幸せを追い求めて
死後の世界が本当にあった。だが、それは、格差著しき世界だった。
マージャは、最近、死んだ。17歳で若くして死んだ。栄養失調とかマラリアとか、とにかく色んなことがマージャに降りかかって、彼を死に追いやった。だが、死ぬ少し前の彼は、少し死後の世界を楽しみにしていた。彼は、極度の貧困に苛まれていたし、その貧困が解決されるということは全く現実的ではなかった。
その為に、彼は、もし死後の世界が楽しいものだったら良いなと思うようになっていた。だが、その予想は打ち砕かれた。
死後の世界は、生前の世界と強固に繋がっていて、生前の財産や年収が、死後の世界でも同等に与えられるという仕組みになっていたし、その他にも様々な生前のものが引き継がれる形になっていた。また、かなり強力な拝金主義の独裁政権が政権を担っていて、異常なまでに富裕層が大きな影響力を持ち、貧民は社会の周縁に追いやられていた。
ー貧民街ー
そういうわけで、マージャは結局、社会の周縁に位置する貧民街に住むことになった。勿論、家はあまり綺麗なものではなく、非常に地味であったし、犯罪行為がそこら中で行われている、非常に治安の悪い街であった。また、マージャたちのような貧困層に対しては特別に、非常に苛烈な言論弾圧が続けられていた。
マージャは、この現実が悲しかった。一応、死後の世界はあったが、それは結局、弱者を痛めつけて、独裁者である大統領や、富裕層などが甘い汁を吸う社会であり、弱者は救われていないことに悲しさを感じた。ただ、悲しみを感じていても、お腹は空くから、配給されたお金を持って、とある外食チェーンのお店に入った。
マージャは、ご飯を食べながら、少し高い雑居ビルに入居している、外食チェーンのお店の窓から外を眺めていた。「なぜ大統領はこれほどにまで権力に固執するのか、なぜ富裕層は我々を放置し続けるのか。」と延々と考えていた。「結局、この世界の大統領や富裕層たちは、自分たちのことしか考えないようになっているのではないか。」とも思った。
夜、マージャは、眠ることにしたが、結局、中々、眠れなかった。「何かしらの手段で自発的にこの状況を打開しないと、我々はこの状況から抜け出すことが抜け出せないのではないのだろうか。」との言葉が反芻をし続けて眠れなかった。
朝になった。どうにか、あの、言葉の反芻から抜け出すことはできたが、未だ「状況の打開」という言葉は彼の精神世界の芯に深く根を下ろしていた。ただ、家の中にいるだけではつまらなかった為、少し散歩をしてみることにした。
家の外を歩く人々の表情は暗かった。凄まじい言論弾圧と貧困、未来への絶望は、彼らをそれほどまでに痛めつけたのかもしれない。だが、しばらく歩いていると、少し明るい表情をしている集団がいた。マージャは、彼らを変だと思ってはいたが、気になって急に話しかけたとしても不審だと思われるかもしれないと考え、通り抜けてしまおうと思った。
しかし、通り抜けようとしたところ、マージャは、悲しみのあまりに持ち歩いていた、自身の信仰する宗教の聖典を落としてしまった。
「お兄さん、これ、落としたよ。」
「嗚呼、ありがとうございます。」
マージャが聖典を受け取ろうとした時、男はさらに話しかけてきた。
「君、君は、我々の一員になるべき人間なのかもしれない。」
「えっ。」
「君の眼は、我々が求めるそれだ。また、君の心は、我々のような存在そのものを求めている。」
「どういうことでしょうか。」
「いいから来なさい。」
マージャは、とある雑居ビルの中へと連れ込まれた。
ー革新的世界ー
「私のことを全て知っているのですか。」
「嗚呼、知っているとも。君は、アラシャという母のもとに生まれたが、内戦によって政情が混乱した上に、マラリアが大流行し、その影響を受けて栄養失調とマラリアに苦しめられて死んだ。そして、今は、深い悲しみの淵に立たされている。だが、状況を打開したいという、前向きな気持ちも出始めている。」
男は、マージャに詰め寄った。
「マージャ、その前向きな気持ちをもっと前面に出そう。ともに革命を起こそう。みんなが幸せだと感じられるような世界、そんな世界は、究極の美しい理想だと思わないか。」
「確かに、みんなが幸せだと感じられるような世界、そのものは本当に美しいと思います。美しすぎて泣いてしまいそうです。ただ、それはあくまでも理想です。この、貧困層に対する非常に苛烈な言論弾圧の下でできることですか。」
「マージャ、実は、我々は、何年もの苦労ののちに5000人の戦闘員を集めて、様々な最新の武器を集めている。我々は十分に、この世界の国家に対抗し、打倒しえる総合力を持つ。」
ー理想を追い求めてー
1か月後、ついに革命戦争が起きた。マージャも戦闘員として加わり、機関銃を持って何人も撃ち殺した。そして、ついに革命は成し遂げられ、タラ―ジャという「自由世界」という、かつての非合法政党の、党首が革命政権の最高指導者の座に就いた。そして、こう言った。
ー前政権の下で働いていた人々及びその周囲の富裕層の人々は、自分たちの利益のみを追求する人間たちだった。ただ、それは、彼らの本来の性分ではなかった。大統領が主導して、彼らが死後の世界に来るときに、自分たちの利益のみを追求するように彼らを設定していたのだ。結局、大統領が自分の味方を作りたかったが故に起きた悲劇の犠牲者だったのだ。-
タラ―ジャはそのようにとても力強く演説したが、マージャは浮かばれなかった。こうしなければ、あの悲しい生活が続いていたとはいえ、あの革命で何万人もの貧民が救われたとはいえ、自分たちが倒した独裁政権がいかに極悪であったとはいえ、ついには、その政権の人物を何人も撃ち殺してしまったことに大変なトラウマを抱いていた。
結局、マージャは、幸せを感じることはできなかった。




