カッパの血は美味しいのか
何者かはドキアにお腹を棒でつつかれると、くすぐったくて笑って目を覚ましました。開けると目の前にカッパがいたものですからびっくりして跳ね上がって太い木の枝に頭をぶつけてしまいました。
それはすごいジャンプ力でした。何者かはドキアよりも少し大きいくらいで顔も手足も肌が白っぽくて、真ん丸な目にとんがった耳をしていました。
唇はドキアとも普通のカッパとも違う薄紫色です。髪は黒くてモジャモジャと目のあたりまでかかっています。
「だ、大丈夫?君は何者だい?」ドキアはゆっくりと話して聞きました。ぶつけた頭を押さえて倒れる何者かに手を差し伸べながら。
「相手に名前を聞く前にまず自分から名乗るもんじゃないかな」と何者かは言いました。少し冷たくドキアには聞こえたかもしれません。
だけど差し伸べた手を取って立ち上がったので何者かは敵意があるわけじゃないとドキアには分かりました。何者かの言うことも正しいと思ってドキアが名乗ろうとすると何者かは自己紹介を始めました。
「おれは吸血鬼のヴァン。みんな勘違いするけれどバンじゃない。これはおれのポリシーだからよろしくね」
「バン?ヴァン?」とドキアは発音を真似しました。
「うん、二回目の方だね。君は違いがよくわかってる」
ヴァンは嬉しそうに言いました。だけどドキアには違いが分かりません。
「自分で言ってるのに、わからないや」とドキアは頭のお皿を傾けました。
「君に分からなくてもおれには分かる。それに気持ちが大切なんだ。ヴァンって言おうっていうね」
「吸血鬼って何?みんなって他にもいるの?ヴァンは人とは違うの?」ドキアは気になることが沢山ありました。それに昔、長老が書いてくれた人の容姿にそっくりなのです。唇だけが違っていました。
「おいおい、これ以上は君のことを教えてくれないとフェアじゃない」ヴァンはそういうとお腹の鐘を鳴らしました。
「お腹空いてるんだね、こんなのしかない
けど」そう言ってドキアは朝食のキュウリを渡しました。ヴァンは受け取ると夢中になってボリボリとかじりつきました。
ドキアは秘密倉庫の非常食も分けてあげようとしました。開けてみると秘密倉庫の中の木苺は無くなっていて、ドングリだけになっていました。
「あまりにお腹が空いたもんだからその中も食べちゃったよ。君のだったのか。ごめんよ」
「気にしないで、それにドングリはたくさん残ってる」ドキアは両手にドングリをすくい上げました。ヴァンに渡そうとしますがそれを拒否しました。
「ドングリは吸血鬼には食べられないんだ。気持ちだけもらっておくよ」ドキアは少し残念に思いながら両手のドングリに顔をうずめてバリバリ食べました。そして思い出したように自己紹介をしました。
「僕はドキア。カッパのドキア、くちばしがみんなと違う色だけどちゃんとカッパだよ」赤いくちばしにドングリのカスが付いていますがドキアは気づきません。
「気にしてるんだ」ヴァンはドキアのくちばしを見つめました。ドングリのカスが気になったのもありますが赤いくちばしに見惚れていました。
「うん、このせいでお父さんたちは……」
「綺麗なくちばしだ。真っ赤で生命力を感じる。おれは好きだよ。黄色いくちばしの方がへんてこりんさ」
ドキアはヴァンがそう言ってくれただけでとても嬉しくなりました。そしてもっとヴァンのことを知りたくなりました。
ヴァンは自分のマントでドキアのくちばしを拭いてあげました。ドキアとヴァンは一緒に、お腹の鐘を鳴らして笑いあいました。そしてドキアは木苺の沢山なる場所へとヴァンを案内します。ドキアはこの場所をカッパの誰にも教えていませんでした。自分だけの場所に他の誰かが来るのが嫌だったのです。しかしヴァンになら教えてもいいやと思えたのです。
森の一番奥まで歩きました。外の世界から村を守るうるしの木が壁のように横一面に広がっています。そこを壁伝いに西の方へ歩いていくと木苺の木はありました。
赤、黒、黄色の木苺が沢山なる木は甘酸っぱさを漂わせて空腹な二人の口の中はその味でいっぱいでした。
「すっごい、こんなところにあったのか。気が付かなかった」
「気が付かなかったってヴァンはこの森に住んでるの?」
ヴァンは答える前に木苺に手を伸ばしました。ドキアもそれに続きます。一つ取っては口に頬張って、飲み込む前に次の一つを頬張ります。取っても取っても、木苺は減っているように感じません。
ヴァンは空腹が少し収まるとさっきの質問に答えました。
「この村に入る抜け穴を見つけたんだ。少し前にこの辺りをさ迷ってたら見つけたのさ。お腹が空いたときにそこから入っていたのさ」
「抜け穴?外は危険じゃないの?」
「長くなるから座って話そう。キュウリと木苺のお礼に何でも教えるから焦らないで」ドキアは知らないことが沢山で興奮していました。鼻の穴が大きく開きます。
木苺を両手いっぱいに積んで、近くの丸太に座りました。質問ばかりのドキアにヴァンは嫌な顔一つしませんでした。
「まずは僕のことを話そう、そしたら君のことを教えておくれよ。カッパって初めて見たよ。八十年生きてて初めて見た」
「八十年!?」とドキアは大きく目を開きました。だけどヴァンは指を唇に当てて静かにと合図しました。そして吸血鬼のことを話してくれました。
「吸血鬼はとても長生きで八十年生きていてもまだ子供なんだよ。本来、吸血鬼は血を吸って生きるんだ。牛とか馬とか、大昔は人の血を吸っていたそうだよ。滅茶苦茶うまかったって話さ。
だけどおれはどうにも、血が苦手でダメなんだ。だから代用できるものが無いか探してたのさ。血を吸わないと力が出ないから、仕方なく吸うこともあるけれど最小限だ。猫とか蛇の血はだめだ。吸血鬼の体に毒なんだ」
ドキアは牛やら馬やら見たことも聞いたこともありませんでした。だけど当たり前に知っているように話すので、ドキアは知ったかぶりになるほどと頷きます。
「カッパはどうだろう?」
「カッパは吸ったことないな。血は何色だい?」
「赤色かな、あまり見たことないや」
(おいしそう)本能的にヴァンはそう思ってしまいました。
ヴァンは血が苦手ですが、吸血鬼の本能的に血を吸いたい衝動には駆られてしまいます。ドキアの赤い血を思うと、唾をごくりと鳴らしました。ヴァンは頭を振ってその気持ちを振り払います。そして話を続けました
「おれの仲間はどこかにはいるよ。沢山いるかもしれないし、少ないかもしれない。吸血鬼は基本的に群れないんだ。おれは生まれた時から吸血鬼だけど、昔は人を仲間にしたりもしたんだ」
「人を?危なくないの?」そう聞くとヴァンはなんでというように首をかしげます。
「人なんて、吸血鬼の栄養源でしかなかってんだよ。危なくなんかない。見た目はおれたちと似ていたらしいけれど力もないしひ弱って話さ。暇を持て余した吸血鬼が人を仲間にして遊び相手にしてたくらいさ。旅のお供にしてね」




