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2-人探しなら鑑て……え、無茶じゃん

「なー、さっきも言ったよな? そーんなおかしな言動してたら変に目立つってさ。3年後には同じ学園に通うのに、妹がこんなだと俺が恥ずかしいんですけど」

「あぅあぅあぅあぅ……」


思わず叫んでしまった数分後。わざわざ戻ってきた兄に、私はほっぺたをつままれて注意を受けていた。


叫んだ内容まで聞かれたのかはわからない。

わからないけども……何度も騒いでいるのは、割と本気で嫌がられているみたいだ。


私は口が動かせなくて言い訳もできないのに、延々にみょんみょんとほっぺたを引っ張られて遊ばれている。


この人は、いったい何をお求めなのだろうか? 

我が兄上ながら、いまいちよくわからない。


……いや、それは私の方なのかも。

10歳になるまでもこの世界ばっかり見ていたし、なってからもずっとどんな作品だったか考察していたのだから。


まぁそれはそれとして、本当にいつまでほっぺたを引っ張り続けるのだこのお兄様は。もう注意は終わって何も話さないのに、兄はじーっと私を見下ろしてほっぺたをみょんみょんしていた。流石にちょっと、しつこい。


「いふあえあうんえうあ、おいいあま」

「おあ、あえうんあお」


いまいちよくわからないのは、やっぱり間違いではないかもしれない。私が対抗してほっぺたをみょんみょんしても、兄は構わず続けてきた。


12年接してきた感じ、貴族だとは思えないくらいどこにでもいる平凡な人って印象だったけど、改めるべきか。

私におかしな言動と言う割に、自分だって変人だ。


お互いにまともな言葉も喋れないまま、何の意味もない小さな諍いはしばらく続く。


「あらあら。お坊ちゃんとお嬢様、仲がよろしいですね」

「……!!」


ようやくそれが終わったのは、廊下を通りかかったメイドが、微笑ましそうに声をかけてきてからだった。

声は出せないけれど、扉は兄が来てから開けっ放しだった上に、かなり長く争ってもいたらしい。


バツが悪くなった私は、慌てて兄のほっぺたから手を離す。

同じように、お兄様もパッと手を離して微妙な表情をしていた。


どこか恥ずかしそうにも見えたので、今度はこちらがじっと見つめることにする。すると兄は、コホンと咳払いをしてから注意を再開した。


「とにかく、やたらめったら騒ぐなよテイラー。

何の本を読んでるのか知らないけどさ」

「……? 本って何のことです?」

「ん? さっき、誰なんだみたいなこと言ってたよな?」

「聞いていたんですか!?」

「聞かれたくないなら叫ぶなよ」


正論である。私の抗議を一蹴した兄は、すっかり動揺を消して呆れた表情をしていた。さっきはため息の後、すぐに出ていったので期待してみるけど……今回はダメみたいだ。


本じゃないと伝えてしまったからか、さり気なく部屋を観察している。部屋は兄のものに負けないほど広いが、調度品はもちろん違う。


直前まで腰掛けていたベッドの柄が可愛いことから始まり、ところどころにぬいぐるみや花などがある、いかにもな女子の部屋だ。同じような本棚やデスクだって、置いているものの違いだけで別物のようだった。


好みや個性が出る以上、見られたいものではないけれど……

まぁ、正直見られるくらいなら気にしない質ではある。

ただ、隠し事があるから居心地が悪い。

どうにかして追い出さないと。


「ちょっと、部屋をジロジロ見ないでくださいます?

そもそも、レディの寝室に入るなんて失礼では?」

「いやレディって……妹だし」

「妹だって女の子ですのよ?」

「わかったわかった。別にお前のやりたいことに口出しするつもりとかはないから」


私が言い募ると、兄は面倒くさそうに顔をしかめながら両手を上げる。しれっと近寄ってくるくせに、こういうところで距離感ちゃんとしているのが不思議な人だ。


そんなことを考えながら、去っていく兄の背中をぼんやり見ていると、彼はいきなり扉の前で立ち止まってアドバイスをくれる。


「……ほんとに誰か探してんならさ。鑑定魔法覚えれば?

魔法自体、急ぐ理由がなけりゃ学園に入学してから学び始めるもんだけど、鑑定なら他と違って危なくもないだろ」

「……! そうねっ、ありがとうお兄様!」


助言を終えると、兄は振り向くことなくそのままどこかへ去っていった。また騒ぎ出したりしなければ、多分戻っては来ないだろう。……うん、絶対叫ばないようにしよう。


助けられたは助けられたけど、それはそれだ。

前世だの未来だの、確かじゃないものなんだから、バレないに越したことはない。とりあえず今は……


「盲点だったわ。よく考えたら、この世界にはゲームらしく魔法がある! 鑑定魔法があることは知らなかったけど」


この世界で生きてきた12年間、私はよく魔法を目にしていた。厨二が夢見る、ド派手なものはあまり見ていないけど、魔法という響きだけで心は沸き立つものだ。


鑑定魔法を知らなかったとはいえ、悪役令嬢に気を取られて忘れてるとか、アホ過ぎる。急いで使用方法とかを調べて、習得するために勉強しないと。


お兄様は私より詳しそうだったけど、家に魔法の本とかあるのかな? 書斎とかを探して見つからなかったら、お父様かお母様に聞くしかないわよね。




兄に助言してもらった私は、すぐに鑑定魔法を習得するために屋敷中を駆け回った。


書庫にこっそり入り込んで片っ端から読み漁り、使用人たちの話を盗み聞きし、父の書斎を含めた他の部屋も隅まで探したりと、それこそ屋敷をひっくり返す勢いで。


結論から言うと、わかったのはこの屋敷に鑑定魔法に関する本はないということだ。正確には、鑑定魔法を専門にした本は一冊もない。魔法全般の書物など、他の本にちょろっとついでに書かれているくらいだった。


それによると、鑑定魔法とは対象の魔力を分析する技術のことであり、標準化するにあたって魔法に分類されたものだと言う。元が技術なので、専門書があまりないようだ。

少なくとも、この屋敷には。


本がないのだから、もちろんどうやって習得すればいいのかもわからない。というか、対象の魔力を分析する技術って、相手の個人的な情報とかも分析できるのかしら?


ただ、一応お兄様が教えてくれたことなのだし、鑑定魔法になった時点で性質は変わっているのかも。

何にしても、きっとないよりは役に立つでしょう。

そう信じて習得方法を探さなくちゃ。


「となると、どうやって鑑定魔法を覚えるか……

お父様に聞く……と理由を聞かれるわよね。

うちの使用人たちも、特に使っている様子はないし……

いえ、見た目ではわからないだけかも。

でもやっぱり報告されたら面倒くさそ〜」


これ以上自分だけでは無理だと悟り、私は思わず頭を抱えてしゃがみ込んでしまう。魔法の勉強は、急ぐ理由がなければたいてい入学後という話だったし、絶対に理由は聞かれる。


私はそれに、なんて答えればいいの? 

正直に答えたりしたら、頭がおかしくなったと思われる。

かといって、鑑定したい理由なんて思いつかないし……


「……まぁいっか。もともと私、物語の片鱗を探してたせいでだいぶ変人と思われてる気がするし。今さらね」


私が習得したいのは、炎や風の魔法など、便利だったり派手でかっこいい魔法ではなく、鑑定魔法なのだ。

もう働いているような子ならまだしも、私がそんな地味な魔法を覚えたがるなんて、よっぽどのことがなければない。


自分的には別にそんなことはないけれど、多分周りの人たちはみんなそう思ってる。くぅ、よりにもよって私だから!

いくら考えたっていい案を思いつくはずがないので、すぐに私は考えるのをやめた。


「って、ええ!?」


直接聞くことに決めたけど念の為、最後に本をパラパラ確認していると、恐ろしい文章が目に入った。

ほんの一言だけだったので見逃していたけれと、これって、これってぇ……


「鑑定魔法はどちらかと言うと技術なので、習得には通常、最低でも3年はかかるぅ〜っ!?」


私の口から迸ったのは、今まで1番大きい声だ。

直接聞くまでもなく、みんなに聞かれたことでしょう。

その証拠に、屋敷のどこかから兄の声が聞こえた気がした。


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