2-7話 再会
任務を単独遂行するようになってからかなりの時間が経った。翔は16歳になった。今日は任務がない、いわゆるオフの日というやつである。最近の翔は連続で任務をやっていて、それに数も多く、まともに休みを取れていなかった。そこで、一週間の休みの申請をしてみた。案外すんなり申請が通りいいんだ、と思う気持ちと嬉しい気持ちが心の中に同居していたが、最終的にまぁいっか、となった。そして現在は朝の8時半を少し過ぎたころ、翔は自然と起きた。長めの睡眠を久方ぶりにとれたことで頭がかなりスッキリとしている。
「久しぶりによく寝たなぁ。」
う〜ん、と思いっきり伸びをしながら独り言を呟く。任務がないと暇だなぁ、なんて思いながら一旦歯磨きやら洗顔やら着替えを済ませる。一階に降り、リビングへ続く扉を開ける。開けてすぐ、おはよう、と桜の声が聞こえた。それに続き翔も、おはようございます、と返す。
「今日から一週間休みなんだったか。」
「そうですね。案外あっさり申請が通ってびっくりです。」
「あたしらはそこそこ融通の利く立場にいるからな。ただ今回に関しては妥当な判断だと思う。連続で任務なんてめっちゃ疲れるからな。まぁ、もう少し多めに休みをとってもよかったと思うがな。」
朝飯は自分でよそりな、とキッチンの方へ促される。今回はトーストのようだ。食パンを袋の中から取り出しオーブンで焼き始める。その間にすでにできていた目玉焼きとベーコンを温めなおす。ほとんど生焼けの状態であったため翔好みの焼き加減に調整できるようにされてある。そして冷蔵庫から少し多めにサラダをとる。コーンスープもよそり、あとは焼きあがるだけというタイミングで、丁度よく焼きあがりのタイマーの音がなった。トーストにバターを塗りその上に目玉焼きとベーコンをのっけてお皿を運び、席に着く。
「いただきます。」
そして一口。サクッ、と良い音がする。ほどよく焼けたパンに半熟の目玉焼きとベーコンが良い仕事をする。心の中でうめぇ〜、と言いつつ食を進める。次にサラダを口に運ぶ。冷やしてあったサラダはまだまだみずみずしく、口の中でシャキシャキと音をたてる。その後はコーンスープで落ち着きトーストをもう一口。おいしそうに食べる翔の様子を桜は食器を洗いながら眺めていた。
翔の食事と後片付けが終わったタイミングで、タブレットで何かを見ていた桜が翔にそういえば、と話しかけた。
「かなり前からになるが他の部隊から模擬戦の要望があったことは知っているな?」
「あぁ…。確かに何回かありましたね。」
翔自身、模擬戦をしてほしいという事を直接だったりメールだったりと何度かされた。その度にまだ未熟だから、という理由で拒否し続けていた。一年くらい前からやっても問題ないんじゃないか、と翔は思い桜に言ってみたが桜によると翔はまだ力加減がうまくできていないらしくもっと成長してから、と言われた。
「実は断るように言っていたのは未熟だからという理由の他に相手が弱すぎる、という点にある。」
「弱すぎる、ですか…俺じゃなくて?」
「そう、お前じゃない。相手側が、だ。やってもよかったがその場合すぐに終わる未来が見えた。それに一年くらい前か?にも言ったが力加減うまくできていなかったのもあって相手に重傷、最悪殺す可能性があった。」
「そんなにですか?」
「お前、自分がどれだけイレギュラーか分かってるのか?」
桜は呆れながら翔について語っていく。
「能力を二つ持つこと自体がそもそもとして特殊。それだけならよかったといえばよかったがお前の場合成長スピードが桁違いに早い。能力が二つあるから通常のだいたい二倍ぐらい時間を使って鍛えなきゃいけないのにお前は普通と同じくらいの時間で使えるようになったんだ。イレギュラーでしかない。他にも――」
といった具合に何点か追加で翔のイレギュラーポイントを説明していく。
「わかったか?」
「はい…わかりました…。」
気づいたら正座し桜の話を聞いていた。
「はぁ…で、そんなお前も対等に戦える部隊からの要望が来た。最近活躍してる部隊でお前と同じように難易度の高い任務をやっている。」
桜からタブレットを渡され、部隊の実績を見せてもらう。だが翔は特に周りのことを気にしないので全く分からなかった。
「へぇ〜。初めて知ったなぁ。」
「お前は知らなさすぎるんだ。」
「いて」
軽く頭を叩かれた。頭をさすりながら画面を眺めているとある事に気づく。
「この部隊、恭弥がいるんですね。」
「そうだ。今回模擬戦をやることにした理由もその一つだ。部隊の隊長を務めてるらしいぞ。かなり優秀らしい。」
「まぁ、あいつならそうか…。」
久しく会っていない親友を頭に浮かべる。
「…あっ、そういえばいつ模擬戦をするんですか?」
「お前の休みが終わってからにしようと思ってるがまだこの日と決まっているわけじゃない。だがこの事は頭に入れといてくれ。詳しく決まったら言う。」
「わかりました。」
そんな事があった10日後。向こう側にあわせた結果それなりに時間が経った。どうやら恭弥達は恭弥達で任務に就いていたようだ。模擬戦をするのは翔がいつもお世話になっている研究所である。
(まじでなんでもできるな、ここ。)
秀人のところにしか普段行かないためどんな施設があるのか全く把握していない翔である。
(これを機に色々探検してみようかな。)
歩くこと10分ほど。ちょっとしたホールのような場所に着く。ここが目的地であるが、相手方はまだいないようでその場には翔、桜しかいない。ソファに座り待つことに。
「一番乗りですね。」
「まあ、時間に追われてるわけではないから別にいいがな。…さて、これから戦うわけだが心の用意はいいか?」
「勿論。本格的な対人戦は初めてですからね、少しわくわくしてるくらいです。」
こう言うと桜は微妙な顔つきになるが、軽くため息を吐き額に手を添えながら小さく呟く。
「ハァ…ネガティブな気持ちを持っていないだけマシか…?」
そんな会話をしていると廊下の奥から覚えのある気配を感じた。その気配は人と人の間をすり抜けながらまっすぐこちらへ向かってきている。その者は翔達を見つけると走り出した。それも凄くにこやかに。翔も姿を視認する。
(あぁ〜やっぱ凛さんだった。…ん?これは、嫌な予感がするな…。)
そう思いベンチから立ち上がると、凛は翔に抱きついた。予感は見事的中し、翔は何とも言えない気持ちになる。
「久しぶりねぇ〜!翔く〜ん。」
「あぁ、はい。…久しぶりというほど時間は経ってない様な気もしますが。」
凛とはお互い忙しく1カ月ほど会える時間はなかった。というより、翔の任務がだいたい遠征で野宿やらをすることが多いから物理的に難しいからであるが。
「それでもこうして会えるのは嬉しいわ。」
「……」
少し照れくさくなる翔。やりとりを見ていた桜はうんざりした顔で翔から凛を引きはがす。
「一応公衆の面前だということを忘れるな。」
「むぅ〜、ケチね。」
「…はは、ありがとうございます…桜さん。」
「はぁ…お前からもなんかすればいいだろうに。ま、何となく気持ちは分かるがな。」
翔は凛のスキンシップに対し、もう諦めの心を持っている。かなり前だが控え欲しいと言ったところ、数日は我慢したものの結局爆発したので抑制しても意味がないことを悟った。どうやら桜も同じようなことがあったらしいというのは別の話。
「賑やかだと思ったら、やっぱり翔君だったか。」
「ん?」
やいのやいのとしているとふと声をかけられ、その方向に顔を向ける。
「おぉ!恭弥!」
恭弥の方へ足を進め、再会を果たす。
「久しぶだね。翔君。」
「久しぶりだな〜。恭弥。…あれ?1人なの?」
翔は、恭弥は部隊の人と一緒に来るものだと思っていたがどうやら違うらしく尋ねてみる。
「実は僕と先生だけ先に会っておこうと思ってね。他のメンバーはもうすぐ来るよ。」
「先生?」
そういうと恭弥は隣にいた還暦手前だろうか、その女性を手で指す。
「この人は僕らの部隊の教官…的な人だよ。色々教えてもらってるから尊敬を込めて先生、と呼ばせてもらってる。」
「ふ〜ん。」
その人は翔を見ず更に奥を見ていた。気になり顔を横に向け視線を後ろに移す。見ていたのはどうやら桜のようだった。
「すまないね。自己紹介をしよう。私は服部圭子だ。よろしく頼むよ。鏡谷翔君。」
低めの少ししゃがれた声で翔に言う。翔は恭弥らの教官、もとい圭子に挨拶を返そうとし顔を向けようとするが、動き半分程度で止まってしまった。
(動けない…体だけじゃない細かいところ、目も口も動かせない。この人の能力か?……このまま止まらされてると…色々マズイな…さて、どうしようか。)
「……ッ!!」
「チッ…!」
遠くで見ていた桜と凛は険しい顔つきに変わる。
「…!、先生!」
「おい!アンタ何をしてる?」
桜は圭子に近寄ろうとするが桜の足が止まる。
「なっ、足だけ…!」
「やめるつもりはないよ。この子が本当に強いのならなんとかできるはずさ。大人しく見ていなさい。」
ほら、と翔を見るよう促す。だが翔は動き出そうとはしない。正確には動かせないだが。一方の翔は桜と初めて会った時のことを思い出していた。
(あの時と似たような感じだな。…なら―)
全員が翔を見ていると、翔は突如消えた。そして圭子の背後に回り、ナイフを首にあてる。
「これで良いですか?」
翔は圭子が敵意があってこんな事をしてるわけではないと気付いている。ある種のテストのようなものだろうと考えていた。
「っ、ああ、合格だ。ここまでできるとは予想外だったよ。」
「ならよかった。」
翔はにかっと、笑う。圭子は毅然とした態度でいるが実際のところ、とんでもない速さで圭子の能力を対処し、殺す勢いで背後をとった。その事実に圭子は嫌な汗が頬を伝った。だがそれに気付いた者はいない。
「さ、流石だね、翔君。噂通りに強くて。」
「ははは、ありがとう。で、噂ってなに?」
「え?知ってると思ってた。えっと、噂っていうのは――」
「アンタが最強って噂よ。」
恭弥が話そうとしたとき、割り込むように話してきた人がいた。恭弥は驚きつつも来た人らに対応する。
「やぁ、皆。来たんだ。」
「えぇ。少し迷っちゃってね。」
3人の人が恭弥の方へ向かっていった。
「もしかして、恭弥の部隊の残りの人達?」
「そうだよ。紹介を――」
「アンタ!!自分の事何も知らないの!?信っじられない!!」
先程、恭弥の言葉を遮ったようにもう一度遮る。かなりの怒りを携えて。
「まあまあ、落ち着いて、楓。」
「これが落ち着いてられると思うの!?屈辱だわ。」
楓と言った少し赤に近い茶髪で気の強そうな少女は、どうやら翔に思うところがあるようだ。何も分からない翔は頭に疑問符を浮かべ続けて困惑していた。これを見ていた桜、凛は恭弥達に対し一部、同情に近いものを抱えていた。
「いいわ。全部説明してあげる。まず、アンタは組織に入っている人の間で単騎最強になれる、と言われているのよ。そしてアタシらは一般人の間で部隊でも単騎でも最強になれる、と言われているわ。そこを理解しなさい。」
「あ、ハイ。」
自然と正座して聞いていた。きっとこうしないと大変なことになると思ったからである。
「だけどアンタは一般人には何も言われていない。それは何故か。アンタは一般人の知り得ない難度の高い任務をやっているから目にはいらないのよ。一方のアタシ達は一般人の助けする簡単な任務からやっていったの。そしてだんだんと力をつけてアンタと同じような難度の任務をしていった。そしてそれが一般人にも知れ渡るようにニュースにも載った。だから、一般人からしたらアタシらは強くて頼りになるということよ。何となくアタシが言いたいこと、伝わったかしら?」
伝わらなかったらブッ殺すわ、という追加の言葉も頂戴し、翔はしばし考えていた。
(なるほどね…きっと俺がそこら辺の人に知られてないのに自分らが最強と言われることに腹を立ててるんだ。全てを知った上で語ってくれ、ということか…。更に、俺が最強の器になりうるということを知らないときた。そりゃ二重でムカつくわな。でも――)
「でも、俺はなりうるかもというだけで、本当になるとは限らない。」
翔はゆっくりと立ち上がり楓と目を合わせ言う。
「現実、俺は一度も桜さんや凛さんに勝てたことがない。それも俺は本気でやっても向こうは手を抜いてやってるのにだ。それに俺は自分が最強になれるとは思わないし、そんな器でもない。」
これまでの世界で成し遂げようとして、できなかったことが頭によぎる。今は成し遂げるべきモノを探している最中なのだ。最強だとかそんなものを気にしている暇は、翔にはない。そこで、黙って聞いていた恭弥が口を開き翔に言う。
「…翔君は、そう思ってるんだろうね。だけど少なくとも僕はそうは思わない。君は強い。間違いなく。それを今日は実感してほしい。」
「恭弥…」
真剣な目で翔に語りかける。が、恭弥は顔つきを変化させニヤリと微笑み、片眉を上げる。
「だけど、僕らは負ける気はないよ?」
恭弥の気配が変わったことに気付いた翔はそれに応えるため、同じくニヤリと微笑みながら首を傾け恭弥を睨む。
「へぇ?言うねぇ。今まで俺に勝ったこと、なかったくせに。」
「身体能力だけじゃ、ね。今は能力も安定して使えるし、仲間もいる。勝てないわけない。」
「何人いても変わんねぇぞ?」
両者は全く気付いていないが、お互いに強い覇気を出し合い、ぶつけあっている。周りの人はその異質な気に身体が震えていた。この異質さを目で見、感じ取ったのは桜であった。
(なんっだ、この気のぶつかり合いは…。あの2人、気付いてないのか…?)
そしてもう1人、この空気を強烈に感じ取った者がいた。その者はバックの中から飛び出し両者の前に立った。
「あっ、」
「ガルルルゥ゙ゥ゙ゥ゙……」
(なんだ?)
「こ、こら!出てきちゃ駄目じゃないか!」
「ガヴッ、ガヴヴッッッ」
「で、でも…」
「グルルルゥ゙ゥ゙ゥ゙」
出てきたのは巨大な獣。そして、それと話す恭弥の部隊の人間。その光景を見て翔は恭弥に尋ねる。
「あれ、なに?」
「彼は哲郎。あらゆる生物とコミュニケーションをとれ、使役もできる能力を持っている。そしてあの生物はイグレスという。クリーチャーでありながら能力を持ち、高度な知識を持っている。」
へぇ〜、と流そうとしたが、一瞬止まり改めて考えるとかなり不思議な事に気付いた。
「能力を持った、クリーチャー?そんなの知らないぞ…」
「当たり前だよ。これは極秘。上の人間しか知らない。」
「そんなのここで言っていいの?」
「この場にはそんな上の人間しか今はいない。だから平気だよ。哲郎、イグレスはなんて?」
哲郎、と言われた体の大きい男はびっくりしつつも恭弥の問いかけに答える。
「イグレスは彼のこと凄く危険に見えるって。それも恭弥君とはまた別のなにか。この世に存在していいとは思えない、とも言ってた。」
「すんげぇ言われようだな。」
イグレスはずっと翔を睨み続けている。
「ふぅ、とりあえず、僕の部隊の紹介をしておこうか。」
恭弥は言おうと思っていたが言えなかった事をようやく言えた。恭弥以外の3人の名前と、能力を翔に教えてくれた。能力まで教えるのは、翔の能力の事はかなり広まっているので一方的に知っていて勝っても勝った気がしないかららしい。1人目は赤坂楓。あの気の強い少女である。能力は触れたものを破壊する能力。2人目は山吹哲郎。この部隊の中で唯一の17歳で、身長が180を超える巨体の持ち主。能力はあらゆる生物とコミュニケーションがとれ、使役する能力。3人目は古川湖咲。一度も言葉を発していないのは特に話すことがないかららしい。能力は物体操作。桜の念力と近いものらしい。イグレスの能力はよく分かっていないらしいが、とりあえず様々な生物に変化できるのと、大きさを自由に変えれる事が分かっている。
(だからさっきあんなでっかくなったのか。それも狼みたいな見た目にもなったし。)
「最後に僕だね。まあ、知ってると思うけど一応言っておくよ。僕の能力は回復、バフ、デバフができる能力。」
「それ強いよなぁ。実質3つ持ってるようなもんだし。」
「でも僕は1つしか持っていない。きっと能力自体がかなり特異なんだろうね。オマケで言っておくけど能力なしで身体能力だけで戦ったら、僕はこの部隊で一番強いよ。」
「マジ?哲郎じゃなくて?」
チラリ、と哲郎に視線を向ける。哲郎は体が大きい分筋肉も多い。それに、何となくだがかなり鍛えているようにも見える。だと言うのに恭弥の方が強いというのはいささか不自然だった。
「この模擬戦が始まれば嫌でも分かるよ。」
「ふぅ〜ん。ならさっさと始めよう。」
そうして、両者共にくるりと体を回し、戦闘場に続く扉に向かおうとすると楓が声をかけてきた。
「絶対に勝つわ。アンタには負けない。」
「い〜や。勝つのは俺だね。」
振り向きはせず、そう言葉を返し、扉を開け中に入った。
そうして、この先の世界を大きく変える出来事となる戦いが始まる――。
くっっそ遅れましたが、あけましておめでとうごさいます。本当は年末あたりに出したかったのですが、思ったよりもバタバタしてしまい出せませんでした。なんと、1カ月と少し期間が空いてびっくりししています。自分の計画のなさを恨むばかりですが、次は今月中に出せると思います。構想もできてるので。こんだけ空いたんだからそれなりに面白いんだろうな?という声もありそうですが、言わせてください。本当は次の話を含めて今回の話にしようと思ってたんです。でも、書いてみるとあら不思議、文字数が2万にいきそうではありませんか。長めにしてもいいと思ったのですが、長すぎてもなぁ、と思ったので一旦区切りました。なので次の話がメインです。今回は前座です。そしてなんと、次の話で2の世界も次のステージに行きます。つまるところ、新章突入的な感じです。(この物語全体の特性上、意味合いがいろいろありますが。)次章ではいつか出てきた七大罪とか、翔自身のことについてとか、色々出てきます。(更に先の話にはなりますが、それをふまえての3の世界はどのように翔君は生きていくんでしょうね?)とにかく、楽しみにしていてください!
ではでは、また次の話で。




