2-2話 地獄の特訓
「……んぁ…」
あれから何時間経っただろうか、かなり寝ていた気がする。何をしていたっけか、と思い思考をめぐらす。
「よぉ。やっと起きたか。」
突如聞こえた女性の声に翔はその方向を向く。そして寝る前、というよりは気絶する前のことを思い出した。
「え、あ、っと、お、おはようございます?」
「ああ。ざっと3時間だな。早い方か。」
3時間、と言われ、パッと思いつくのは翔が気絶して意識を落としていた時間であるが、早い、とは何なのだろうか。と考えていると思い出した事があった。
「あの…そういえば入隊?とかはどうなるんですか?」
翔は本来部隊に所属するためにここに来たのである。
「ハァ…それだがあたしが出した試験を合格してしまったからには、入れざるをえないだろうな。」
「それは、つまり入隊でいい、ということですか?」
「そう言ってるだろう。悲しいことにな。」
「やった。」
「だが、そのかわりあたしの言うことは聞いてもらおう、絶対にな。そしてあたしの名前は桜だ。よろしく。」
「はい。よろしくお願いします。」
こうして無事に入隊することが出来た翔であった。そしてこの人案外優しいのでは、と思うのでもあった。
「ところで、入隊するにあたってお前のことを色々調べさせてもらった。特に問題となる箇所は見当たらなかった。1つ言う事があるとすれば能力が2つある点だろうな。」
「?…能力が2つあるのって何かおかしいんでしょうか。」
初めて能力検査した時も検査員の人が驚いていたのをぼんやりと思い出す。
「そこからか…まあいいだろう。この世界の人は能力を持っている。大多数の人間は能力は1つしか持っていない。だが極稀に能力を2つまたはそれ以上持つ人間が生まれてくる。そしてここはそんな特殊な人間が所属する部隊だ。因みに言っておくがお前が7人目であたしが6人目だ。」
そう聞くと翔は自分がかなり特別であるかの理解ができた。まあ翔はかなり変な状態であることは認識してはいたが他の世界でも変であるとは思わなかったが。
「へぇ〜。不思議ですね。」
「そんなのんきなことを言っている場合てばない。本来1つしか能力を持っていないんだ。2つあるということはその分脳に負担がかかるということだ。コントロールもしづらくなるから暴発だってしやすくなる。だから」
そう言いベット近くにあった椅子に腰掛けていた桜は立ち上がり勢いよくこう言った。
「能力を使えるようになるように訓練をする。それに伴って身体の方も鍛えていこうと思う。あたし達はこれから難度の高い任務を回されるだろうからな。あのクソハゲとは話をつけてあるから、あたしがいいと言うまで任務を向こうから回すことはないと思うがな。明日から始める。気合を入れていけ。」
「わかりました。」
能力を使えるようになれば色々便利だなぁ、任務ってどんなのだろうか、なんて考えながら寝ていたベットから降りて桜が持ってきてくれた荷物をまとめようとしたとき
「…そういえばお前のバッグの中に入っているそれは何だ?」
「それ……?」
と言われ翔はバッグの中を確認する。そこにはいつか行った神社で拾った木箱が入っていた。
「んなっ…!」
なぜここにあるのか疑問しか思い浮かばない。
「それから不思議ななにかを感じる。中身を知らないのか?」
その問いかけに対し翔は目を木箱にに向けたまま小さく頷く。
「なら、開けてみたらどうだ。特に悪い気はしない。……というか開けたほうが良い気がする。」
強者の勘とでも言うのだろうか、桜はそう促す。実は翔自身も驚きと戸惑いはありつつも悪い気はしていなかった。そして逆に開けたいという感情のほうが湧いてきた。
「……っ、では、開けます……!」
ゆっくりと木箱を開ける。そして中には白い布で包まれた物が入っていた。その布を慎重に外し遂に中に入っていたものの正体が分かった。それは、ナイフであった。それもしっかりと腰に巻き付けられるようにベルトも入っている。
「これは……」
「少し見せてみろ。」
そう言い手を差し出してきたので翔は桜にナイフを手渡す。そしてそのナイフを観察する。
「ふむ…。不思議な気を感じるが一般的なナイフだな。刃はどうなってるんだ?……ん?何だこれ、抜けん…」
桜がナイフを抜こうとしても抜けることはなく、力を込めたり少しばかり能力を使ったりしてもナイフが抜けることはなかった。
「抜けん。お前は抜けるのか?」
「初めてみたのでできるかわかんないですよ?」
と言ったすぐ、あっさりと抜け、刃が姿を現した。
「……抜けましたね…」
「よくわからんな、それは。まああたしは戦闘においてナイフは使わないから別にいいんだが。」
いいんだ、と思う翔は改めて今しがた抜けたナイフの刃をみた。どこか錆びついてるわけでもなく刃が欠けているわけでもない、綺麗な刃。それ以外、特に何かあるわけでもない。翔は一通り見終わるとナイフを柄の中にしまい、バッグの上に置いた。
「まあ、取り敢えず明日から訓練を始めるから、はやく飯を食って風呂入って寝ろ。」
「あ、はい。」
そんなこんなで入隊初日はサラッと終わった。
そして翌日、朝の5時に叩き起こされかなり早い朝ごはんを食べたあと動きやすい服に着替えて外に出ろと言われた。
「遅い。もっとはやく動け。」
着替えて外に出ると、スポーティーな格好をした桜がいた。腰より少し上ぐらいにある黒く綺麗な髪をポニーテールにして玄関の前に立っていた。顔立ちはかなりいいので様になっていた。
「はい。」
「さて。突然だが能力を扱う上で大事なのは何だと思う?」
「えっと、自分の能力を理解するとか、コントロールできるようにする、とかですかね。」
「その年齢でその2つが出てくるのは凄いが、足りないな。あとは体を鍛えることだ。あと能力によっては勉強も大事だったりする。体を鍛える理由だが、分かるか?」
「………能力を使うときに体が耐えられなくならないように……でしょうか。」
「正解だ。自分の体は能力によって多少変化する。つまり例えば炎を使う能力は軽い火傷や外界から受ける高温に耐えられる、といった感じだな。だが体を鍛えれば常人なら皮膚が爛れるような炎に当たってもノーダメージになる。まあ鍛えるだけじゃ効果は薄いがな。」
「へぇ…。それは大事ですね。」
「それにお前も写真かなんかで見たことはあるだろうがクリーチャーと戦うことになるんだひ弱な体じゃ直ぐにくたばる。能力を強化する前に土台となる体を鍛えよう、というわけだ。」
桜はそう言うと薄く邪悪な笑みをしてとんでもないことを言う。
「まずはランニングだな。その後は基礎的な筋トレ、休憩を挟んでもう一度ランニング。これを2週間、毎日やる。今は…6時10分ほどか、なら7時ぐらいまで走るか。」
「へ?…いや!辛くないですか!?そんなの倒れちゃいますって!なんでそんな長いんですか!」
「最初はそうだろうが、明後日くらいには少しマシになんじゃないか?時間が長いのは全身運動になるのと体力をつけるためだ。つべこべ言わず走れ。あたしも走るから、ほら行くぞ。」
「いやだぁ〜」
そして途中で5分ほどの休憩を2、3回挟んで7時まで走りきった。翔はこれがあと2週間続くと思うと絶望した。
「かなり軽めに走ったが意外と走れるんだな。」
「ハァ…ハァ…今のが軽め……?つら…」
(まぁ、でも、2回目以降、何故か身体能力が引き継がれてたからそれが今にも影響してるのかな。)
「さあ、今度はコースを変えて走るぞ。」
1時間弱走ったというのに涼しい顔をしてる桜すげえなんて思いながらつい口に出してしまった。
「なんで平気なんですか…」
「あ?そんなの慣れてるからに決まってるからだろ。何言ってんだ。」
「……ソッスカ」
その後お昼前までランニングをして、ご飯を食べて筋トレをして、もう一回走って1日が終わった。翔は終始つらいしか思っていなかった。
「終わった…もう…無理…」
ベッドに気絶するようにして翔は寝た。
こうして地獄の特訓が始まった。
突然ですが謝らせてください。
不定期で申し訳ないです。
中々手がつかず前回、今回かなり空いてしまって申し訳ないです。それで実感したのが創作物って大変なんだな、ということです。漫画とか動画とか毎週、毎日投稿してる人改めて凄いと実感しています。これから先も不定期になると思います。逃げてる訳ではないので気長に待ってくれたら助かります。なるべく早く書きます。