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鋼鉄の巨人と信じた仲間の閃光と俺の強さ(後編)

「お、お前…なぜ…」

「黙って下がっていろ。足手まといだ」

カイは冷たく言い放つと、古びた剣を構え、巨大なゴーレムと対峙した。その背中は、絶望的な状況にもかかわらず、不思議なほど大きく見えた。

「カイ!無茶よ!」

エルザの悲鳴が響く。カイは振り返らずに叫んだ。

「エルザ!奴の弱点を探せ!俺が時間を稼ぐ!」

その言葉には、一片の迷いもなかった。それは、カイがエルザの魔法の力を、その眼を、信じている証。エルザは唇をきゅっと結び、瞳に強い決意を宿した。

「……わかった!死なないでよ!」

エルザが膨大な魔力を練り上げ、解析の魔法を起動させる。その間、カイの独壇場が始まった。

ゴーレムが薙ぎ払う豪腕を、カイは紙一重で潜り抜ける。叩きつけられる拳を、床を蹴って跳躍し回避する。それは戦いというより、死と隣り合わせの舞踊だった。カイはただ避けているだけではない。攻撃の度に、ゴーレムの関節部、装甲の継ぎ目、動力の流れを、その超人的な観察眼で見極めていた。

(動きが直線的すぎる。だが、それ故に一撃が重い。狙うべきは、関節か、あるいは――)

その時、ゴーレムの胸部装甲が一瞬だけ開き、内部のコアが紅い光を明滅させたのが見えた。

(あれだ!)

時を同じくして、エルザの叫びが響く。

「カイ!胸のコアが動力源よ!でも、装甲が硬すぎて、私の魔法でも貫けない!」

「――いや、やれる!」

カイは確信に満ちた声で応えた。他の挑戦者たちは、その狂気じみたやり取りを、ただ呆然と見ていることしかできない。泥鉄の少年と、一人の魔法使いの少女だけが、絶望的な化け物に立ち向かっている。

「エルザ!俺が合図をしたら、最大の魔法をコアに撃ち込め!一瞬だけ、道を作ってやる!」

カイは地面を強く蹴った。目標はゴーレムの足。彼は剣を振るわない。代わりに、ゴーレムの巨大な足首の関節部に、自らの全体重を乗せた蹴りを叩き込んだ。もちろん、それでダメージなど与えられない。だが、巨人の体勢がほんのわずかに、コンマ数秒だけ、ぐらりと揺れた。

カイはその一瞬を見逃さなかった。揺らいだ足を踏み台に、腕を、肩を、まるで駆け上がるようにして跳躍する。重力など存在しないかのような、神がかり的な体捌き。ゴーレムがカイを振り払おうと腕を振るうが、その巨体故の鈍重さが仇となり、カイの影を捉えられない。

そしてついに、カイはゴーレムの胸元まで到達した。

「ここだ!!」

カイは自らの古びた剣を、胸部装甲のわずかな隙間に、力任せに突き刺した。バキン!と鈍い音がして、剣は半分ほどで折れてしまう。だが、それで良かった。それがカイの狙いだった。

彼は折れた剣の柄を、まるでくさびのように装甲の隙間に捻じ込み、全体重をかけてこじ開けようとする。

「うおおおおおおおっ!!」

カイの全身の筋肉が悲鳴を上げ、血管が浮き上がる。ミシミシと、装甲が軋む音が響き渡った。ゴーレムのコアが、危険を察知して激しく明滅する。

そして、ついに。

ほんの指一本分ほどの隙間が、こじ開けられた。

「今だ!エルザァァァ!!」

その絶叫は、エルザへの絶対的な信頼の証。エルザは、カイがゴーレムに飛びかかった瞬間から、すでに詠唱を完了していた。彼女の小さな両手に、眩いほどの光が収束していく。

「応ッ!貫け――**『レイ・ピアース』**ッ!!」

放たれたのは、一条の純白の閃光。それは、カイが命を賭して作り出した、針の穴を通すような完璧な軌道を描いて、装甲の隙間へと吸い込まれていった。

閃光が、内部のコアを正確に貫く。

時間が、止まった。

鋼鉄の巨人の紅い単眼から光が消え、全身の駆動音が止まる。そして、まるで意思を失った人形のように、ゆっくりと後ろへ傾いていき――凄まじい轟音と共に、その巨体を床に叩きつけた。

静寂が、広間を支配した。

粉塵が舞う中、カイはゴーレムの上から静かに降り立つ。その手には、柄だけになった折れた剣が握られていた。

誰かが、ごくりと唾を飲む音が響く。

ブラムが、カイの前に膝から崩れ落ちた。

「……なんでだ……」

その声は、震えていた。

「なんで俺を助けた……。俺は、お前を…泥鉄のお前を、あれほど馬鹿にしていたのに……!」

カイは、その問いに初めてブラムの方を向いた。その瞳には、もはや怒りも侮蔑もなかった。ただ、静かな、しかし決して折れることのない信念が宿っていた。

「階級がお前の価値を決めるのか」

カイは静かに言った。

「俺は違う。俺の価値は、俺の剣が決める。誰かを守れたか、誓いを果たせたか。ただそれだけだ。お前が何者だろうと、目の前で死にかけているなら、手を伸ばす。それが、俺の――俺が目指す『強さ』だ」

その言葉は、雷のようにブラムの心を、そして、その場にいた全ての挑戦者たちの心を打ち抜いた。

階級が絶対の世界。生まれながらに与えられた刻印で、人の価値が決まる世界。その理不尽を、カイはただひたすらに、己の努力と信念で覆そうとしている。

その生き様が、言葉以上に雄弁に、彼らの胸をカァーッと熱くさせた。

ブラムは、何も言い返せなかった。ただ、自分より遥かに小さいはずの『泥鉄』の少年が、倒れた鋼鉄の巨人よりも、ずっと、ずっと大きく見えていた。

ゴーレムが倒れた広間の奥で、次の階層へと続く新たな扉が、ゆっくりとその口を開き始めていた。カイの本当の試練は、まだ始まったばかりだ。


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