1話
「今度、村の人たちを労う意味合いで祭りでも開かない?」
ケイシー・ストーニ―は隣の席の男を見ていた。その表情は目尻下がり幸せに満ち溢れている。台所も兼ねている一階にある部屋は四人用のテーブルを置いてもなおスペースに余裕があった。窓からは太陽の日差しを入っていた。
「それはいい案だね。村の人たちも喜んでくれそうだ」
レナルド・ダイノイティスは微笑ながら一度頷いた。レナルドは村の領主であり恋人で冒険者のケイシーと村の経営について話し合っていた。
「祭りを開くなら屋台もいっぱい出しましょう。わたしから村の人たちに声をかけてみるから」
「屋台と聞くといっぱい美味しいものが並びそうで想像だけで腹が減りそうだ」
レナルドは本当に空腹であるかのように腹を撫でた。
ケイシーはレナルドの腹を見ながら、「今から腹を空かさないでよね。村の領主様」
「仕方ないさ。村の人たちが作る料理は絶品だからね」
レナルドは腹に手を当てたまま言った。
「わたしの料理はどうなの?」
ケイシーは試すような眼差しでレナルドを見ている。
レナルドは間を置かずに、「そりゃもちろん美味しいさ。ケイシー」
「ありがとう。レナルド」とケイシーは喜ぶように両手を合わせて右の頬に添えた。ケイシーは右の頬から両手を離すと話題を変えた。
「料理といえば今度の街に行った時、食べたいお店があるのだけどいいかしら?」
「何を食べたいのだ?」
「シチューを食べたいの。この前冒険者仲間から教えてもらった店があるから」
「シチューか。それはいいね。是非そこで食事を取ろう」
レナルドは笑みを浮かべて右手の人差し指を立ててながら共感を示した。
「そういえばルーフォンティン様から招集を受けた理由は何なの?」
ケイシーは少し気になった目つきでレナルドを見た。ルーフォンティン家は代々この一帯を治めている貴族でありレナルドはその家臣であった。
レナルドは安定感のある低めの声で「近頃魔物の活動が活発化しているだろ? その件で閣下は意見を聞きたいらしい」
「最近その手の依頼確かに増えてるわね」とケイシーは頷いた。
「冒険者の君は大丈夫だと思うが念のため気を付けてくれ」
「わかった。気を使ってくれてありがとうね」
ケイシーは一階の部屋で椅子に腰かけながら本を読んでいた。隣にはレナルドも座っている。ケイシーの目の動きは内容を覚えられるのか疑問視するほどの速さだった。実際ケイシーは頭の中に本の内容は入っていなかった。すぐ傍の玄関の扉からノックする音がした。ケイシーは本をテーブルの上に置くと立ち上がろうとする。椅子は床に傷をつけそうな大きめの音を立てた。ケイシーはそのことに気づかず玄関の方へと向かった。後方からは静かに椅子を引く音がした。ケイシーは玄関の方まで行くと扉を開けた。ケイシーの後ろにはレナルドがいた。
「これはお父様とお母さまお久しぶりです」
ケイシーの目の前には初老の男女がいた。レナルドの両親はどちらもレナルドに顔が似ている。
「あらケイシーさんお久しぶりね。レナルドとは順調かしら?」
レナルドの母親は家族に向けるような表情で挨拶をした。
ケイシーは笑みを作り、「はい、良くしてもらっています」ケイシーの笑みは何かあればすぐに崩れそうである。
「それはよかったわ」
「二人とも元気そうだな」
レナルドの父親が言った。
「父さん、母さんようこそ? 旅で疲れてないか?」
レナルドの口調は本心から両親を気遣っていた。
「全然大丈夫さ」とレナルドの父親が返事をした。
「それならよかった。中に入ってくれ」
レナルドは片手で家の中を指し家の中に入るよう促した。
家の中に入った四人はテーブルの席に座っていた。ケイシーとレナルドが並び、その向かい側にレナルドの両親が席に腰掛けていた。
「村の経営はどうなの?」
レナルドの母親が尋ねた。不安はないが少し気になるような声をしていた。
「貧しいが何とかなってるよ。村の人たちもいい人ばっかりだ」
レナルドは自信を持って答えた。
「大きな問題がないならよかったわ。あなたが村の領主になると聞いたときは心配だったから」
レナルドの母親の声は安堵したものに切り替わっていた。
「平民の子であるお前が騎士になっただけでも凄いのに領主とは親として自慢ができる」
レナルドの父親は腕を組みながら笑みを浮かべていた。
「これは父さんたちの教育のおかげだよ。ありがとう」レナルドは感謝の眼差しで両親にそれぞれに目を合わせた。
レナルドの母親は背もたれに背中を預けると「そういえばケイシーさん、最近冒険者業はどんな感じなのかしら」
レナルドの母親は懸念を抱いたような眼差しをケイシーに浴びせていた。
「ここ最近は特に問題なく依頼をこなせてます」
ケイシーはレナルドの母親に目を合わせて言った。その声に元気はなかった。レナルドはそんなケイシーを見ながら机の下でケイシーの片手を握った。
「問題ないなら良かったわ。怪我でもあったら大変だからね」
レナルドの母親は安心したような顔を見せた。ケイシーは一度レナルドと目を合わせてから再度レナルドの母親を見た。
「レナルドさんを悲しませないようには気をつけています」
「そういえば母さんに渡すものがあったのだろ?」
レナルドは聞いた。ケイシーは物事を忘れていた顔をした。
「忘れてたわ。冒険で手に入れた宝石があるのですが、それをお母様用にネックレスに加工してもらったんです」
「それは嬉しいわね。早速見てみたいわ」レナルドの母親は社交辞令のような喜びで言った。
「では取ってきますね」
ケイシーは席を立つと二階に続く階段の方へと向かった。ケイシーは自分の顔が誰にも見えないようになると将来に憂慮した表情になっていた。




