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悪役令嬢マリールイーゼは生き延びたい。  作者: いすゞこみち
アカデメイア/準生徒編(12歳〜)
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89 甘やかしポリシー

「――姉さん……いつの間に戻ってきたんですか……」


 昼食を迎える時間。アンジェリンお姉ちゃんと顔を合わせるなりリオンが驚いた様子で声を漏らした。そりゃ昨日の今日でいきなり姿を見せなかったお姉ちゃんがいるんだから当然だ。


「今日、さっき戻った処よ? それと私しばらくマリーとクラリスと一緒に暮らす事にしたから。だからリオン君もいつもみたいにいきなり扉を開いたりしないでね? お着替えしてる処を見られるのは私は別に構わないんだけど、マリーが怒っちゃうからね?」

「み、見ませんよ! それよりどうして一緒に生活するんです?」


「そんなの、マリーが私に助けてって言ったからよ。お姉ちゃんとしては可愛い妹に助けを求められたら助けるしかないでしょう?」


 だけどそれを聞いた途端にリオンは私を見つめる。何だか責められている様な視線で私も顔を上げられない。そんな私とリオンの様子を見てお姉ちゃんは楽しそうに笑った。


「あら、リオン君……ひょっとしてやきもち?」

「え……いえ、そう言う訳じゃ……」


「あのねえ。マリーだって女の子なんだから男の子のリオン君には言えない事だって沢山あるの。相談したくても出来ない事なんていっぱいあるんだからね?」

「え……そんな物なんですか?」


「決まってるじゃない。もしかしてリオン君、女の子の悩みを聞いて解決出来ると思っているの? 男と女って同じ人間でも違う生き物なのよ? それを解決出来るだなんて傲慢じゃないかしら?」

「……くっ……姉さんの、仰る通り……です……」


「分かればよろしい。そう言う事だからしばらくよろしくね?」


 そう言うとアンジェリン姫は部屋の奥に立て掛けられた衝立の向こう側に行ってしまった。多分制服に着替える為だ。


 だけど何故私は『助けて』なんて言っちゃったんだろう? そんなのお母様や叔母様にも言った事がないのに。勿論、お姉ちゃんに事情は何も話していない。私が未来を知っていてこのままだと死んでしまう事も。そしてもう一人の多分本来の悪役令嬢になった私の姿と声を聞いてしまった事も。これを話してしまうと本当に迷惑が掛かる気がする。だけど何も言わなかったのにお姉ちゃんの方から事情を聞かれる事は一度も無かった。


「……リゼ。夕食はどうしようか。何なら僕が取ってくるけど」


 リオンが私にそう尋ねてくる。だけど丁度そこに制服に着替え終わったお姉ちゃんがやってきてリオンを指差して首を横に振った。


「ダメよ。食堂に行って一緒に食べましょう」

「え……でも姉さん、今のリゼにはそれは……」


「……リオン君って甘やかすのが本当に下手よね?」

「へ、下手⁉︎ 甘やかすのに上手いとか下手ってあるんですか⁉︎」


「あるわよ。リオン君のそれはマリーが人目を避けたいから隔離してるだけでしょ? 甘やかすって言うのは隔離する事じゃあなくて融和させる事なのよ。マリーが人を避けたいと思うのなら人の目が気にならなくなる位にベロンベロンに甘やかすの。そうすれば周囲もマリーより甘やかす側に気が行くし、マリーだって周囲の目より甘やかす相手が気になって仕方なくなるでしょ?」

「……べ、ベロンベロンって……」


「要するに! 周囲を怖がってるなら先ず、周囲は大した事がないって思い知らせなきゃダメ! 甘やかして好かれるんじゃなく逆に甘やかして嫌われる位の覚悟がないと甘やかしちゃダメ! 甘やかすのが好かれる為ならそれは自分の為でしょ? 本当の甘やかしはその子の為を思ってやる、いわば愛情による教育なのよ!」


 あ、あの……本人の目の前でそう言う解説されちゃうと、私としてはもうどうしたら良いか本当に分からないんですけど……と言うか私はこれから食堂に行ってお姉ちゃんにベロンベロンに甘やかされるって事なの? え、なんかそれ凄くヤダ……確かに周囲の事なんて全く気にならないと言うか、気にしてる余裕がないって言うか。それにまさかお姉ちゃんが甘やかす事にそんなポリシーを持っていた事自体がびっくりだよ。本当に私、なんでお姉ちゃんに『助けて』なんて言っちゃったんだろう……?


「……深い……凄く深いです……甘やかし……」

「……え、ちょ、クラリス?」


 私にくっついていたクラリスがボソリと呟く。それで私はビクッと身体を震わせる。もしかしてクラリスもお姉ちゃんに染まってきた……?


「さあ! それじゃあ皆で食堂に行きましょう! 大丈夫、お姉ちゃんが一緒だもの! 勿論クラリスも一緒にね!」

「はい、王女様! 私も頑張ります!」


「違うわよクラリス、私は王女様じゃなくてお姉ちゃん!」

「わ、分かりました、アンジェリンお姉ちゃん!」


「よろしい! さあ行くわよ! お腹も空いたしね!」


 こうして私は両側から手を繋がれて食堂に向かう事になった。食堂に着く以前に廊下を歩く時点で繋いだ手を大きく振りながら半ば引きずられるみたいに。その後ろからリオンが物凄く疲れた顔になってついてくる。


 だけどもしかしたらこうやって私の気を紛らわせてくれているのかも知れない。変にテンションが高過ぎるし。だけど――


「まっりいっとおっしょくっじ、まっりいっとおっしょくっじ♪」

「おっしょくっじ、おっしょくっじ♪」


 ……十六歳と一〇歳がノリノリで意気投合してる……これ、本当にただテンション高くなってるだけなんじゃ? 私、ちょっと色々自信がなくなってきた……。


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