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悪役令嬢マリールイーゼは生き延びたい。  作者: いすゞこみち
アカデメイア/準生徒編(12歳〜)
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53 不可解な言葉

 剣技場に行くとシンと静まり返っていた。どうやら今は誰も使っていないみたいで人の姿がない。そんな中、舞台の真ん中で木剣を打ち合わせている二人の姿が見えた。かん、かん、と言う木を打ち合わせる澄んだ音が響く。


 実は私はこの剣技場に来たのは初めてだ。普通の貴族令嬢はこう言う場所に来る事はない。来るとしてもいわゆる軍属貴族の令嬢だけであの勝負に出た三人みたいな人は利用してるんだろう。


「――ネイサン、エド、どんな感じだ?」


 伯父様が尋ねるとそこで二人はやっと振り返る。そこで私を見た途端エドガーが喜色満面になって駆け寄ってきた。


「リールー、久しぶり!」

「え、あ、うん。久しぶりね、エドお兄ちゃん。元気?」


「もちろん! 本当は僕が一緒にここに入学したかったよ!」

「いや、でも……エドは四歳も年上でしょ? 十二歳と一緒に十六歳が同級生って無理があると思うんだけど……」


 そして遅れて近付いてきたジョナサンは私の頭に手を載せると穏やかに笑った。


「――何事もないか、ルイーゼ」

「え、うん。ネイサンも元気だった?」


「ああ、俺は問題ない。だが母上がルイーゼの一大事と言って家を飛び出したきり連絡が無くてな? 今、何処で何をしているかルイーゼは知らないか?」

「あー……ちょっと前まで王宮で王女様の教育をお母様と一緒にしてたみたい。だけど終わったみたいだし今は家にいるんじゃないかなあ?」


 叔母様一体何してるの……確かに連絡しても一〇日は掛かるから仕方ないと言えば仕方ないんだけど。だけどジョナサンは随分落ち着いた感じになって少しびっくりした。前に別れた時はもっと頑なな感じだったのに穏やかになっている。


「それで……リオンは役に立っているか?」

「うん。色々助けてくれるよ?」


「そうか……兎に角ルイーゼが命を落とさずに済むのが一番大事だからな。よし――リオン、腕が落ちていないか見てやる」


 そう言うとジョナサンはエドガーとリオンを連れて再び舞台の中央へ行ってしまう。私は強さとか全然分からないけどリオンが相当強い事だけは何と無く分かる。やっぱり相手が何処を狙っているとか分かるだけでかなり違うのかな?


 そうやって眺めていると伯父様が私のそばにやってきて一緒に勝負をしているリオン達を眺めた。


「――なあ、嬢ちゃん?」

「え、はい?」


「これはまだ理解出来ねえとは思うんだが言っとくぜ」

「えっと……何ですか?」


「お前が未来視の魔法を持っている事はここにいる全員が知っている。その所為でこれからお前は死ぬ程辛い思いをするかも知れん。その時はあいつらを思い出せ。例え世界がお前の敵になろうとあいつらはお前を見捨てん。それだけは忘れるな」

「……はい」


「それと――頑張ろうとするな」

「……えっ?」


「もし逃げた方が良いと思ったら意地を張らずにとっとと逃げる事を選べ。人は勝つ為に戦うんじゃねえ。生きる為に勝とうとする。何の為に勝ちたいのかは別に考えて構わんが何の為に生きるのかは絶対に考えるな。手段と目的が入れ替わるぞ?」


 私には伯父様が言った意味が半分も理解出来なかった。言葉の意味じゃなくて「どうしてそんな風に考えられるのか」と言う意味で。勝たなくて良い、逃げて構わないなんて言う大人は初めてでどう解釈すれば良いのかが分からない。


「……えっと……よく分からないですけど、覚えておきます」

「ま、だろうな。今はまだそれで充分だ」


 私がそう答えると伯父様は視線を舞台の上に向けたまま全く振り向かずに言う。だけど伯父様の英雄の魔法がどんな物か知らないし何だか見透かされている様な感じがする。


「あの、伯父様……どうしてそんなお話を私に?」


 どうしても気になって今度は私から尋ねてみた。伯父様はそこで初めて私の方に顔を向けるとまじまじと見つめる。それで口の端を歪めて楽しそうに笑った。


「なに、大した話じゃねえ。戦場で生きる事より信念を大事にする奴はそれが破綻すれば簡単に絶望する。信念ってのは厄介で一度でも失敗すれば終わるんだよ。今回は失敗したけど次は頑張ろう、とは考えねえ。生きてさえいれば幾らでもやり直しは利くのにな? まあ簡単に言やあ、いっぺん上手くいかねぇだけで諦められる信念なんぞ信念じゃねえ、って事だわな」


 うーん……言葉の意味自体は分かるんだけど何故それを私に言ったのかが分からないんだよね。だけど伯父様は雰囲気がある人で予言めいた含みがあるみたいにも感じる。


 結局そこからは何かを話したりはせず、私は伯父様の隣で勝負をしているリオン達をただ眺めていたのだった。


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