2-1話 別世界での物語
銃声――。
普段は聞くことはないであろう音。
聞くことがあるとすれば、アニメ、ドラマ、映画などであろう。
翔は最初、銃世界やら戦争やらと思っていたが実際はそうではないらしい。
なら結局この世界は何なのか、ということになるがそれを知るのはもう少し先のことで、知ったのは翔が産まれてから5年、つまりは5歳のときに知ることになった。
経緯としては――――
「ねぇねぇ!翔君は能力って知ってる?」
突如そんなことを友人であり同じ孤児院で暮らす恭也から言われた。
何やら少し分厚めの本を持っているが、なにかの作品なのだろうか。
「能力?いや…知らない。」
「能力っていうのはね、大人が皆持ってるものなんだよ。それを使って悪いやつを倒してるんだってさ!」
「へぇ〜。じゃあ俺らも能力いつか使えるのかな。というか悪いやつって?」
悪いやつ、と聞いてパッと思い浮かぶのは罪人やらテロリストみたいなものだが、なんとなく違う気がして聞いてみた。
えーと、と言いながら持っていた本を開き翔に見せてくる。
「ほら、これ。この僕らの知ってるワンちゃんとかネコちゃんじゃないやつ。」
そのページに載っていたのは翔が今まで見てきた動物とはかけ離れた生き物のようなものが載っていた。
「なにこれ。今まで発見されたクリーチャー?こんなの現実にいるわけがないと思うけど。」
「でも、僕これ見たことがあるんだ。ここに来る前に一瞬だけ、見たことがある。」
そう言う恭也の顔は嘘をついているようには見えなかった。
「…信じるよ。」
「ほんと?」
「うん。…ところでさ。その本はどこから持ってきたの?」
「え?えっとこれはルカさんの部屋に置いてあったやつ。」
ルカさん、と言われているのは孤児院で翔達をお世話してくれている人である。年齢は20代で、すごく優しい人だが怒るときは怒る人としてすごい人。そしてそんなルカさんの部屋はなるべく入るなと言われているのである。入ったら怒られる。そしてそんなルカさんが今ちょうど後ろにいるのを翔は黙っていた。
「…俺は知らないからな。」
「え?」
「恭也君?勝手に入るなって言ったよね?」
「アッ…」
そのあとこっぴどく叱られた恭也であった。
この一件でルカさんから、世界がどうなっているのかを教えてもらった。
簡単にまとめると、
40年ほど前に人類に不思議な力が宿った。当時大パニックが起こり社会が機能しなくなったが、長い時間をかけて人類協力しあい普通の生活をおくれるようにまでしたらしい。だがちょうど15年前に今までの生態系にはない生物が姿を現し人類を襲った。そして時間が経つにつれて被害も大きくなりそれぞれの国ごとでそれに対処するのではなく、国際的にすることにした。そこで今までやっていた能力やクリーチャーに対しての研究を加速させ、対抗できるようにした。安心出来るようになったが5年前突如として大量のクリーチャーが湧き人類を滅亡近くまで追い詰めた。そして人類は12のシェルターに身を隠して生活している。今でもクリーチャーが人間を襲う理由は分かっていないし、能力がある理由も分かっていない。
というのがこの世界の歴史らしい。ついでに聞いたがここは第3シェルターにある孤児院だそうだ。話をしたあと院の他の子に呼ばれたルカさんは翔達のもとを去っていった。
この話を聞いてしばらく考え込んでいた恭也が突然
「僕クリーチャーを倒して皆が楽しく過ごせるようにしたい。」と言った。
突然ではあったが今まで恭也と過ごしてきて更に他の世界でも知り合っている翔は特段驚きはしなかった。
「…俺もそれにのっかるよ。」
翔はこの世界で何をしたらいいのか見当もついていなかったし、それをやったほうがいいと直感的に思った。この言葉を聞いた恭也は目を丸く見開いて少し笑ったあとこう言った。
「なら、どっちが沢山のクリーチャーを倒せるか勝負しようよ。」
「いいね。それなら明日から2人で特訓でもする?」
「うん!頑張ろう!」
というのが、この世界を知ることになったきっかけである。そしてその話をしてから更に5年経ち、2人は能力を得た。そしてそのまま能力の測定にはいりどこの部隊の所属になるかが決定した。2人はそれぞれの部隊の人に迎えに来てもらうのを待っていた。そんなとき恭也の所属先になった部隊の人が迎えに来た。
「じゃあ、先に行ってくるよ。」
「おう。しばらくは会えないだろうが定期的に連絡はしようと思う。頑張れよ。」
「うん!またね。」
そして1人になった翔のもとにほどなくして頭の輝くガチムチなおっちゃんが現れた。
「君が翔君だね?本来、私は君の部隊の人間ではないのだが私が迎えに来た。」
「それは何でですか?」
「君は特別だからだ。おっと名乗り忘れていたね。私は神宮寺大吾。よろしく。」
そう言い手を差し出してきた。少し躊躇いながらも手を交わし合う。
「っす。よろしくお願いします。」
「そう気を張らなくていい。君と私は長い付き合いになりそうだからね。」
「?」
「まあ後でわかるさ。さあ、ついてきなさい。」
歩き出した大吾について歩いていくと、飛行場に案内され飛行機に乗るよう促された。飛行機と言っても旅客機みたいなものではなくまるで戦闘機を彷彿とさせるものだった。それに乗り30分ほどすると目的地に到着したらしく、降ろされた。
「ここは?」
「ここは対クリーチャー組織の日本支部。日本には各地に基地があるがここはその統括場所だ。つまりは本部、ということになる。」
「え…。俺なんでここに連れてこられたんですか?」
「迎えに来た時も言ったが、君は特別だ。だからここにいる。そしてここにしか君が所属できる部隊はない。」
そんなことを言われ、自分はそれほど特別か?と考える。他の人には人生をやりなおしてることは分からないだろうから何が特別なのかイマイチピンときていない。
「さあ、あと少しだ。ついてきなさい。」
ついていくと建物の中に入るのではなく外周を歩き入り口の真反対まで歩いた。反対側は自然が広がっていてその中を進み始めた。そしてしばらく歩くと家が見え始めた。家の周りは特に目立ったものが無かったため自然の中に異質なものがあり、違和感があった。そしてこの家の前に止まり
「ここが君の所属先となる部隊の場所だ。」
と言った。
「…は?ここですか?」
「そうだ。ここだ。ここにとある人物がいる。その人が部隊責任者だ。取り敢えずはいろうか。」
玄関の前まで行きドアを開けようとするとドアが勢いよく開き中から出てきた人物が大吾を吹き飛ばした。
「あたしは言ったはすだ。この部隊の責任者にはならないし、この部隊を解隊すると。なぜ来た?」
「熱烈な歓迎だな。桜。」
ダメージをほとんど受けた様子はなく、ゆっくりと立ち上がる大吾。桜と呼ぼれた人物は翔を見るなり舌打ちをした。
「こいつが7人目か?」
「そうだ。だからここに来たのだ。」
「無理だ。引き返せ。あたしには何もできない。」
そういう桜の顔は思い詰めたような表情をしていた。
「まだ引きずっているのか?早く前を向け。そしてその子を立派に育て上げろ。」
「ッ!」
ドカッと鈍い音がした。だが桜はその場から移動はしていない。
「あんたに何がわかる!」
「全てではないがなんとなくは分かる。だから前を向け、と言っている。」
そして何かに気づいたのか腕時計を見て
「すまない。このあと予定がビッシリ入っているのでね。ちなみに言っておくがその子はもう部隊に入っている。だから追い返そうとしても君に責任があると通達が行くだろう。」
と言って去ってしまった。
「…チッ。おいガキあたしはお前を部隊の1人だとは認めない。だが追い返したら面倒なことになる。だから試験をする。」
「えっ、は、はい。」
返事をすると急に体が動かなくなった。どう足掻いても動かせそうにはない。
「それはあたしの能力の1つだ。その拘束から抜け出せたら部隊の一員だと認めてやる。ちなみに言っておくがあたしはこの程度なら1年以上はもつ。そして拘束しているだけだから腹は減るし喉は渇くぞ。あたしはお前が死んでも構わんと思っているからな。救済があると思うなよ?」
そう言うとさっさと中に入ってしまった。
「くっ……!」
(どうする…。どうやって抜け出す?下手に動かすと体力を食うだけっぽいな…。くそ…。能力には能力か?使うことはできなくもないけどうまくコントロールできないし…。でも、やるしかない。)
翔は能力を2つ持っている。1つはバリアを展開すること。2つ目は何か物を転移させること。だが能力は発現したばかりで、コントロールもくそもない。使えるかどうかすら怪しい。なりふり構っていられなくなった翔はこの能力でどう突破するか考えていたが全く思いつかなかった。だがそのとき1つのアイデアが沸き起こった。それは危険極まりないが拘束から逃れるためにはそれが確実だと思うった。
「っっっっくううぅぁぁぁあああ!!!」
そして拘束は解けたが体に物凄い疲労が溜まり今にも倒れそうになった。そんなときドアが開き桜が飛び出してきた。
「まさか…。こんなはやく解かれるとは思わなかったな。弱くしてあったわけでもないのにどうやって…。」
「ハァ…ハァ…。ふぅ……とけ…ました…。」
「はあ…くそっ。仕方ない、認めやる。だがこの先なにかヘタれたことをしてみろ、直ぐに除籍にしてやる。覚悟しろ。」
「はは…。やった………。」
これを言った後翔は疲れ切って倒れてしまった。意識を失う前にギリギリ聞こえたのは舌打ちと仕方ない、という言葉であった。
こうして、新たな世界の新たな生活が始まるのだった。