黄金の夜明け
どれほどの時間が経っただろうか。
カイが次に目を開けた時、そこにいたのは塔の中ではなく、見慣れたギルドの前だった。夜の闇に、街の灯りが優しく揺れている。隣にはエルザとブラムも倒れていたが、不思議なことに、あれほど深手を負っていたはずの体には、傷一つなかった。
何が起きたのかと周囲が騒然となる中、ギルドから出てきた人々が、信じられないものを見る目で彼らの腕を指差した。
三人の腕の刻印が、眩いばかりの光を放っていたのだ。
光が収まった時、ブラムの腕には『青銅』ではなく、二階級上の『鋼鉄』の紋様が力強く刻まれていた。エルザの腕にも、同じ『鋼鉄』の刻印が輝いていた。
だが、異常はそこからだった。
カイの腕に刻まれていたはずの、蔑みの象徴『泥鉄』の刻印が、凄まじい光を放ちながら、その形を変え始めたのだ。
泥鉄が、青銅に。
青銅が、鋼鉄に。
鋼鉄が、白銀に。
その場にいた全ての冒険者やギルド職員が、息を呑んでその奇跡を見守る。だが、光は止まらない。白銀を超え、さらに純度を増していく。
そして、光が完全に収まった時。
カイの二の腕に刻まれていたのは、誰もが見たことのない、神々しい紋様。
歴史書や英雄譚でしか語られない、伝説の階級。
――『黄金』。
その場にいた誰もが、階級という絶対のルールの前で、無意識に膝をついていた。最上位のギルドマスターですら、震えながらその場にひれ伏している。
その時、カイの脳裏に、暖かく、そして威厳に満ちた声が直接響き渡った。
《秩序を乱す者の悪意を断ち、己が信念と仲間の絆をもって、真の強さを示した者よ》
女神の声。この世界の理そのものの声だった。
《汝に英雄の階級――『黄金』の資格と、我が祝福を授ける。その力、汝が信じるもののために使うがよい》
声と共に、カイの手のひらに、一滴の光り輝く雫が現れた。どんな病も、どんな呪いも癒すという、神の涙。
「リナ…」
カイは、その雫を強く、強く握りしめた。
侮辱され、殴られ、全てを奪われてきた。泥の中に咲く花すら、見上げることを許されなかった。そんな少年が、たった一日で、世界がひれ伏す英雄となったのだ。
カイは、ゆっくりと天を仰いだ。その瞳には、涙はなかった。ただ、これから始まるであろう、本当の物語への、静かで、しかし何よりも力強い決意が燃え盛っていた。
これは、始まりの物語。
理不尽な世界に牙を剥き、自らの手で運命をこじ開けた少年の、爽快なる英雄譚の、輝かしい第一章である。




