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暴力的なドワーフ姫 もしくは、彼女の復讐に巻き込まれたパーティの可哀想な運命について  作者: 空家
第一章 失踪した美少年を見つけるべく、モンサルゲントに潜入したイオアンが、魔法の鍵を入手するために、アリシアの脱獄に手を貸そうとする
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第6話 〈土竜の一撃〉亭 4

相変わらずイオアンは、バルバドスたちに背を向けて、窓の外を眺めている。


バルバドスが声をかけた。

「イオアン様、聞いているか。やっと任務の内容が分かるぞ。まさか、昔の知り合いが教えてくれるとは思わなかったがな」


だが、イオアンは動かない。


バルバドスが、痺れを切らしたように繰り返した。

「どうした? 聞こえてるんだろ?」


「本当に、その若者は信用できるのか? お前は覚えてないんだろ? すべて作り話かもしれない」


「何を言ってるんだ。こいつの顔は覚えてないが、干潟の村の話は、俺の記憶と一致する。そもそも疑う理由がないだろ」


「タキトゥス家の罠かもしれない。もしくは、私への復讐を遂げるために送り込まれた刺客だとか」


「考え過ぎだ。いいから、ちょっとこいつの顔を見てみろって。絶対に刺客って顔じゃない。たしか、お前の村の名産は蟹だったよな?」


「はい。たくさんワタリガニが採れます」


「な? 年がら年中、蟹ばっかり採ってるような顔をしている。嘘なんかつける男じゃないんだよ」


イオアンはまだ背を向けている。

「では、ダヴィ君、任務の内容を説明してみてくれ」


「俺は詳しく知らないんです。これを渡すように命じられただけなので」


ダヴィは懐から封書を取り出すと、バルバドスに手渡した。バルバドスはその封書を、背を向けているイオアンの前に置いた。


イオアンは手元で隠すようにして封書を確かめた。


宛名などは一切ない。封蝋は確かに、総督府の監察長官の刻印がされている。封を開け、一枚の文書を取り出すと、イオアンは目を通した。すぐに読み終えると溜息をついて、文書を畳んでバルバドスに戻した。


「どうした?」

バルバドスが心配そうに尋ねた。

「イオアン様には、難しそうな任務なのか?」


「そうじゃない。私が期待されているのは、この程度ということなんだろう」

「で、何をするんだ?」

「人探しだ」

「やることがはっきりしていて、いいじゃないか。何が不満なんだ」

「もっと大きな仕事を任されるのかと思っていた」

「いったい、どんな仕事だよ」

「帝国を揺るがすような陰謀とか、古代都市の謎を解き明かすとか……」

「やめてくれ。そんな任務だったら何年もかかるぞ。イオアン様だって、早く戻りたいんだろ?」

「この仕事を終えたら……戻れると思うか?」

「さあ、それはどうかな? いまは小さい仕事をこなし、実績を積み上げていくしかないんじゃないか。そう簡単に許されるとは思えないし……」

「そうか。拍子抜けしたよ」

「それにだな」

「何だ?」

「背中を向けられると話しにくい。いい加減、顔を見せてくれ。もう、ダヴィのことを信用してもいいだろ」


仕方なくといった感じで、イオアンは振り向いた。


「あっ!」とダヴィが声をあげた。

「どうした?」とバルバドス。


「見たことがあります!」

「イオアン様をか? どこでだ?」

「モンサルゲントの路地を歩いているのを見ました」

「なんだ、ダヴィは会ってたんじゃないか。特徴を聞いてなかったのか?」

「教えられてはいました」

「でも、見分けられなかった?」

「背が高くて高貴な血筋のエルフの若者としか、教えられてなかったので……」

「まったく、その通りだろう」とイオアン。

「フードを被ってたので、エルフだとは判別できなかったんです」

「顔を隠していたのかよ。それじゃあ相手も見つけられんだろ」とバルバドス。

「注目を浴びたくなかったんだ」とイオアン。


「それに……」

とダヴィが申し訳なさそうに付け足した。

「とぼとぼと背中を丸めて歩いてたので、俺には、鉱山で鉛中毒にかかった冒険者に見えました」


「君はかなり失礼だな。私は寝不足だっただけだ」

「……すみません」


バルバドスが尋ねた。

「それで、誰を探すんだ?」

イオアンはダヴィを見ると、答えるのを躊躇ためらった。

「ここで話すのは……どうかと思う」


「あの……」

とダヴィが申し出た。

「もし探しているのが、ゲインという少年のことでしたら、俺も聞いています。〈アクィアの堕天使〉の手伝いをしてたので」


「そうか、君はゲインのことを……」

とイオアンが訊き出そうとすると、バルバドスが嬉しそうに身を乗り出した。

「おお、〈アクィアの堕天使〉か! どんな女だ?」


「どんな女かと言われても……」

「美人か?」

「どうなんでしょう。ドワーフの美人の基準が、俺にはよく分からないので……」

「ドワーフなのか!」

「ええ。アクィア生まれだと聞いています」

「仕事はできる女か?」

「そうだと思います。ちょっと、いい加減なところもありますけど」

「ふむ。いちど会ってみたいものだな」


「その女の話は、もういいだろう」

とイオアンが話を戻した。

「ダヴィが、少年の捜索を手伝ったときのことを教えてくれ。まずゲインが、この町にいるというのは確かな情報なのか?」


「そこまでは〈堕天使〉さんが調べてました。モンサルゲントの鉱山に入っていく、それらしい二人組を門番が見ています」


「二人組?」

とバルバドスが訊いた。

「ゲインという少年は、ひとりじゃなかったということか? 連れがいたわけか」


「ええ、処刑人です」

「連れが処刑人! いったいどういうことだ?」


「そのことは、すでにここに書いてある」

とイオアンが密書を掲げた。

「私は、この密書に書かれていないことを知りたいんだ。ふたりが鉱山に入ったのはいつ頃になる?」


「二週間ほど前です」

「何のために、鉱山なんかに?」


「分かりません。〈堕天使〉さんも掴んでいなかったと思います。もしかしたら護衛の仕事かもしれません。モンサルゲントの鉱山では多いので」


「なるほど、この町でやたら冒険者を見かけるのはそのせいか……だが、二週間前だと、もう鉱山を出たかもしれないな」


「かもしれませんが、出たという話もないようです」

「その門番には会えるのか?」

「残念ながら数日前に、女の門番に代わってしまいました。〈堕天使〉さんが原因かもしれません」

「それはなぜだ?」


「最初の門番は、酒にだらしのない男で、〈堕天使〉さんは酒場に誘ったり、色仕掛けで情報を聞き出そうとしてました。それが新しい門番に代わってから、逆に捕まるかもしれないと、俺に仕事を押しつけていなくなったので……」


「当局に、ばれそうになったか……?」

とイオアンは首を傾げた。

「それで、いま〈堕天使〉がどこにいるか、君は知っているのか?」


「公爵領に戻ったんじゃないんですか? 俺のほうが教えてほしいぐらいです」


「密書に書いてないのか?」とバルバドスが訊いた。


「ここには書かれていない」

とイオアンが答えた。

「〈堕天使〉がいる前提で、私が任務を引き継ぐことになっている。密書が書かれた時点では、上手くやっていたんだ。だとしたら理解に苦しむのは……どうして私なんかを要請したのかだ」


イオアンは考えながら、密書の入った封筒を指でトントンと叩いた。


「〈堕天使〉なら独力でゲインを探せただろう。それなのに、まったく未経験の私をなぜ呼んだんだ?」

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