。


「描写っていうのは、物の形や状態、心に感じたことなんかを、言葉によって書きあらわすことだよ。これがあることによって、読む側の人間は文章からその状況をイメージできるようになるんだ」

「言いたいことはわかる。それで?」

「翔の書いた話はね、情景や行動の描写がおざなり過ぎて、頭の中に全くイメージが湧かないんだ」


 なに!? イメージが全くわかないとは聞き捨てならない!

 僕はムッとして言葉を返した。


「僕はイメージ湧くぞ? 優の想像力が足りないんじゃないのか!?」

「それは、自分の作品だからだろ? 描写がなければ想像できるわけがないんだよ」


 優は落ち着いた声で、僕に止めを刺した。


「ぐぬぬっ……何も言い返せない……」


 あまりの悔しさに、僕は思わず奥歯をぎりりと噛んだ。

 そこで、ふと疑問が湧いた。


「っていうかさ、なんでそんなに詳しいんだ?」

「んー……常識?」


 優はなんでもないことのように、さらっと答えた。

 さすが、歩くウィキペディア様は言うことが違いますね。


「まあ、僕だって本くらい読むしね」

「さいですか」

「とりあえず、小説を書くならきちんと努力した方がいいよ? ラノベだって立派な文学だし、あんまり舐めてると全国の作家さん達に怒られるからね」

「は、はい……」


 全てを見透かしたような優の言葉に、僕はしゅんとして小さくなった。

 あんまり意識したことなかったけど、普段読んでいたラノベもプロが書いた物なんだよな……。プロってすごいんだなぁ。小説家ならすぐになれそうとか馬鹿にしてすみませんでした。

 僕は心の中で全国の作家の人たちに謝った。


「この話は、今の僕にはまだ書けなさそうだ……一人称の短編小説でも書いて練習してみようかな」

「それがいいじゃないかな。あ、先生来た――」

「席に着け、餓鬼ども。ホームルームじゃ」


 組長オヤジが現れたので、僕は自分の席へと戻っていった。



 一時間目、数学――


「一人称の短編小説家ぁ……」


 僕は、机に頬を当てながら突っ伏して、小さい声でそう呟いた。

 自分でああいったものの、どんな話を書いたらいいのやら……。

 あー、何も思いつかないな。っていうか、徹夜してたから、ねむ…………い……。

 瞼がゆっくりと落ちていき、僕は意識を失った。 


 そして、僕は夢を見た。

 僕の人生を大きく変える、一つの夢を――







「うああぁっ!?」


 気がつくと、僕は立ち上がって、大声で叫んでいた。

 周りを見回すと、何事かという表情を浮かべて僕に視線を向けるクラスメイト達と先生の姿が目に映った。

 今の、夢だったのか……。


 寝ぼけていた意識が、だんだんはっきりとしてきた。

 あれ……。僕、今何か夢で見ていたような……。 

 頭を押さえて、必死に記憶を手繰る。

 すると、せきを切ったように、夢で見た映像が僕の脳内に滝の如く流れ込んできた。


 思い出した! こ、これだ!


「ど、どうしました。祭ヶ丘君?」


 先生が慌てたように僕に向かって声を上げた。


「先生! お腹痛いんでトイレ行きます!」


 僕は机の上に置いたスマホを引っ掴ひっつかんで駆け出した。


 消えるな。


 消えるなっ。


 消えるなよっ、今の夢!


 頭の中から夢が消えないように願いながら、僕は全速力でトイレの個室へと向かった。  




 二十分後――


「で……できた」


 僕の手は震えていた。震えるその手を押さえるように、僕はスマホをぎゅっと握りしめた。

 先ほど優からもらったアドバイスを意識しながら、なんとか書くことができた僕の処女作――

 文字数にしてたったの千文字。それでも、初めて自らの手で完成させた短編小説が、今、僕の手の中にあった。


 その時、一時間目の終了を知らせるチャイムが鳴った。

 僕はトイレから飛び出して、走った。



 「優! 優!」


 優の名前を連呼しながら、僕は教室へと入った。

 僕に気付いた優は呆れたような顔をして、肩をすくめた。


「翔。お腹の調子は……その様子じゃ、悪いわけないよね」

「おう、ばっちり仮病けびょうだ! そんなことより、これを見てくれ!」


 僕は手に持ったスマホを差し出した。


「また、小説か? 翔、授業サボってまで一体何を――」

「読んでくれ!」


 僕は優の言葉を遮って叫んだ。

 優が目をパチクリとさせて僕を見る。


「頼む!」

「……はぁ。しょうがないな」


 そう言って、優はスマホを受け取ってくれた。

 二分程して、優が顔をあげた。その表情が、僕でもはっきりとわかるくらい驚きの色を示していた。

 僕の心臓が、期待と不安でドクンと鳴った。


「ど……どうだった?」

「翔、おもしろいよこの話! びっくりした!」


 ――――――――!?

 優の言葉を理解するのに時間がかかった。何回も優の声が頭の中で反響し、ようやく実感が湧いた。

 おもしろい……。褒めて……もらえたんだ。


 なにこれ、めちゃくちゃ嬉しい!


「やっったぁぁ!」


 僕は両腕を天高く掲げて叫んだ。

 今までの人生で、一番嬉しいと思った。いや、『嬉しい』どころではない。

 それを通り越して、むしろ『気持ちいい』と思った。

 小説を書いて評価してもらえるのって、こんなに気持ちいいのか……。

 初めて経験する快楽の余韻よいんに、僕は夢中になって浸った。 


「大袈裟だな、翔は」

「優、本当におもしろかったのか!? 嘘じゃないよな!?」

「ああ。本当におもしろいと思ったよ。ラストのシーン、鳥肌立った」


 褒められるたびに、お腹のあたりがくすぐったくなった。

 嬉しさのあまり、僕は両手で頬を掻いてしまったくらいだ。


「そういえば、タイトルは?」


 そう言われて僕はハッとした。本文を書くのに夢中で、書き忘れていたのである。

 僕は口元に拳を当て、ゴホンとわかりやすく咳払せきばらいをした。


「 夢からさめれば。 」


 今回参考にさせていただいたサイト:


 面沢銀さんの『ゆっくり達の基礎から始める小説講座!』

 http://ncode.syosetu.com/n2751bl/


 ありがとうございました!


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