表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
暴力的なドワーフ姫 もしくは、彼女の復讐に巻き込まれたパーティの可哀想な運命について  作者: 空家
序章 ドワーフの領主夫人のアリシアが、暗くて狭い場所に閉じ込められている
1/56

第1話 アリシア 1

子供の頃から、同じ夢を見るの。


冷たい土の中に引きずり込まれ、息ができなくなり、苦しくなって目が覚める――そこに至るまでの状況はいろいろだけど、結末はいつも一緒。


どうしても逃れられない。


そして、その原因は自分にあるという、漠然とした感覚がある。


これは罰なのだ。

自分の犯した罪を償っている。

だから、受け入れるしかないのだ――。


そういう感覚が、昔から私にはあった。


だから嫌なことがあっても、子供のように駄々はこねるけど、最終的には抵抗をやめて、現状を甘んじて受け入れてしまう。


それでも、暗闇の何かを見るよりはマシだった。その存在に気づくことがあっても、それ以上感じることを恐れて、いつも何かの刺激に逃げた。暴れることができなければ食べるか、飲んでいた。


だから、昨日の夜も飲んでいた。ひとりで。


こっそり食堂からくすねたワインを、クローゼットの奥に何本か隠してある。私は領主の奥方なのだから、本当は盗む必要も隠す必要もない。使用人に命じて部屋に持ってこさせればよかった。でも堂々と飲むことは気が引けた。


たぶん、酒を手放せなくなっていることを、自分で認めたくなかったのだろう。


けれど、ワインは水だ。


昨日の夜は、それこそ浴びるように飲んだ。また自分を惨めに感じることがあったから。それを忘れたくてがぶ飲みした。どうやってベッドに潜り込んだのか、まったく記憶がない。


そして、また同じ夢を見た。


夢の中で息ができなくなり、ベッドからがばっと体を起こした。冷や汗をかいて目を覚ました私は、はあはあと荒い息をして胸に手をあてた。


まだ心臓が動いている。死んではいない。


豪華な天蓋つきのベッドのまわりは暗かったから、まだ夜が明けていないのだろうと思った。朝になるまで、もう一度寝ようとした。まったく夢を見ないか、せめて、あの夢でないことを期待して――。


そのとき、右手が壁に触れた。


枕に頭を横たえ目を閉じてから、何かがおかしいことに気づいた。


壁――?


ベッドは寝室の中央にある。壁に触れるはずがない。


私はむくりと体を起こし、右手を伸ばした。やはり壁に当たる。ごつごつした冷たい岩肌だった。


私は混乱した。


ベッドの左手から、レース越しに光が差し込んでいる。私はレースを払い除けた。


こちら側も壁だった。ベッドから、人ひとりが立てるぐらいの隙間の向こうに、壁が迫っている。


ここは、いつもの寝室じゃない――。


理解が追いつかないまま、私はベッドに手をついて外に身を乗り出した。明かりはベッドの外、天井に吊り下げられたランプからだった。


ランプとベッドのあいだは格子扉で隔てられている。格子扉は、ランプの光を反射する滑らかな金属の棒で組まれていた。


頭をぐるりと巡らすと、私がいる天蓋つきのベッドが、とても狭い独房のような部屋に配置されているのが分かった。壁との隙間はほとんどない。


独房?

どういうこと――?


私は夢遊病者のようにベッドから床に降りた。そこで自分が革靴を履いて、ピンクのドレスを着ていることに気づいた。


これは昨日の恰好のままだ。


昨日、寝室で飲んでいたのを思い出しながら、私は格子扉に近づき、軽く押した。


格子扉はガタンと音をたてたが、開かなかった。


私は金属の格子を掴み、手前に引いた。

やはり開かない。

扉を揺すったが、びくともしなかった。


取っ手はなく、扉の下と床のあいだに二十センチほどの隙間がある。


私は格子扉に顔を近づけ、外を眺めた。


通路が扉の外のランプに照らされている。左右にも同じような扉がある。ランプの光は弱いので数メートル先は真っ暗だった。


空気はひんやりと湿っている。物音はまったくせず、人の気配もない。


まわりの格子扉の向こうに、誰かがいるのではないかと思い、呼びかけようとしたが、喉が詰まったようになぜか声が出なかった。


私の中で押しとどめるものがあった。声を発することは、得体の知れない何かを起こすような気がした。


つまり――閉じ込められているんだわ。


そう思ったけど、それで思考が止まってしまう。私はベッドに戻り、横になって布団を被った。


まだ夢を見ているの。たぶん、悪い夢の続きを。


もう一度寝よう。今度目を覚ましたら、いつもの寝室の窓から朝日が差し込んでいるはず――。


私は目を閉じた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ