プロローグ
暖かい日だった。
桜は葉桜に変わり、残った花びらもひらり、ひらりと舞い落ちている。
そんな日、のどかで平和。俺はいつもどおり、親友の加藤翔梧とともに学校からの帰り道を歩いている。
俺は村沢静也。
普通の高校生だ。
だが、そう言うと、大抵「いや、普通じゃねぇよ」や、「お前が普通なら俺はどうなる?」的なことを言われる。
周りから俺は、どうも天才だと思われている。違うのに。
本当の天才は、俺の横を歩いているというのに。
良く俺たちは「天才コンビ」だとか言われる。たまにこいつらはできているとか、無茶苦茶言う奴もいるが、そういう事はないと先に言っておく。
「もう、夏か……」
「まだ5月だけど。そうは思えない暑さだよな」
「少し前はまだ肌寒かったのに」
なんということもない、くだらない話をしながら、歩いていく。
そして交差点までやってきた。ここで、俺と翔梧は別れ、残りは俺は1人で家までの道を歩いていく。
照りつける太陽の日差し。
汗がにじみ出ている。帰ったら、まずシャワーだな。そんでその後は……特にやることもねぇし、寝るか……
そんなことを考えながら歩いていた。
――そこで、世界が終わった
どれだけ時間がたったのだろうか。全く見当がつかない。
もしかしたら、あの時の次の瞬間であるかもしれない。だが100年以上が経っているかも知れない。
そもそも、俺は生きているのだろうか。死んでいるとしたら、ここは死後の世界なのだろうか。逆に生きているとするならば、ここはどこだ?
体は存在しない。
ただ青の空間。深海を思い浮かべるような世界。まぁ実際の深海は真っ暗で光なんか無いけど、とにかく深い青の世界だ。
俺の意識は水に浮かんでいる、いや、溶け込んでいるようにふわふわと漂っている。
記憶も、欠けている。まず、何があった?
俺の最新の記憶は、学校の帰り、翔梧と2人で歩いていて、そして分かれた。その後すぐ、
――俺の世界は終わった……
「村沢静也よ」
――俺の名前を呼ぶ声がする。
「世界を、救え」
――はい?
何だこの声は。まぁ神様? だろうか。
俺は声を出せないから確認のしようも無い。
「力を、与える。世界を救い出せるだけの力を」
――話が見えない……
「これから、お前はある世界に降り立つ。そこを、救え。お前は、勇者だ。村沢静也」
深い青だった世界に、光が差し込む。
あらゆる場所から差し込んだ光は、青を白で塗りつぶしていく。
水に溶け込んでいた、俺の意識も光に塗りつぶされていった。
――どこだ、ここは。
俺は、翔梧と一緒に学校から帰っていて、そして変な場所に連れて行かれて……
「異世界、か? なんだよそれ」
声が出た。当然のことなのだが、久しく感じられる。
俺にはしっかりと、地面を踏む体がある。
辺りは、草原。青々とした草、遠くを見れば森。大自然の中、という感じだ。
晴天、そして空を見上げると、ひらりひらりと、落ちてくる紙切れがある。こんな大自然の中で……
俺はそれを掴む。紙には文字が書かれていた。日本語のようで、読むことができる。
「能力の説明? これは俺に宛てられたものか?」
内容は、シンプルだが、シンプルすぎて意味不明だ。
「『お前には、チートとしか言えないような力が備わっている』。なんだこりゃ。やけに砕けた文章だな……」
さらに文章はこう続く。
『勇者、村沢静也にはこれらの力が備わった。
・魔力無限
・超能力
・鬼神の身体能力
まず、魔力ってなんだよ。
そして、超能力ってなんだよ。
あと、鬼神って誰だよ。
まぁ、いいか。
とりあえず、なんだ、暇だ。だから世界でも救うか。
現状よく分からないままに、俺の異世界? の勇者生活が始まることになってしまった。