ヴァンを助けるために
「吸血鬼の能力の一つさ。おれたちの影は暴れたり自我を持ったりすることも極まれにあるんだ。ドキアのは大人しいだろうね。ただついてくるだけ」
「自我を持つ……。友達にもなれるかな」
「なれないね。あいつらに感情はないん
だ。ただ乾いているだけ。貪欲にね」
ドキアは影のことに興味が湧きました。しかしヴァンは影が好きじゃないので話を戻しました。「それがあればどうにかなるんだけど、問題はそれが村の外にあることなんだ」
僕、取りに行くよ。とドキアは言いました。ヴァンもそれしか方法は思いつきませんでしたが、ドキア一人で村の外に行くのは得策とは思えませんでした。
「だけど危険だよ。村の外に出たことのない君が一人で行くには危険すぎる。キバもないし力もないし、疑う心もなさそうだ。そんな君が僕は好きだけど外の世界では危険すぎる」
ドキアはもう決心していました。もちろん怖いです。だけど外の世界への興味には勝てませんでした。外に行く理由が欲しかったのです。
「でもヴァンを助けたい。僕にだって力はあるよ。カッパだから泳ぎが速い」
「そうか、何もおれみたいに歩いて進まなくてもいいんだ。幸い川があるからそれで危険を減らせるかもしれない。川の中にも何かいるかもしれないけれど、地上よりは安心だ」
ヴァンは村から外に出入りしていた場所をドキアに教えてくれました。木苺のある茂みから北に進んで漆の壁へ、それから西に五十歩そこに一箇所だけ隙間があると言います。
壁一帯は漆の木が密接して編み込みのように枝同士が連なりあっています。
触れたらかぶれるので誰も近づきませんがヴァンが一人体をかがめてくぐれば入れる小穴があると言います。
「他に誰も侵入してこないように岩で塞いであるから、重くて動かないかもしれないけど……。ドキアに動かせるかな?」
「大丈夫、そういうのは得意だよ。カッパは相撲が得意だからね」
ヴァンは相撲が何なのか分かりませんでしたが、ドキアの自信のある表情で大丈夫そうだと感じました。
日が昇る前に急がないと、ドキアはそう言って影のある場所までの行き方を聞きました。忘れないように頭の中で何度もそれを繰り返しました。
「気を付けて、他の生物に会いそうになったらなるべく避けた方がいい。君は誰でも信用しがちだ」
「そんなことないよ」
「見ず知らずのおれにキュウリをくれた。
木苺の木も教えてくれた。君は優しすぎるから、良い所であり弱いところだ。それだけが心配だ。もちろん悪い奴ばかりじゃない。だけど危険すぎるやつもいるんだ。それだけわかっていてほしい」
「分かったよ。誰かに会いそうになったら避ける」
ドキアは森へ向かいました。森の奥、木いちごの木へ、そして北へ壁沿いに西へ五十歩歩きました。ヴァンの言う通りドキアと同じ背丈ほどの岩がありました。ドキアは岩にしがみついて踏ん張りました。すると重そうな岩は地面を引きずって壁から離れていきました。
一息ついて早速、小穴を通って外に出ました。村の外に出ればすごいものがたくさんある、そう期待してドキアの心臓は高鳴りました。
しかし出てしまうと景色に大きな変化はありませんでした。少し拍子抜けしましたがドキアは村の外に出た、というだけで大興奮です。
その興奮でドキアは目的地までの行程を忘れそうになりました。
「穴を抜けたら川を目指す。北に進んで大きな川へ、それから下流に流れてぐるぐる林のキャンプへ。そこで影を手に入れる」
ドキアはやることを確認するように口でつぶやきました。よし、大丈夫そう。そして北へと進みます。




