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『カッパのドキア』吸血鬼ヴァンとの出会い。  作者: 湊 俊介


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過去への情と未来への期待

「あ、ドキア。どこにいたんだよ。てっきり転んで食われちまったのかと思ったよ」

森に戻ると声をかけられました。木陰から聞こえてドキアは声の方に行きました。


「カブト、みんなは?」


「みんな逃げたはずだけど、必死で自分が逃げるだけで周りなんて見てられなかったよ。どうにかここまで走ってきたけど……」


カブトはドキアと同じ年齢のカッパです。ドキアのくちばしが赤いからと言っていじめはしませんが助けてもくれない子です。ドキアは嫌いではありませんでしたが特に好きでもありませんでした。


「なにがあったの」


「分からない。暗いし悲鳴しか聞こえなかった。ドキアこそ見てないの?」


「僕は外にいたから……」


カブトは「外?」と首をかしげましたがドキアは気にせず村に向かいました。


「おい、ドキアどこに行くんだよ」


「やることがあるんだ。君は隠れてた方がいい」 ドキアは振り返らずに言いました。

村の中では大人のカッパたちが戦っていました。


長い槍を持って大蛇に向かっていました。大蛇は素早く動いて大人のカッパたちを一掃い、みんな飛ばされてしまいます。どうやら侵入してきたのは大蛇のようです。


 集会所まで何とか戻ると建物は壊されたり、泣いている声が聞こえたり村はめちゃくちゃになっていました。松明の灯が倒れたのか村長の家は赤く燃えています。ドキアはヴァンが無事か心配になりましたがどうやら檻の周りは無事なようでした。


「ヴァン、戻ったよ」


「よかった。無事だったか。君もしかして……」


「うん。小穴を隠し忘れちゃった……。ごめんなさい」


「そのことは後で、早くここから出よう。瓶を貸して」


 ドキアはリュックから影の入った瓶を渡しました。ヴァンはその瓶を開けると足元に中身を滴らします。すると手かせを一瞬で引き剥がしました。そして木の檻にパンチをすると簡単に折れてしまいました。ドキアは目を開いたまま閉じることすら忘れました。そしてヴァンはドキアに近づきました。


 ドキアは怒られるかと思いました。ドキアのせいで村は目茶苦茶です。ですがヴァンは大笑いしました。


「謝る必要なんかないさ。おれは君がいたから守ってただけさ。君以外のカッパはどうだっていいんだ。君もそうだろう。赤いくちばしを馬鹿にされて、呪いの子だって決めつけられて、そのせいで両親も死んだ……」


 ヴァンの目が月の光でキラリと光りました。その目が黙っているドキアを見つめます。


「この村は君に何をくれた?」


「おれと一緒に外に出よう。ワクワクしただろ。外の世界は、胸が躍ったはずさ」

 まるでヴァンは人が変わったようでした。力強い腕でヴァンはドキアの肩を掴みます。


「村のみんなを助けないと……。僕のせいで村が……」


「本当に助けたいなら、俺が一瞬で大蛇を倒してくる。だけど助けたら君はこの村に残るはずさ。みんな変化をすることを怖がるから、そしてまた独りぼっち。おれはここを離れるから。


 君はこの村を救いたいって本当に思ってる?君はこの村の良い所を何個言える?この村で生まれたから、ここしか知らないから情が湧いているだけなんだよ。今すぐ外の世界におれといこう」


 ヴァンは右手をドキアに伸ばしました。ドキアはヴァンの手を掴もうと手を伸ばしました。ですがすぐ近くでカッパの悲鳴が聞こえてきてドキアの手が止まります。


「助けてくれ……」


建物の破壊される爆音が村に響きます。ドキアの胸の鼓動は早くより早く、何も考えられなくなりました。ドキアはヴァンの手を握りました。


 ヴァンは満面の笑みを浮かべます。ドキアはヴァンに抱えられると、周りの景色が一瞬にして飛んでいきました。そして気が付くと森の中まで移動していました。


「大丈夫?気持ち悪くないかい?吸血鬼の能力の一つ、高速移動だ。おれはこれをスイッチって呼んでる。昔父親に抱えられてスイッチした時は酔っていたもんさ」


 そう言われるとドキアは顔色を変えていきます。大したものは食べていないので嗚咽だけがこみあげました。地面に向かって吐く体勢をとりました。


「ごめんよ。勝手に連れてきちゃって。大丈夫かい?」


 ドキアが吐きそうになっている間に、ヴァンは影を切り離して瓶の中に詰めていました。ドキアにはどうやって影が切り取られたのか見えませんでした。そしてヴァンの口調は優しいヴァンに戻っていました。


「ごめんよ。この村のことを悪く言っちゃった。影を入れると性格がきつくなるんだ」


「大丈夫だよ。だけど、あれはヴァンの本当の気持ちじゃないってこと?」


 ヴァンは何も言いませんでした。瓶をリュックにしまってまた手を指し伸ばしてきます。


「行こうか。スイッチは使わないから。安心して、二人の旅の始まりだから朝まで歩いて語り合おうよ。疲れたら背負ってあげる。そのくらいの力は影が無くてもあるから」


 ドキアはヴァンの手を取りました。そして大穴から出ていこうとすると後ろから呼び止められました。


「ド、ドキア。お前どこ行くんだよ。そいつ捕まっていたやつじゃ……。お、お前もグルだったのか!?これはお前のせいなのか?」


 カブトでした。カブトは手足を震わせて二人に大声でそう言いました。


「ドキア、なんか言えよ」カブトはドキアに詰め寄ります。村がこうなったのはわざとじゃないにせよ、ドキアのせいでした。だからドキアには何も言えませんでした。


「お前誰だよ。ドキアをどうするつもりだよ」


 カブトは震えながらヴァンにも言い放ちます。ヴァンは二人の顔を見るとカブトの顔に口を近づけて息を吹き掛けました。


 するとカブトは地面にぽてっと、音を立てて倒れました。


「な、なにしたの?」


「大丈夫、眠らせただけさ」そう言ってヴァンはドキアの手を取って歩き始めました。ヴァンは旅する仲間ができて上機嫌でした。


「さあ、何から話そうか。おれの生まれた町の話からでも……」


ドキアは一度だけ村の方を振り向きますが深く深呼吸をして前を見ました。そしてヴァンの握る手を強く握り返しました。


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