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『カッパのドキア』吸血鬼ヴァンとの出会い。  作者: 湊 俊介


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2/13

カッパじゃない何か。

「皆の者良いな?」


 長老の問いにみんなはうなずくだけで返事はしませんでした。ドキアのお母さんはそれを聞いて泣きました。


 息子が助かった嬉しさからではありません。ミカドが危険な仕事に駆り出されるという心配からです。


 村の外の探索はもうずっと行われていません。死者が出たからです。昔は勇敢な男カッパの代表が一人で村の外に出向いて探索をしていました。木の実や果物、植物の苗を見つけては持ち帰り英雄と崇められました。


 しかし、ある時から誰も帰ってこなくなりました。原因追究のために長老の息子を中心に数名でチームを組んで探索に行くことになりました。だけどチームは大蛇に遭遇して帰ってきたのは長老の息子だけでした。長老の息子は恐怖で震え上がっていました。それ以降行われていませんでした。


 ドキアはこの一連の出来事を噂話で聞いたことがあります。それはドキアの両親が亡くなった後でした。悲しみの中で自分のために父さんが危ない仕事をしていたのだと、とても悲しみました。この村を恨むこともありましたが自分一人じゃ生きていけないこともよく理解していました。


 ドキアは短い腕を天に伸ばして大きく深呼吸しました。息を吐き出すと、ドキアはお父さんとお母さんのことを思い出して、眺めていた景色が滲みました。


「大丈夫、僕は大丈夫だから」自分に言い聞かせるように、お父さんたちを心配させないように小さく呟きました。そして池の中に戻って眠りました。


 元気な太陽が昇るとカッパたちは池から起き出します。池から上がるとそれぞれお気に入りの場所で甲羅を太陽に向けて日干しをします。


 この行為はカッパの村では病気の予防のためと言われています。ドキアも池から上がるとお気に入りの原っぱに移動します。池から少し離れていますがこの辺りには他のカッパはいません。


 みんな岩の上や、池の近くの岸辺で乾かします。草の上にうつぶせに倒れるとドキアの目の前にバッタが飛んできました。バッタとドキアは見つめ合ってから、ドキアは両手でバッタを捕まえました。


 そしてドキアはバッタを食べました。原っぱはこうやって良いことを独り占めできるから、ドキアは大好きでした。


 低い鐘の音が響いて、ドキアは立ち上がって食堂に向かいました。村の中心にあります。椅子代わりの長い丸太が何本も並んでいて、そこに座ってみんなで一緒に食べます。今日の朝食はカエルの素焼きとトマトでした。


 列に並んで順番に給仕係のカッパから受け取ります。ドキアはカエルの素焼きが好物でしたが明日からのことを思うと悲しくなりました。今日の収穫祭が終わればしばらくは、村での食事はキュウリだけになります。みんなはそれが楽しみだと話しながらカエルとトマトにかじりつきます。


「トマトが誰かにとられている気がするんだ」


「この村で盗みをする奴なんかいないだろ。気のせいさ」


 ドキアの耳にそんな話も聞こえてきましたが、ドキアも気のせいだと思いました。ドキアはカエルの味を噛みしめるようにゆっくり食べました。朝食が終わると大人のカッパたちは村の見回りや、畑仕事に出かけます。


 子供たちは相撲をしたり、石を投げて遊んだりして楽しく過ごします。ドキアは一人で村の端にある森の中に移動しました。ドキアは森の中でドングリや木苺を取ります。


「森には何でもある。食べ物も寝床も、友達だってできる」ドキアのお父さんは大きな肩にリスを乗せながらドキアにそう教えてくれました。キュウリが嫌いなドキアにお父さんは困ったときの生き延び方として教えてくれました。


 森の奥にある大きな松の木、その下の根元にあるくぼみがドキアの秘密倉庫でした。「元気だったかい?」ドキアはそう話しかけながら、くぼみを隠していた大きな葉っぱをどけました。


 その中には拾っては貯めてきたドングリと木苺がたくさん入っています。そしてその上で一匹のリスが丸まって寝ています。


「食べ過ぎないでおくれよ。僕の非常食が無くなっちゃうから、明日からはキュウリしかもらえないんだよ」そのリスは分かったような顔をしながらドキアの腕から肩まで駆け上がります。「さあ、今日も木の実を集めよう」


 ドキアは今日も木の実を集めます。だけど木の実にしては大きな赤いものが落ちているのを見つけました。


「トマトだ。だけどなんでこんなところに?森の中に自然に育つわけもないし……」ドキアがトマトを拾うと右奥の方でカサカサと茂みが動く音がしました。


 「誰かいるの?」ドキア以外に森に来るカッパは滅多にいません。カッパ以外の大きな生き物もこの村にはいないはずです。ドキアは怖くなって小さな足を三歩後ろに下がりました。リスはドキアの肩で音のした方を睨みつけます。


 茂みは何もいないと思わせるぐらい長い間静かなままでした。ドキアは気のせいだと思いました。だけど気を許した瞬間に茂みから影が音を立てて、森のさらに奥に逃げていきます。


「だ、だれ?」明らかにカッパじゃないことは分かりました。カッパなら背中に甲羅があります。ドキアは恐怖よりも好奇心が勝ちました。その影をすぐに追いかけましたが短い彼の足で影をすぐに見失ってしまいました。


 木の実を探すのも忘れて影探しに夢中になるとドキアはお腹が空いてきたことに気が付きました。お腹が鳴るのと同時に小さく、夕飯の鐘の音が聞こえてきました。鐘の音からするとずいぶんと森の奥まで来てしまったようです。


 ドキアは影の正体が気になりましたが、今日の夕飯を逃すとしばらくキュウリ生活です。影は逃しても今日の夕飯は逃したくありませんでした。パタパタと急ぎ足で森の外を目指します。


 森を出る前に背中の甲羅に視線を感じて振り返りましたが、ドキアの目には何も映りませんでした。


「遅い、遅い、余ってるからオイラが食っちまおうかと」と給仕係のカッパは言いました。どうやら機嫌がよろしくないようです。


「ごめんなさい。森の奥まで入り込んじゃって」


 夕ご飯はナスとイナゴの甘煮でした。サトウキビを煮てできた甘い汁でさらにイナゴを煮込んだものです。給仕係はぐちぐちと文句を言いながらドキアに渡してくれました。


 ドキアが席について食べているとまた、畑の被害の話が聞こえてきます。さっきの給仕係が大きな声で話しています。


「オイラの育てたナスが食われてたんだよ。なくなってるならまだ気が付かないのに一口かじって捨てられてたのさ。不味いこんなもの食えないってみたいに。こんなに悲しいことはない」


「モグラか何か出たのさ。美味しい野菜にやつらは寄ってくるんだ」と長老の息子が慰めるように言いました。

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