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8-鑑定便利……へ、無価値!?

「さて。まずは最初に、一応確認をしておきましょうか」


例の少女と対峙した私は、本格的に詰めていく前に、改めて試験官の方に向き直る。


鑑定は1回も使ったことがないし、使っているところを見たこともない。まだどれくらい認知されているのかが不明だ。

外堀を埋めて前提を作るため、ここは始めにはっきりさせておかないと。


「試験官さん。この試験会場で、受験生が他の受験生の情報……特に名前などを知る方法はありますか?」

「ないんじゃないですかね。受け付けの時に名前は確認しましたが、呼んではいませんし席も番号です」


彼は不思議そうにしていたが、ちゃんと欲しかったセリフを言ってくれた。私が貴族なのは知っていそうだったけれど、仕込みではないから大丈夫なはずだ。

必要な話は聞けたので、再び商家の子と目を合わせる。


「とのことです。私はあなたとの面識もありませんし、他所から来たので有名でも知りません。あぁ、名乗らないでくださいね。ただ覚えておいてください。

私はあなたのことを知らないと」


彼女が口を開きかけたので、急いで制止する。鑑定は基本、目に見えないものだから、もしどんなものか知られていないならある程度の信頼が必要だ。


知らないはずのことを知っているなどで、実績のようなものを作らないといけない。その前提として、鑑定前の私は彼女を知らないと確定させる。


「はぁ……別にいいけど、それに何か意味があるの?

私が何かしたというのなら、知らないのはマイナスよ?」

「意味はありますよ。今は本当にあなたのことを知りませんが、私はきっとあなたを見通しますから」

「……」


迷いなく断言すると、少女はやや怯えたような表情をする。

彼女も商人のはずなので、もしかしたら鑑定がどんなものか知っている人なのかもしれない。


「私が初めてあなたを見かけたのは、今日の街中でした。

橋がいくつも同時に落ちている中、商人や建築関係者たちとヒソヒソ話しながら、その方向を見ているあなたを見た。

商家の娘さんなのではないかと思います」

「そうね。だから建築関係者たちと話していたの。

橋の工事をするタイミングが悪くなってしまったから」


この子はやはり、商家の子。まずはそれが確定だ。

隠しもしないのは、他の悪事との関連がないからだろう。


「その後、私は試験以外であなた見ていない」

「当然でしょ? 私だってただの受験生なのよ。

たまたま工事の関係者だっただけで、何もしてないわ」

「ですが、あなた以外は活発に動いていましたね。

試験官さんは黙認していましたが、筆記試験に集中できないよう雑音を無らしたり、カンニングペーパーを仕込んで不合格にさせたり、下剤や睡眠薬の混ざった飲み物を渡したり」

「へー、そんなことがあったのね。知らなかったわ」


まだこの場に残っている被害者もいるだろうに、商家の子は表情を変えずにしらを切る。とはいえ、これらは試験官からすればバレバレだろうし、受験生でも察しが良ければわかることだ。


普通なら、今さら彼女とつながりがあると断定するどころか、誰がやったのかすらわからないだろう。

だとすれば、素知らぬ顔をしているのも納得だった。


「えぇ、そんなことがあったんです。

信じられないなら、実物もありますよ」


本来なら実行犯を示せないものでも、悪事を示すものとしてなら証拠はある。持っているメアリーを呼ぶと、彼女はすぐにカンニングペーパーとドリンクを持ってきてくれた。


きっともう、ほとんど処分されていたのだろうけど、1つでも手に入れば十分だ。


「こちらがその時のものです」

「ふーん、酷いことをする人がいるのね」

「そうですね。あなたを疑ったのが冤罪でも、悪事を働いた人自体は間違いなくいたのが残念です」


反応を窺ってみるが、これでも商家の子は顔色を変えない。

ただ、カンニングを仕組んだ人や薬を持った人がいることは、認めさせることができた。


肝心の彼女が動じていないものの、周りのお仲間は目に見えて険しい表情だ。彼女自身も、次の言葉で表情を動かしたのなら、関係していることがほぼ確定する。


「ところで私、鑑定魔法を習得しているんですよね」

「……」


当たりだ。ほんのかすかにだけど、頬がピクリと動いた。

まぁ、試験当日に一斉工事だなんて、そうでもなければあり得ない。


とりあえず、難癖みたいに尋問したのが間違いじゃなさそうで助かったぁ。早速証拠を手に取ると、目の前まで持ち上げてから呪文を唱えてみる。


「早速やってみますね……壁に耳あり障子にメアリー』

「え、今なんて?」

「あまりツッコまないでください」


彼女の問いかけを押し止めつつ、ぼんやりと見えてきたものを凝視する。ゲームテキストのような鑑定結果によると、やはりカンニングペーパーは他者によって仕込まれたもののようだ。


配られた飲み物にも、当然毒が仕込まれている。

内容は予想通り、下剤と睡眠薬だった。

下剤を盛ったのが男子なだけ辺り、配慮はされてるのよね。


「なるほど……この場では全員の名は挙げませんが、ピエールさん、ダニーさん、テディさん、メラニーさんなどが薬入りドリンクを盛ったようですね。今お呼びした方々、よければこの場に出てきてくださいませんか?」


カンニングペーパーを仕込んだ人もわかるけれど、そちらはなんなら適当な人に頼むだけでもいける。

より首謀者に近い人を鑑定しないと、情報が引き出せず逃げられかねない。


カンニングペーパーを仕込むのと薬を盛るのとで、どちらにより身近な人を使うかは諸説あるだろうけど……

薬を盛る方が、白状された時の被害が大きいはずだ。


ドリンクも回収しようとしていたみたいだし、薬はバレないこと……物証が出ないことを前提にしていたと思う。

だとすれば、黒幕にとっては盛る方がリスクが高い。


片方しか鑑定できない訳でもないし、最初に見るのは飲み物を配っていた人達にした。


「……」


彼らは呼びかけても、しばらくの間前に出てこない。

しかし、試験官は顔を知っているのだから抵抗は無意味だ。

メアリーはすぐに聞き出して、名指しで連れて来てくれる。


やって来た面々は、名前を羅列した時、わずかに顔を青ざめさせ身動ぎした人たちだ。ちゃんと試験官の確認を取ったので、否定もできないだろう。


これまでの情報は彼らにも共通しているので、鑑定はその場で発動できる。結果は求めていた通りのものだった。


「やはり、結託して他の受験生を不合格にしようとしていたみたいですね。買収された訳でもないみたいですし、首謀者らしき名前も全員から出てきました。エリステラ・シュリーマン……それがあなたの名前ですね? 商家の跡取りさん」


4人の鑑定を終えて振り返ると、商家の子――エリステラ・シュリーマンは、敵意剥き出しの瞳で私を睨んでいた。だが、ちゃんと諦めはしたのか、素直に首を縦に振っている。


「そうね。私がエリステラ・シュリーマンよ。

処分しきれなかったことはともかく……鑑定なんてされるのは予想外だったわ。でも、それがどうかした?

大した罪にはならないし、私には何の影響も出ない」

「……悪名が轟くだけでも、十分悪影響だと思いますけど。

それに、あなたは橋も落としていますよね?

受験生を辿り着かせず、物理的に排除するために」

「工事の一環よ」

「ですが、事実です。教師の心証は最悪でしょうね」


エリステラの悪事は暴かれ、学園でも街でも少なからず心証は悪くなる。実際、まだ残っていた受験生は怒りに燃えているし、試験官も険しい表情をしていた。


それでも強気なのは、やっぱりまだ小さないざこざの範囲で、お金での解決ができるからなんだろう。

この国は実力主義っぽいし、ここまでした目的も達成できてそうなのも大きい。


痛い目を見させるとしたら、成果を無駄にするしかないかな。私は当初の目的通り鑑定を行い、まずは彼女の得たものを確認する。


「あなたがこんな強硬手段に出たのは、今年の新入生で唯一の平民という箔をつけたかったから……なんですね」

「……」

「であれば、理不尽に落とされた人たちに改めてチャンスを与えてはどうでしょう? 心証を悪くして何の成果も得られない……1番の報いになるかと思います」

「あんたッ……!!」


目的を暴かれ、押し黙っていたエリステラだったが、私が試験官に提案すると、大きく表情を歪めて激昂する。


試験官も頷いているので、その案は採用されるだろう。

ようやくダメージを与えることができたようだ。


無事決着をつけられたため、いよいよ彼女が悪役令嬢なのかを見ていく。……結果は、ただの商人。クラスメイト。ハズレかぁ。まぁ、平民にいるとも思ってなかったけど、いるならその方がいいに決まってる。


目的はともかく、やってることは平民の排除っていう、中々にそれっぽいことだったんだけどなぁ。残念ね。

なんて、1人で勝手にガッカリしていると、怒りを飲み込んだエリステラがさっきの返事をしてきた。


「いいわ。手痛いけど、今回は高い勉強代だったと思うことにする……って、なんであなたが残念そうにしているの?」

「あ、なんでもないです。……まぁ、あなたのような立ち回りもまた強さです。このくらいなら不合格にならないでしょうし、この先頑張ればいいんじゃないですか?」


エリステラがやったことは、前提としてまず自力で合格しておかなけらばならない。となれば、受かる自信はあったのだろうし、きっと私と同級生になるだろう。


周りの人たち……特に薬を盛られた受験生たちは、まだ彼女を気に入らなそうに眺めている。だけど、結局エリステラには悪評だけが付き、自分たちも再受験が可能だ。


命に関わることでもないので、だいぶ怒りが緩和されてきている様子だった。今回は直接的すぎたかもしれないけれど、大人なら割とこういうものだしね。


「えぇ、次は1つも証拠を残しません。鑑定なんかあっても、所詮少し洞察力が補強されただけの探偵です。

無敵ではないのだから、きっと勝ってみせるわ」

「なんかって、その鑑定なんかに負けてるんですよ?」

「確かに負けていて便利なのも認めているけど、必要なのかと言われたら違うし……だって、鑑定魔法って1番学ぶ価値のない魔法じゃない」

「……え?」


実際、今回だって最初に見かけていなければ証拠を集めようとしていなかったし、気を抜けないな……なんて思っていると、思いも寄らない言葉が耳に飛び込んでくる。


鑑定魔法が、1番学ぶ価値のない魔法?

こんなに便利なのに? エリステラの悪事や情報も看破することができたのに?


「聞き間違いかしら……あなた今、価値がないって言った?」

「……? えぇ、言ったわ。だって、鑑定は事前に情報を集める必要があるじゃない。集めたピースでパズルを完成させるなんて、時間と頭があればなくたってできるわ。もちろん、それ以上のものを知ることもあるけど、必須じゃない。

なにより鑑定は、労働者が仕事の中で覚え、実力を1段上げるきっかけになる技術よ。わざわざ学ぶ必要なんてある?」

「な、な……」


思わぬ反撃を受け、あ然としてしまう。彼女の言葉を反芻してみるけど、聞けば聞くほど納得しかない。お兄様は、まさかこれを知っていて私に勧めたの……!? 頭がぐるぐる回る。

私はなんて無駄な3年間を過ごしてしまったんだ。


「なんですってぇぇぇ!?」


本作はとある公募に出すために書いた作品になります。

3万弱以下(勘違いだったので少し削りましたが)、未完でもいいとのことで、序盤だけ書いてみました。


ゲーム世界のストーリーも考える必要があったので、構想自体はある程度あるのですが、公募用なのでよっぽどの理由がなければ続きは書きません。


と思っていたのですが、ブクマされて嬉しかったのでちまちま書きたいと思います。もう1つのんびり書いてるやつもあるのと、大長編がずっと連載止まってるのでゆっくりにはなりますが、お付き合いいただけるとありがたいです。


それでもしばらくは1話ガチャみたいになりそうで嫌なのですが、感想や評価をいただけますと励みになりますので、よければお願いします。

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