エピローグ「数年後の春、花の咲く庭で」
ヴォルガード領に春が訪れた。
かつては一年の大半が雪に覆われていたこの地も、私の浄化活動と農業改革のおかげで、今では豊かな穀倉地帯へと変わりつつある。
城の庭園には、色とりどりの花が咲き乱れ、甘い香りを漂わせていた。
「まてー! スノー!」
元気な子供の声が響く。
三歳になる息子のレオンだ。
アレクセイ譲りの黒髪と、私に似た緑色の瞳を持つ、活発な男の子。
彼は巨大なスノーの背中に乗り、庭を駆け回っている。
スノーもすっかり良きお守り役だ。
「レオン、あまりスノーを困らせないでね」
私が声をかけると、レオンは手を振って笑った。
「はーい! ママ、おなかぺこぺこ!」
「もうすぐお昼ご飯よ。今日はパパも一緒にピクニックしましょう」
私はバスケットを持って、芝生の上に広げられたシートへ向かった。
そこには、アレクセイが穏やかな表情で座り、本を読んでいた。
彼は私を見ると、本を置いて手を差し伸べてくれた。
「リリアナ、重くないか? 俺が持とう」
「大丈夫ですよ、これくらい。……ふふ、アレクセイ様、幸せそうな顔」
「ああ、幸せだ。お前と、レオンと、こうして過ごせることが」
彼は愛おしそうに私を見つめ、そっとキスをした。
その時、レオンがスノーから飛び降りて、私たちの間にダイブしてきた。
「ずるいー! ボクもー!」
「はは、わかったわかった」
アレクセイはレオンを抱き上げ、高い高いをした。
レオンの笑い声が青空に吸い込まれていく。
バスケットを開けると、サンドイッチや唐揚げ、フルーツサラダが顔を出す。
どれも、ヴォルガード領で採れた新鮮な食材で作ったものだ。
「いただきます!」
三人(と一匹)で囲む食卓。
美味しい空気、温かい日差し、そして大好きな家族。
かつて追放され、全てを失ったと思ったあの日から数年。
私は今、世界で一番美味しい人生を味わっている。
「……美味いな」
アレクセイがサンドイッチを頬張りながら呟いた。
「はい、とっても」
私は微笑み返し、彼の手を握った。
この温もりは、これからもずっと続いていく。
氷の公爵と薬膳令嬢の、おいしい恋物語は、ハッピーエンドのその先も、まだまだ美味しく煮込まれていくのだ。




