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暴力的なドワーフ姫 もしくは、彼女の復讐に巻き込まれたパーティの可哀想な運命について  作者: 空家
第一章 失踪した美少年を見つけるべく、モンサルゲントに潜入したイオアンが、魔法の鍵を入手するために、アリシアの脱獄に手を貸そうとする
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第7話 〈土竜の一撃〉亭 5

「捜索に、行き詰ってたからじゃないでしょうか」

とダヴィドは推測した。

「少年について、たいした情報はありませんでしたし、それ以外でも〈堕天使〉さんは、壁のようなものを感じてたみたいです」


「それなら、私だって同じだ」

とイオアンは首を傾げた。

「この密書にたいしたことは書かれていない。〈堕天使〉も姿を消している以上、ほとんど手掛かりのない状態から探すことになる。私を呼んだだからといって、劇的に捜索が進むとは思えないがな……」

とイオアンは溜息をついた。

「ダヴィ、君は〈堕天使〉が掴んでいた情報を、ほかに何か知らないか?」


「そうですね……少年と一緒だった処刑人は、鉱山に入ったときには、普通の冒険者のような恰好をしてたみたいです」


「まあ、そうなるだろうな。処刑人の不吉な黒ずくめの恰好では、中に入れなかっただろう」


「ちょっと待て」

とバルバドスが遮った。

「じゃあどうやって、男が処刑人だと分かった?」


「〈堕天使〉さんは、総督府からの情報と、門番から聞いた話を結びつけたみたいです。可愛い男の子を連れてましたし、その男が背負っていた剣は、首を切り落すためのような特別に大きなものでした」


ふーんと、バルバドスが頷いた。

「処刑人が、その少年をさらった理由のほうは見当がついてるのか?」


「いや、攫ったと決まったわけじゃないんだ」

とイオアンが訂正した。

「密書に書かれているのは、ゲインが処刑人と同行していて、アクィアに向かっているのを目撃されている……ということだけだ。ゲインが護衛として雇った可能性もあるし、ただ利害が一致して、一緒に旅をしてただけなのかもしれない」


「しかし、処刑人だと分かってるなら、もっと情報があってもいいはずだ。ギルドには職人の名簿がある」


「それが、そうはいかないんだ。〈死者の日〉の祭りの最終日、生贄の儀式で、囚人の首を切り落した処刑人を覚えているか?」


「薄っすらとな。あの男なのか?」


「そうだ。あのとき公妃様は、処刑人ギルドに中止を求めた。それでスッキ伯爵が、遍歴中の得体の知れない処刑人を抜擢したらしい。この男が、どこの処刑人ギルドに属しているかは、いまだに総督府も掴めていない」


「他に情報は? 儀式では、間近に処刑人を見ていた者もいるだろう」


「あのときは仮面を被っていたからな。密書に書かれているのは、色白で背の高い、ヒトの男ということだけだ」


「鉱山の中ではどうだ? 鉱夫のほとんどはドワーフだろう。そういう奴と子供の二人組なら、目立つんじゃないのか?」


「まず、簡単に鉱山には入れません」

とダヴィが、残念そうに首を振った。

「それが〈堕天使〉さんが、捜索を断念した原因のひとつです。あと、おそらくですが、想像以上に、鉱山は冒険者で溢れていると思います。それに使われていない廃坑もたくさんありますから、隠れようと思えば、いくらでも隠れられるんです」


「それにだ」

とイオアンが悩ましい顔をした。

「いまもふたりが一緒だとは限らない。ゲインのほうの手掛かりはどうだ?」


「いちばん手掛かりになりそうなのは、少年が、コキナヴァル家の一族ということですが、その名前を名乗った形跡はないようです」


バルバドスが驚いたように眉を上げた。

「コキナヴァル家の人間なのか? それなのに、なんで俺たちが探す?」


「俺も不思議に思ってました」

とダヴィも同調した。

「タタリオン家の密偵である〈堕天使〉さんが、なぜ、他家の少年の行方を追っているのか……訊きましたけど、命令だからの一点張りでした」


「お前たちも知ってのとおり、コキナヴァル家は、沿岸部の独立領主だ」

とイオアンがふたりに説明した。

「とはいえ、他のアクィアの小領主たちと同じく、大公爵家に従属するしかない。十年ほど前までは、コキナヴァル家は、アンゴルモア家の傘下に入っていた。だが、タタリオン家が攻勢を強めたことで、今度はその軍門に降ることになった。ところがそれをいさぎよしとせず、アンゴルモア家への忠誠を貫いて、タタリオン家に屈しなかった騎士もいたんだ」


イオアンが、バルバドスに顔を向けた。

「そのとき、どうなったかは、傭兵だったお前は知ってるんじゃないのか?」


「噂だけは聞いている」

とバルバドスは頷いた。

「だが、あまり気持ちのいい話じゃない。タタリオン家の機嫌を損ねることを恐れたコキナヴァルの一族は、一方的に、その騎士を攻め立てたんだ。つまり同族争いってことになる。それで城が陥ちて、その騎士も死んだはずだ」


「そして、二人の息子は生き残った」

とイオアンが続けた。

「彼らは、人質としてタタリオン家に送られた。そのうちの一人がゲインなんだ。年齢的には十二歳ぐらいだと思う」


「あの騎士の息子かよ。じゃあ、人質であることを嫌がって、脱走した可能性もあるわけか」


「可能性はある。ただ、強くはないと思うんだ」

とイオアンが見解を述べた。

「というのは、もはやコキナヴァル領に戻っても、同族とはいえ、父親を殺した人間しかいないんだ。ゲインが戻るとは思えない。もうひとつは、タタリオン家におけるゲインの待遇は、決して悪いものじゃなかった。だから、人質であることを理由に逃げ出したという線は、私は薄いと思っている」


「複雑な生い立ちをした少年、ということだな」

とバルバドスが腕を組んだ。

「ひねくれた奴じゃなきゃいいが」


ダヴィが、思い出すような表情にった。

「〈堕天使〉さんは、高貴な家柄の少年を探すということでも、やりにくさを感じていたみたいです。あの人は平民だったので……イオアン様は、ゲインと会ったことがあるんですか?」


「あるには、あるが……」

イオアンは言葉を濁した。

「そのことについては後で話そう。他の手掛かりは知らないか?」


「あとは……ゲインが美少年であることぐらいでしょうか」

と言って、ダヴィは苦笑した。

「この情報を、タタリオン家から知らされた〈堕天使〉さんは困ってましたね。ドワーフの自分とヒトでは、あまりに美の基準が違い過ぎると」


「確かに、違いない」

とバルバドスが笑った。

「仮に、俺の目の前にいたとしても、ゲインだとは思わないかもしれんな」


「そういう点では、私も同じだ」

とイオアンが説明した。

「数年前に総督府で見たような記憶があるが、あまりはっきりしない。顔を思い出せればいいが、そばにいても見逃す可能性もある」


「ふむ。顔を見ても、判別できないのは痛いな」


「イオアン様から見ても、ゲインは美少年でしたか?」とダヴィが尋ねた。


「どうだろう? それほど近くで見たわけじゃないし……ただゲインは、公爵様の小姓ペイジに選ばれたぐらいだからな」


「小姓は、従士とは違うんですか?」


「そうだな……」

イオアンはどう説明しようかと考えた。

「戦場で騎士に仕える従士に対して、小姓は、宮廷での侍女のような役目だ。美しい少年たちから選ばれたイシュタル様の小姓のなかでも、とくにゲインは溺愛されていたというから、別格に美しかったのだろう」


「ははあ、そういうことか……」

とバルバドスは、事情を理解した顔になった。

「かなり総督府も慌てるわけだ。人質でもあり、公爵様お気に入りの小姓が行方不明となれば、かなりの大事おおごとになる」


「ああ。高貴かつ美少年であるゲインは、かなりの値段がつくだろう。正体不明の処刑人が、身代金か、奴隷として売り捌く目的で、連れ出したのかもな」


「ひとつ、いいですか?」

とダヴィが質問した。

「小姓がする、身の回りの世話というのは、具体的にはどういうことを?」


「イシュタル様が望むことなら、なんでもだ」

「なんでも……?」


「まあ……それは、いいじゃないか」

とバルバドスが話を打ち切った。

「とにかく、やるべきことは分かった。鉱山に入ってゲインを見つけりゃいいんだろ。手掛かりは少ないかもしれんが場所は限られている。鉱山をしらみ潰しに探せば、いつかは見つかるさ!」

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