2-5話 初任務
次の日からはいつも通り、特訓の毎日だった。八月の終わり頃になると桜や凛からは、もう実戦で戦えるレベルにまで上がっていると言われた。そしてこれ以上特訓ばかりしても実戦でしか得られない事もあるということになり、小さい任務をやると言う話になった。
「さて、内容を確認しておこう。何だったか覚えてるか?」
「周辺に現れた三匹の四足歩行型のクリーチャーの討伐です。」
「よし。じゃあ秀人から届いた戦闘スーツを着て、出発しよう。」
秀人に任務に出るから作れと、桜は言っていた。そしてちょうどよく先日に届いたスーツに身を包む。それなりにピチッとしているアンダースーツを着て、更に上から、翔のオーダーで作ってもらった物を着る。
「お前、ほんとにそれでよかったのか?」
「はい。結局これが一番動きやすいし、自分に違和感なく着れるものなので。」
翔が頼んだスーツは私服に近い見た目をしている。上半身は街に売っているような半袖の服のような見た目で、その上にパーカーを着ている。下半身はこれまた街で売っているような長ズボンである。唯一違うところと言えばナイフを腰の後ろ側に付けるため、それ用のベルトが付いているというところだろうか。全体的に見ると所謂私服、というものだろう。
「お前が良いんなら良いんだが…。まあいい、とりあえず行くぞ。」
「はい。」
そして車でシェルターの外壁まで移動し、外に出る。凛は別の任務で一週間ほど会えないので、この場には三人しかいない。翔と桜、そして翔の実力を測るために来たという本部の人。名前は沢田、というらしい。そして翔はカメラ機能付きのコンタクトを着けている。これで本人からの映像も観てどう動いているのか見るらしい。任務は翔が一人で任務をすることとなっている。だが、任務のレベルはかなり低いため翔一人でやり、桜は監督のように見守りアドバイスをかけるという感じになっている。車から降りて歩くこと数分、目的が見え一旦足を止める。
「見えたな。あれが今回の目的だ。とりあえず倒すことだけを考えろ。なにかあったら助けに行く。」
「わかりました。行ってきます。」
気配をなるべく消し、目的に近づく。建物の瓦礫に身を隠しよく見てみると、狼のような見た目をしていた。狼、といってもかなり禍々しい見た目をしている。毛や口周りは何かを食したのだろう、その何かの血が大量に付いている。口は大きく裂け、瞳も本来の獣特有の虹彩の色ではなく、紅く染まっている。と、色々考えながら観察していた翔のことに感づいたクリーチャー達が近づいてくる。
(ん、気づかれたな。さて、どうするか。)
クリーチャーはターゲットとなる翔を完全に捕捉し、攻撃を仕掛けに走りだす。翔に近づきそして、大きく口を開き翔の首を噛み千切ろうとする。とっさに左腕を出し噛みつかせる。ガキィン、と音をたてると同時に腰の後ろ側にさしていたナイフを抜き出しクリーチャーの首元に突き刺し、抜く。そしてクリーチャーは大量の血を流しながらも、噛みつくのをやめない。
(あっぶねぇ!バリアの防御間に合ってよかった。ただ、能力を上手く使えてないから、この場から移動できねえ。)
翔はバリアで左腕を覆うように張ったがバリアが破られることを恐れ、円柱のようなバリアを作り出しその中に腕を入れていた。分かりやすくいえば、氷漬けにされたようなものである。そして翔はバリアを自由に移動できないので、空中で静止している。バリアを解除したくても依然として、クリーチャーは噛みつくのやめないため解除ができなくなっていた。
「くそっ、早く…死ねッ!」
もう一度ナイフを首元に突き刺す。そして抜くのではなく、斬るように横に薙ぐ。力任せに扱うのは切りにくいし、武器を傷つけることに繋がるからあまりやらないほうがいい、と凛に言われたことを思い出すが躊躇っている余裕はないのとこのナイフはそう簡単に折れることはないとどこかで思っていたため、斬る。うまくいったのか、クリーチャーは左腕から離れ、少し離れた所に倒れる。
(よし…、あと二体………あ?どこだ?)
残りの二体は翔の視界から消えてしまっていた。
(逃げられた?)
と、思っていたが周囲からは殺気が放たれていることに気づいたため、逃げられていないと察する。そして突然後ろから飛び出して来たクリーチャーの体当たりをくらい、とばされる。すぐ立ち上がりクリーチャーを目にする。
「グルルル…ガァァァ……」
「はは、殺気マシマシじゃねぇか。いってぇし。」
一瞬の硬直状態、それを破ったのはもう一体のクリーチャーによる上からの攻撃。クリーチャーもそれなりの知恵があるのか、殺意をなるべく消して攻撃をしてきた。それに気づいたのは遅かったため防御に間に合わない。
(ヤバッ…)
翔はどう対処するか、本気で頭を回転させていた。そして一つの答えにたどり着く。
(やるしかない……!)
ドォォンと、大きな音とともに砂埃が舞う。
「ハハッ、土壇場で上手くいったな。」
その声が二体のクリーチャーの耳に届いた瞬間、上から襲ってきたクリーチャーの頭が弾け飛ぶ。
「ギャッ」
辺りには大量の血が、まだ生きていると錯覚している心臓が脳に行くために押し出す血が、勢いよく散布される。
「あとは、お前だけか。」
もう一体も首を斬られ、大量の血を噴き出し倒れる。砂埃が晴れ、一人立っていた翔は
「ふぅ。何とかなった。」
と言うのだった。
あたしは翔が初任務に行く事に少し反対をしていた。理由としては簡単で、まだ早すぎるから。あのハゲがそろそろ実力がどの程度になったか知らせろ、という。だが、今の部隊の立場上命令に歯向かうのはやめたほうがよさそうだったから、素直に従った。翔には任務でしか得られない経験があるとか何とか言って受けてもらうことにした。そして、初任務の内容が送られてきた。シェルター付近に出たクリーチャー三体の討伐。一見簡単そうに見えるこの任務だが、クリーチャーの種類が狼種であることが簡単な任務を難しくしている。この狼種はクリーチャーの中ではかなり頭の良い方で、身体能力の面で見れば弱い部類に入るがその頭の良さ故にかけだしキラーなんて言われている。とにかく狡猾なのだ。基本二体以上で行動し、何かあれば連携し襲ってくる。大体の部隊は四人で構成されているが、四人いてもたった二体に重傷、もしくは殺されることがある。今回は三体いて、更にこちらは一人での討伐。無謀でしかない。だがあたしが介入してしまうと、翔の実力を測れないため行くなと言われている。そして任務の日がやってくる。車でシェルターを出て少し歩いたところで目的をいち早く見つけ、足を止めた。助けたくても、本当に危ないとき以外助けられないというもどかしい気持ちを持ちながらも、平静を装いながら翔を行かせる。
「なにかあったら助けに行く。」
「わかりました。行ってきます。」
そうやってクリーチャーの元に歩き出す翔を見送る。あたしは双眼鏡取り出し翔を見守ることにした。隣には、本部の人間…沢田がいる。
「不安ですか?」
そう言ってくる沢田に少し苛立ちながらも冷静に当たり前だろ、と返す。
「私も、こんなことはしたくないのですが、上には逆らえないので。どうか御了承ください。」
「わかってるさ。だが、あたしも少しは気になっていることも事実だから何とも言えないんだ。」
そう、翔の実力を気にならないわけではないためずっと変な気持ちがとぐろを巻いている。隣にいるそいつはビデオカメラを取り出し、撮影の準備を終わらせる。
「そうですか。とりあえず、見守りましょう。」
「……そうだな。」
再び双眼鏡を覗く。翔は瓦礫に身を隠し観察しているようだった。そしてクリーチャーが気づき翔に近づく。すぐに戦闘は始まった。クリーチャーの一体が翔に飛びかかり首を狙う。そして残りの二体は移動し身を隠した。一体は翔の後ろに回り込むように、もう一体は後ろに振り向き崩落した建物の中に入り上に登った。程なくして飛びかかったクリーチャーは翔に殺された。
「あいつ、力任せに武器を使うなと言われていただろうが。まだまだだな。」
そして翔は後ろに回り込んでいたクリーチャーに体当りされ、飛ばされる。すぐさま上から翔の頭を狙い飛び降りたクリーチャーに襲われる。これは重傷じゃ済まないと思ったあたしは駆け出す。隣のやつも少し遅れて駆け出す。死ぬ前に治癒できれば何とかなる。
「急げ…!」
少し距離のある所で止まったのが足を引っ張る。すぐ着くには着くが、その一瞬で翔は死ぬのだ。
(はやく着いて翔を助けないと、今度こそ、あたしは…。)
そして大きな音がした。すぐ近くまで来ると砂埃でなにも見えなかったが、あたしは気配が見えるため砂埃の中を見つめる。倒れた翔を見つけようと思ったが声が聞こえてきた。そこで気づくが、いつもの翔の気配とは少し違う。
「ハハッ、土壇場で上手くいったな。」
(生きている…?あれを、どうやって……)
次に視えて聞こえてきたのは、翔があたしにも視認できないほどの高速で一瞬でクリーチャーに移動するのと血が噴き出す音だった。
「あとは、お前だけか。」
ボソッと言ったであろう翔の声が聞こえたその一瞬で最後のクリーチャーは殺される。その瞬間を目にしていたあたしは、綺麗だと思うと同時に狂気を感じた。何故か、それは、翔がクリーチャーに向かい走ったと思ったら先程と同じく一瞬で、クリーチャーの頭上に移動し、空中で逆さまになりながらクリーチャーの首を斬っていたから。まるで舞うように殺すその様は綺麗以外の言葉は浮かばない。だがその翔の顔は笑っていた。
「これは…」
すぐ後ろにいる沢田も、困惑の表情を浮かべているのが気配で分かった。
「ふぅ。何とかなった。」
翔はそんな言葉を言ったあと
「あっ、桜さん。と沢田さん。」
あたし達に気づきそんなことを言うのだった。気配はいつもの翔のものだった。
なんとか戦闘を終わらせた翔は後ろにいた桜と沢田に気づく。
「どうしたんですか?」
「いや…殺られそうだと思ったから来たんだが…大丈夫そうだな。」
「?ええ。なんとかなりましたけど。」
「一応聞くが、どうやってあの攻撃を回避したんだ?」
あの攻撃とは上からの奇襲のことだろう、と思った翔は言う。
「自分を転移させました。特訓のときにできなかったけど、土壇場ではできるもんなんですね。」
そう言うと桜は顔を顰める。
「それは、本当か?本当ならよくやったもんだが。」
「本当ですよ。今やりましょうか?」
翔は先程の戦闘を思い出し、そして翔は桜達の背後に転移する。桜達は驚きながら勢いよく後ろに向く。
「ここまでとはな…」
「いやぁ、ようやくできるようになりましたよ〜。これで戦闘の幅も広がりますね。」
翔は嬉々として語る。だが翔は急激な疲労感を覚え、立ち眩みを起こし、尻もちをついた。
「おい!大丈夫か!?」
「あぁ、でも、慣れないことをしたからか凄い疲れが…」
そして翔の意識は落ちていく。
映像はここで終わった。この映像を観ているのは部隊の隊長やその人達をまとめる上層部の人達、他国の偉い人、自国と他国の研究者
、その他の役職の人達だ。その中に桜、凛、秀人は勿論のこと、撮影をした沢田もいる。映像が終わっても少し間、誰も口を開こうとはしなかった。だがこの静寂を破った者がいる。
「これが、訓練をたった三、四ヶ月した人の戦闘か?」
大吾だった。いささか信じがたい、と付け加える。それに応えるため桜も口を開く。
「本当だ。信じられんのも無理はないが、事実だ。凛にも聞いてみるといい。というかあんたがあの任務を送ってきただろうが。」
続いて凛も口を開く。
「そうね、翔君の特訓に途中から付き合いだしたけど、最初の方はナイフすらまともに扱えてなかったわね。最近はかなり上達したけどあそこまでの実力じゃなかったかな〜。」
凄いわねぇ〜、と付け加える凛に対し、これを聞いていた人達は唸り声をあげる。
「でも、良いんじゃないかい?」
秀人はポロッとそう言葉を零す。
「だって純粋に戦力が上がるのは、我々人類にとってありがたいことでしょ?」
秀人は一度、軽く息を吐きそれに、と続ける。
「ここにいる人間とここにはいないごく一部の人間にしか知らせれていない、この先に起こると予言されている“大災厄”。これを終わらせる鍵になりうる可能性だってある。僕が見たとき今まで見てきた人の中で一番力を秘めていた。このまま成長させればきっと勝ちに導いてくれると思うよ。それに皆別に悪人として恐れているわけじゃないでしょ?これをみて思ったはずだ。」
「……確かにな。成長して悪いことはなにもない。むしろ貴重な人材なのだ、強くなってもらわねば困る。」
大吾は納得した言葉を吐く。
「じゃ、僕はやりたいことあるから帰るね。」
秀人は言いたいことを言い終わり、そそくさと部屋を出ていく。それにつられ他の人も部屋を出ていく。残ったのは桜、凛、大吾、沢田の四人だった。
「それで?凛の方はどうだったんだ?」
桜は外に人の気配、中に盗聴器などの気配がないことを確認したうえで凛に話しかける。
「上手くいったわよ。ただかなり疲れたわね〜。帰ったら翔君に癒やしてもらおうかしら…。」
机の上に上半身を投げ出し、ぐでっとした体勢をとる。
「ただ、倒した訳では無いわ。向こうから交渉してきたのよ。私だけの話じゃ解決しないから、大吾さんに話そうと思って。」
「ほう?どういう交渉だ?」
「『私をあなたたちのもとに連れて行って欲しい。私はこの先起こることに興味が湧いたからそれを見たい。条件としては私は攻撃や危害を与えない。その代わりあなたたちは私にある程度の自由を与えること。』簡潔に言うとこんなところね。」
「なにを考えているんだかな。」
「だが、それで済むならそれがいい。相手はなんせ“七大罪”だからな。」
「それも“色欲”だっけか。男は無条件でそいつに惚れ、生気を奪われ殺される。か、操り人形となり奴隷として生かされる。更にはその奪った生気で自分の強化、回復もできる。戦闘となったら女のみでの戦いを強いられる。実質戦力の大幅低下。確かに暴れられたら大変な目に遭うな。あたしですらまともに戦えるか分からん。」
「沢田、交渉役になってくれるか?」
「かしこまりました。では早急に手配致します。」
「頼む。」
「とりあえず解散か?」
「そうだな。なにかあったら連絡してくれ。そして桜。」
「なんだ?」
「次の任務の詳細を後で送っておく。」
言い終わると大吾は沢田とともに部屋を出ていった。
「はぁぁぁぁ?」
声に怒気を含ませて、しかめっ面をする。
「早いわね。」
「少しは人の気を知れっーーー!!!」
とある薄暗い部屋の中、妖しく微笑む人がいる。その人は一言では表せない程の美しさを持つ女性である。彼女はこの先に起こることを想像し、愉快な気分になった。
「楽しみねぇ。何が起こるのかは分からないけど、とても私を魅了する何かが起こるのは間違いない。私以上に魅力的なナニカ。楽しみで仕方ないわ。あなたも、そう思わない?」
彼女は自分の後ろにいた全裸の男性に問いかける。だが男性は返答はしない。理由は単純で、死んでいるから。なのにその男性の顔は恍惚の表情を浮かべ、幸せそうな顔をしている。
「あぁ…。もう死んじゃったのね。弱いわねぇ。私の欲はまだ収まっていないのに…。」
彼女は少し悲しくなったがそんな感情は一瞬にして吹き飛んだ。視線を男性の上半身と下半身の間の辺りに向け、笑顔をつくる。
「あなたもまだ収まっていなかったのね…♡」
その後の部屋には彼女の喘ぎ声が響いた。数時間経った頃、男性の体は急速に萎れていった。そしてその場から消えていく。
「ふふ。丁度満足できたわ。本当のことを言えばもう少しやりたかったけど…仕方ないわね。」
そう、彼女こそ“七大罪”の一人“色欲”の能力者である。彼女は数日前、部隊の人間に襲撃された。そのときとある女性に会い、直感的にこの人の近くにいれば自分を魅了する面白いことが起こる、と感じた。だから彼女は部隊の人間に対して捕まえてもいいが自由にさせろという交渉をした。それにより明日には部隊からの使者が来るだろう。そしてシェルターには行ったことがないのでどんな場所なのか楽しみにしているというのもある。どんなことをしようか想像に花を咲かせ、鼻歌交じりに移動の準備をする。
「楽しみにしててね。」
彼女自身、誰に向けて言ったのかは分からない。だが、思わず口にしてしまった。ただそれがどういう人物なのかは簡単に想像できた。それはきっと、そのナニカの中心にいる人間なのだろうと。
どうも。こんにちは、ゆうです。
突然ですが、Xアカウント作りました。前回言った通り、ちょっとしたことを話す場にでもしようかなと思います。@7uu_yuuで検索すれば出てくると思います。(ぜひ、フォローしてほしいな!!してくれたら嬉しいから!あとプロフィールにも書いてるよ!)
物語は進んだと感じていただけたでしょうか?個人的にはそれなりに進んだと思っているんですが……。それに色んな言葉が出てきましたね。大災厄とはなんでしょうかね〜。楽しみですね。次回はあの男の子が久しぶりに登場します。どんな展開になるんでしょうね。では。




