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悪役令嬢マリールイーゼは生き延びたい。  作者: いすゞこみち
アカデメイア/準生徒編(12歳〜)
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95 婚約宣誓書

 さて、婚約には婚約宣誓書を提出しないといけない。となれば両家同士で顔合わせをする必要がある。これは儀礼的な意味もあるけど結婚を誓う二人の家が身内になるという意味でもある。


 どうして宣誓書を国や神殿に出すのかというとこれには二つの意味があって国に出せば法律的な意味を持ち、神殿に出せば宗教的な意味を持つ。当然貴族は国に提出して法律的な契約として扱う場合が殆どだそうだ。宗教的な契約の場合は結婚式で宣誓するからそれまでは拘束力が無い。だから貴族以外の平民、例えば大きな商家の婚約は神殿を使う事が多い。当然、略奪愛が増える結果となる。


 ここでポイントになるのが国に提出した場合は家同士が法律的に身内となる点だ。家が統合される訳じゃないけど両家が法的に国に保護される対象になる。今回みたいにリオンと私の場合は所属国が違うからリオンはグレートリーフ側の保護を受けられる様になって私はイースラフトの保護を受けられる様になる。特に公爵家な上に英雄一族のアレクトーは原則、国への提出一択という事だった。


 今回の場合はすぐに手続きが行える私の家で先ず顔合わせをして後日イースラフトに行って同じ事をする。縁戚関係にある王族も当然やってくる。流石に王様がくれば国家規模の話になってしまうからやってくるのは代理――つまりアンジェリン姫とシルヴァン王子の二人だ。イースラフトに行けば今度はイースラフトの王族と私が顔合わせする。公爵家同士の婚約は意外と大規模な物らしい。


 そんな訳で私とリオンは今、私の実家にやってきていた。お母様達が書類を準備している間、私達はリオンの部屋で待たされていた。そこにはアンジェリン姫とシルヴァンもいる。唯一血縁じゃないクラリスは戸惑っているけれど彼女のデュトワ家は我が家の主治医で親同士が友人だった為にお母様から招待状が出されている。


「――あの、私、本当に来て良かったんでしょうか……?」

「……うん、いいよ。めずらしい、みたい、だから、クラリスも、けいけん、して、おくと、いいよ?」


 クラリスは物凄く緊張している。考えてみれば彼女はこの中で唯一の男爵家だ。公爵家と王族しかいない中に入るのはきっと怖い事なんだろう。だけど残念ながらうちは公爵家とは言っても英雄一族だから普通の国の公爵家とはちょっと違う。割とざっくばらんな処もあって余り貴族的な慣習に煩くない。そして完全に萎縮して固まっているクラリスをアンジェリンお姉ちゃんが後から抱き竦めた。


「そうよクラリス、もっと胸を張りなさい。こういう公爵家同士の婚約なんて立ち会える機会は王族にも無いんですからね?」

「……は、は、はい、姫様……」


「ほら、違うでしょ? お・ね・え・ちゃ・ん!」

「……は、はい、お姉ちゃん……」


 だけどクラリスの顔から緊張は消えない。まあ普通の貴族ならこんな会合に参加する事自体場違い過ぎて恐怖の方が先立つのかも知れない。それでどうしようかと思っていると不意にリオンが近づいて彼女の耳元で囁いた。


「……クラリス? もし緊張するんだったら今日の自分はリゼ付きの侍女としてここにいる、って思えばいいよ?」

「……え……侍女、ですか……?」


「うん。それに僕やリゼだって緊張してない訳じゃない。緊張してないフリをするのに慣れてるだけなんだ――だろ、シルヴァン?」


 リオンがそう言ってシルヴァンに声を掛ける。すると王子は少し困った顔になって笑うと小さく頷いた。


「まあ……そうだね。『人に見られている』と意識するのはそれはそれで色々気付きもあるし勉強にはなるけど、緊張してしまう時は逆に自分は傍観者だと考える様にしてるよ」

「……傍観者、ですか?」


「うん。自分は眺めているだけで関わらない。実際に自分が名指しされるまではそれで過ごすんだ。すると今度は全体を見渡せる様になってくる。良くも悪くも自分は注目されると考えるから緊張してしまう。だから自分を傍観者まで落とし込めば割と楽だよ?」

「……そうですか……」


「今回はマリーとリオンの身内しかいないからクラリス嬢が男爵家令嬢でも気にする人はいない。アレクトー家は英雄一族の所為か、地位や権力を割と無視してくるんだよ。だから自分の立場とか地位を意識してると物凄くバカを見る事になるから気をつけてね?」


「……そうなの? はつみみ……」

「……シルヴァン、そうなのか?」


「……いや、なんで当事者が知らないんだよ。今期の準生徒が仲良くなり過ぎて問題になったのは絶対君らが関係してるからな? レオボルト様が在校した時も多少あったらしいし。その所為で大勢の令嬢が夢みる様になっちゃったって聞いてるからな?」


 お兄様の名前が出て一瞬心がざわつく。だけどそれ以上は特に何も思わなかった。あれから大分時間も過ぎているし案外平気になってきているのかも知れない。


 だけどうちのお母様も叔母様の家も自分達が公爵家で上流貴族だと言う事を殆ど口にしない。特にお母様なんて元王女なのにそれらしい素振りすら見せない。お父様も余り立場については口にしない方だし、両親がああだから子供の私もこうなのかも。


「――そう言えばリオン、婚約、おめでとう?」

「……シルヴァン、なんで首を傾げながらなんだよ?」


「いや、だって……もう婚約してると思ってたからな。姉上に説明もなく呼び出されて来てみればリオンとマリーの婚約だっていきなり聞かされて正直まだ良く分かってない。だからちゃんと後でこうなった経緯を説明して貰うからな?」


 そう言えばあれから準生徒の皆と全然会ってない。そのまま冬季休暇に入ったから事情も話せていないままだ。王子のシルヴァンと侯爵家のバスティアン以外は全員実家とかなり距離があるから早めに出発したのかも知れない。と言う事は冬季休暇が終わって皆が帰ってきたらまた説明しなきゃいけない。もうこの際だし全部リオンに任せてしまった方が楽だろうな。


「――皆。準備が出来たわよ。来て頂戴」


 そんな時、お母様の声が聞こえて私とリオン、クラリス、それにアンジェリンお姉ちゃんとシルヴァンの五人は部屋を出た。


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