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悪役令嬢マリールイーゼは生き延びたい。  作者: いすゞこみち
アカデメイア/準生徒編(12歳〜)
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74 もし、私が……。

「――リオン。これが、わたしのいもうとの、クラリス」


 朝起きて私は早速リオンにクラリスを紹介していた。何しろ私は今まで自分より歳下の家族なんていなかったから少し調子に乗っていたのかも知れない。リオンの事だから『あ、そう』とかスルーされるんじゃないかと思っていたら案外そうはならなかった。


「……あの、初めまして。クラリス・デュトワ、一〇歳です」

「へえ、可愛い子だね。初めましてクラリス。僕はリオン。リゼの親戚だよ。イースラフト王国からの留学生なんだ――それとリゼ、どうも自分だけの妹みたいに思ってるみたいだけどリゼの妹だと言うんならクラリスは僕にとっても妹って事になると思うんだけど?」


 遠慮がちにお辞儀するクラリス。リオンはそんな彼女ににっこり微笑んで余裕の笑みを返す。まるでお兄ちゃんの余裕を見せつけられてるみたいだ。


 ……くっ……流石リオン、抜け目ない。昔から自分の方がお兄ちゃんだと主張してただけあって隙あらばクラリスのお兄ちゃんを狙っている。いやまあ別にそれは構わないんだけど。


 でも私がクラリスの後からおぶさるみたいに抱きついているのを見てリオンは少し呆れた顔になった。


「……でもまさか、リゼがこんなに自分から進んで誰かにベタベタするとは思わなかった。だけどその様子なら上手くいってるみたいだね。ちょっと心配してたから安心したよ」


 だけどクラリスはリオンを見ながらもしきりに振り返って私の顔を見上げてくる。一体どうしたんだろう。昨日と違って今日は妙に落ち着きがない感じだ。それでも抱きついている私の腕を上から押さえているからくっつかれている事が嫌な訳じゃないと思う。


 同じくリオンも変に思ったのかしゃがんでクラリスの目線に合わせると彼女の頭に手を伸ばして撫でた。


「……どうしたの、クラリス?」


 だけどそこでリオンは黙り込むと今もくっついて離れない私の顔を見て苦笑する。


「……ははあ、リゼがずっとくっついてるからだな? ちょうど良いし今から朝食を準備する処なんだ。よければクラリス、お兄ちゃんを手伝ってくれないかな?」

「……え……あ、はい……」


「ほらリゼ、一度解放してあげて。リゼだって食べるんだろ?」


 そう言うとリオンはクラリスの手を掴んでキッチンの部屋に引っ張ろうとする。流石に私も無理やり引き留めたりしない。だってリオンとも仲良くなって欲しいし。それで私が抱きついていた手を離すとクラリスは不安そうに私に振り返る。


「……だいじょうぶ。リオンのおてつだい、してあげて?」

「……あ、はい……」


 そしてクラリスはリオンに連れていかれた。大丈夫、すぐそこの扉の向こうがキッチンだし。それにそろそろ食事を摂らないと少ししたらフランク先生が私の診察に来る。実はクラリスが来た次の日に会える様に私が今日の診察をお願いしていたからね。そこで初めてクラリスにその事を伝えてなかった事を思い出す。


「――あ、クラリス?」

「え……はい、何ですか、ルイーゼお姉ちゃん?」


「ちょうしょく、たべたら、おじいさま、くるよ?」

「……えっ? お爺ちゃんが?」


「うん。きょう、このあと、わたし、しんさつだから」

「……はい……分かりました……」


 これで少しは元気になってくれれば良いんだけど。そう思ってクラリスの後ろ姿を見ているとリオンがじっと私を見つめている。


「……ん? どしたの?」

「……いや。何でもないよ。ほら、クラリス、行こう」


 そう言ってリオンはクラリスの背中を押してキッチンへと歩いていく。そのまま扉は開かれたままだけど二人は何か話している様には見えない。まあ二人共騒がしく喋るタイプじゃないし。そして私はテーブルに肘を付いて頬杖を突くとクラリスの事を考えていた。


 ……そうだ。セシリアとルーシーにも紹介しよう。二人は私と仲良くしてくれる親友だしきっとクラリスも可愛がってくれる。それとシルヴァンやバスティアン、ヒューゴにも。そうそう、エマさんとカーラさん、ソレイユさんも。特にエマさんはクラリスの家と同じ男爵家だしカーラさんとソレイユさんは子爵家で爵位にそれ程差が無いから力になってくれる筈だ。お父様やお母様もフランク先生のお孫さんなら自分の娘同然に扱うだろうし心配ない。


 そんな事をぼんやり考えているとキッチンから二人がお皿を持って出てくるのが見えた。リオンは本当に良いお兄ちゃんになるだろうなあ。昔からいつもそう言ってたし、それに彼は何よりも優しいからクラリスだって懐くだろう。だってほら、さっきまで不安そうにしてたのに今はもうスッキリした顔になって笑ってる。


「――ルイーゼお姉ちゃん、リオンお兄ちゃん凄いです! 男の人なのにお料理が凄く上手です! 私も教えて欲しいくらいです!」

「……リオンなら、おしえて、くれる、よ?」


 クラリスは本当に楽しそうだ。よかった、この子には絶対に幸せになって欲しい。そしてそんなすぐ後ろにいるリオンも笑う。


「いや、でもねクラリス。リゼも料理は上手いんだよ。だからリゼに教えて貰うと良いんじゃないかな。それにこれからまだまだ一緒にアカデメイアで暮らすんだからその機会も沢山あるよ」

「……ううん。リオンのほうが、いっぱい、しってるよ? だからクラリス、リオンにいっぱい、おしえてもらうと、いいよ?」


 私がそう言って笑うとクラリスは不安そうな顔になって隣に立つリオンを見上げる。だけど彼は何も言わずため息をつくと私に向かって笑い掛けてきた。


「別に……何方か片方だけに教えて貰う必要はないさ。僕とリゼが一緒に教えてあげれば良い。クラリス、僕とリゼの料理の先生は僕の母さんなんだ。だから僕らは同じ位料理は得意なんだ――ほら、リゼはこの後フランク先生の診察なんだろ? ならちゃんと食べて元気な処を見せないとね。さあ、早く食べよう?」


 そう言ってリオンはテーブルにお皿を並べていく。クラリスは何か言いたそうにしているけど何も言わず黙って同じ様にお皿を並べていく。そうして料理のお皿が全部並んだ処で私達三人はやっと一緒に少し遅めの朝食を摂る事になった。


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