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刻印階級に振り回されて

作者:ギアス
最終エピソード掲載日:2025/10/13

神が与えし恵みの光は、強者だけに降り注ぐ。それが、この世界の絶対的な理(ことわり)だった。
剣と魔法が支配し、神の恩寵たる自然と、それを脅かす魔物が共存する世界。人々は神から与えられた五つの絶対的なルールを遵守し、生かされていた。
一、階級が上のものには絶対服従。
二、五年に一度は試練に挑戦する。
三、同じ階級同士の揉め事はどちらかが折れるか決闘で決める。
四、アクマと契約してはならない。
五、神のお告げは絶対である。
中でも第一のルールは、人々の生き死にすら左右する、血よりも濃い戒律だった。
少年の名はカイ。その二の腕に刻まれた階級印は、最も蔑まれるべき最下級位――『泥鉄(でいてつ)』。それは、泥の中に転がる鉄屑にも劣る、という意味が込められていた。
「おい、泥鉄のカイ!聞こえねぇのか!」
背後から投げつけられた唾を含んだ声に、カイは背負っていた魔物の素材袋を降ろし、ゆっくりと振り返った。そこにいたのは、胸を反らせた三人の男。彼らの腕には、カイの一つ上、『青銅(せいどう)』の階級印が鈍く光っていた。
「これはこれは、ブラム様。何か御用で?」
カイは表情を殺し、頭を下げる。内心でどれほど腸が煮えくり返ろうと、ルールは絶対だ。階級差は、神が定めた序列。逆らうことは、神への反逆に等しい。
「御用だと?てめぇが俺たちの狩場近くをうろついたせいで、獲物のゴブリンが逃げちまっただろうが。どうしてくれる」
「……申し訳ありません。ですが、あちらは共有の狩場のはず」
「口答えか?泥鉄の分際で!」
ブラムと呼ばれた男の拳が、カイの頬を殴り飛ばした。地面に倒れ込み、口の中に鉄の味が広がる。これが日常だった。理不尽な暴力、搾取、侮辱。ただ『泥鉄』であるというだけで、人間としての尊厳すら許されない。
「お前みたいな最下級が、俺たちと同じ場で剣を振るうこと自体、穢らわしいんだよ」
仲間たちが下品な笑い声を上げる。カイは唇を噛み締め、滲み出た血を飲み込んだ。怒りで目の前が赤く染まりそうになるのを、必死でこらえる。今はまだ、その時ではない。
彼らが見下すように去っていくのを、カイは地面に這いつくばったまま見送った。そして、ゆっくりと立ち上がり、土のついた唇を拭う。その瞳には、侮辱への諦めなど微塵もなかった。宿っていたのは、静かに燃え盛る、鋼のような闘志。

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