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悪役令嬢マリールイーゼは生き延びたい。  作者: いすゞこみち
アカデメイア/準生徒編(12歳〜)
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51 不穏な忠告

 エマさんのイジメが発覚して少し経った頃、私とセシリア、ルーシーの三人は初めてお茶会に誘われる事になった。


 あの後、アンジェリンお姉ちゃんに言われて私だけじゃなくセシリアとルーシーにもエマさんに連絡を取ったり出会う事が禁止されている。禁止と言うと大袈裟だけど要するにあんな事があった後で上流貴族から近付くのは男爵家のエマさんの為に良くないから――だけど向こうから招待されれば話は別だ。


「――ああ、すっごい楽しみ。エマお姉ちゃん、どんなお茶とお菓子を準備してくれてるのかなあ」

「だねー。エマさんお料理上手そうだし。リオン君のお菓子に対抗心燃やしてたからかなり楽しみだよねえ」


 随分早い時間からセシリアとルーシーの二人は私の部屋にやって来ている。それもかなり気合が入っているみたいでドレス姿だ。それもどう見ても普段用じゃない。更に二人共入学した頃よりは身長も伸びているのにぴったり合っている。


「マリー、それよりこのドレスどお? 後期が始まる前にここで採寸してお母様が送ってくれたんだあ」

「うちもルーシーのドレスと一緒にね。私らの場合、親同士で付き合い多いから送る時は一緒に送ってくれるんだよね」


「……うん、二人共可愛いし似合ってるよ?」


 きっと二人共、誕生日のお祝いにドレスを送って貰ったんだろうな。そんな事を考えながら私は素直な感想を口にしていた。


 この世界では実は誕生日が無い。いや、誕生日自体はあるんだけど年の初めに数え年でお祝いするのが一般的だ。大抵は冬季休暇で帰省した時に採寸と新調をするらしい。だけど二人は私の服装を見てすごく不満そうな顔になった。


「……それで? なんでルイちゃんはドレスじゃないの?」

「そうだよ、ルイちゃん。なんで制服なのさ?」


 ……なんか二人が私の事を「ルイちゃん」って呼ぶ時は微妙に弄ろうとしている時の様な気がする。


「えー……いやほら、必要になったらその都度新調してくれるから毎年じゃないんだよね」


「だってあの勝負の時とかドレス着てたじゃん?」

「実はあれ、ダンス用なんだよ。汗を掻いても大丈夫な様に生地も薄いから今の時期だと良いんだけど、流石にお茶会で着て行く様なドレスじゃないから……」


「え、ダンス用のドレスって別なんだ?」


 私がそう答えると二人は目を丸くする。まあ普通はダンス用のドレスなんて無いのかも知れない。だって舞踏会は軽食や飲み物も出るし。競技ダンスみたいな物も無いしね。ドレスって結構な値段がするらしいし専用のドレス自体レアかも知れない。


 だけど考えてみたらもうすぐ夏季休暇だ。アカデメイアに来てそろそろ一年になろうとしてる。残り一月もせずにアカデメイアは夏季休暇に入る。冬は雪で通行が出来ない事もあるから休業期間も長いけど夏季休暇は割と短い。収穫祭の準備がある生徒は一月近く遅れて戻る事も多いらしい。


「あ、そろそろ行った方が良いかもー?」

「そだね。けどマリー、本当にドレスじゃ無くても良いの? 初お呼ばれなんでしょ?」


「んー良いよ。実は私、地味な普段着以外にドレスって持って無いんだよね。そんなの着ていくより制服の方がマシだと思う」

「って持ってないの⁉︎  公爵家どうなってんのよ!」


「まあまたお母様に相談してみるね」

「……マリー、滅茶苦茶興味なさそう……」


「……もう良いや……取り敢えず行こっか……」


 そんなセシリアの呆れる声を聞きながら私達三人は時間が来て女子寮に向かう事になったのだった。


 エマさんの暮らす女子寮は一口に女子寮と言ってもセシリアとルーシーの暮らす建物とは別だ。特に女子生徒の部屋は男子生徒の部屋に比べてかなり広いのは女子はどうしてもドレスが嵩張るし化粧台も必要になるから。教導寮の私からすれば普段入った事がない建物だけど二人もキョロキョロしている。きっと自分達の寮と比べてるんだろうな。そうやって聞いていた部屋まで辿り着くとエマさんが私達を出迎えてくれた。


「――いらっしゃい、三人とも。お待ちしてました!」


「エマお姉ちゃん! 来たよ!」

「今日はよろしくお願いします!」


 二人は明るく答える。そして私も同じ様にお辞儀をした。


「エマさん、今日はご招待ありがとうございます。お呼ばれするのは初めてだから粗相してしまうかも知れないけど――」


 だけどそこまで言った処で部屋の中から他に二人、正規生らしい女性が出てきて思わず言葉を止めてしまった。と言うのもその女性二人はエマさんを虐めていた二人だったからだ。


「……あ、ごめんなさい。今日は三人に会わせたくてお友達を呼んでいるんです。こちらは私の同級生のカーラさんとソレイユさん――こちらがルウちゃんとシルちゃん、ルイちゃんです」


「あ、そうなんだ? えっと、私がルウちゃんです!」

「私がシルちゃん……ってこの自己紹介恥ずかし過ぎる……」


 二人がそんな挨拶をする。と言うか愛称で挨拶するのはちょっとアレ過ぎて私が躊躇していると、それより先に正規生の二人が会釈して先に挨拶をしてきた。


「カーラと申します。皆様、どうぞよしなに」

「ソレイユと申します――マリールイーゼ様、先日は大変失礼致しましたわ。今日はどうぞ宜しくお願い致しますね」


「あれ? ルイちゃんはお姉さん達と知り合いなの?」

「……流石……不思議な繋がり、多いよね……」


「……あ、あはははは……」


 それで私が曖昧に笑っていると私達はテーブルまで連れられて椅子に座った。


 エマさんの部屋は私の部屋より少し小さいだけで広さ自体は結構ある。これはきっと私の使う部屋が本来教導官用だからなんだと思う。だけど私は余り周囲を見る余裕がなかった。


「……あ、そうだ。忘れてた……」


 そう言って私はカバンから中サイズの瓶を取り出す。これは以前出した野苺のジャムだ。美味しいってエマさんが言ってたからお土産に準備した物だけど丁度都合が良い。変な緊張の所為で本当に忘れてただけなんだけど、私は席を立つとキッチンにいるエマさんに近付いていった。


「――あの、エマさん?」

「あ、はい……ルイちゃん?」


「これ、前のジャム。エマさん美味しいって言ってたからお土産に持ってきたよ」

「あら、ありがとう。これ、本当に美味しいわよね。もうすぐ準備出来るからルイちゃんもテーブルで待っていてね?」


 だけどテーブルに戻ろうとせずじっと見上げている私にエマさんは不思議そうな顔に変わる。


「……あら? どうしたの?」

「……エマさん、大丈夫?」


「えっ? ええと……何がかしら?」

「あの二人……本当に仲良し?」


 それを聞いてエマさんはパチパチと目を瞬かせる。そして少し考える顔になると私を見て困った様に笑った。


「……ルイちゃんは本当に良く見てるわね」

「えっ、それじゃあ……」


「ああ、そうじゃないの。ただ……そうね。元々私とあの二人はそれほど仲良しじゃなかったの。だけど前にアンジェリン様が来て下さった時に二人に話し掛けられてね? それから一緒にいる事が増えて仲良くなったのよ」


「……そうなんだ……」


 それを聞いて私は凄く複雑だった。あの二人はエマさんを虐めていたけれどアンジェリンお姉ちゃんに言われて仲良くする様になっただけだ。そう思うだけで胸の中で嫌な感じが詰まったみたいで気持ち悪い。やっぱり私はお姉ちゃんみたいにはなれない。だけどそれを吐き出す事も出来ない。


 でもそうして私が俯いているとエマさんが言った。


「まあ――二人共、余り良く無い事をしていたの。その事を私に打ち明けてくれてね? それで謝ってくれたのよ」

「……えっ?」


「何故そんな事をしたのか理由も全部話してくれてね? 本当にごめんなさいって泣いて謝ってくれたの。その涙を見てたら私もどうでも良くなっちゃってね? それから二人とは仲良くなれたの。きっと本当の親友じゃないかしら――ルイちゃんがルウちゃん、シルちゃんと仲良しみたいにね?」


 それを聞いた私はテーブルの二人を振り返ってすぐにエマさんの顔を見上げた。エマさんは微笑んでいる。それはきっと彼女の本心で子供の私を誤魔化す為じゃない……と思う。


 でも……あの二人、自分達から謝ったんだ。それも自分達が何をしたのかまでちゃんと言って。その上でエマさんは許して本当の友達になった。こうしてお茶会に呼んで私達に紹介する位仲良くなって。そう思うだけで今まで胸につかえていた仄暗い感情がスッと消えていく。


「……そっか。エマさん、本当に良かったね」

「ええ、ありがとう。まさかこんなになると思っていなかったから自分でも驚いてるわ。だけど二人共、とても良い人よ」


 そして後から近付く足音が聞こえて振り返るとあの二人が笑顔でいる。


「……エマ、私達も手伝いますわ」

「考えてみたらエマ一人で六人分を運ぶのは大変ですもの」


「……ソレイユ、カーラ、ありがとう。本当に助かるわ」


 そう言って笑うエマさんは普段私達に見せる笑顔とは全然違う、今まで見た事がない笑顔だった。それを見ているだけで私は泣きそうになってしまう。だけど何故そうなるのか自分でもよく分からない。この気持ちは一体何なんだろう。


 でも本当に良かった。お姉ちゃんが言った通り、この二人はエマさんを嫌っていた訳じゃなかった。きっとエマさんと一緒に過ごす内に罪悪感に潰されそうになったんだと思う。だってエマさんは優しくて気付かってくれる人だから。


 それからは本当に私も楽しかった。正規生になればどんな事があるのかとか、先輩達のお話は凄く為になったし興味深い話を聞けて良かった。初めてお呼ばれしたお茶会がエマさんとこの人達で本当に良かった。


 そしてお茶とお菓子を食べ終わってからそろそろお開きになる時、私は不意に二人から呼び止められた。


「――あの、マリールイーゼ様」

「えっ? あ、私もルイちゃんで良いですよ?」


 だけど二人は真剣な顔のまま変わらない。真剣なだけじゃなくて少し憂鬱そうにも見える。それで何だろうと思っていると二人は顔を見合わせて頷く。そして打ち明ける様に言った。


「……マリールイーゼ様。どうかお気をつけてください」

「……え? 何を……ですか?」


「私達はもう関わっていないので詳しく知らないのですが……ベアトリスさんを中心に女生徒の一部がマリールイーゼ様に対して何やら不穏な事を考えている様です」

「ええ。でもあの方も流石に直接何かをする事はないと思いますけれど……ですが充分にご注意くださいまし」


 ……えっ? ベアトリス? 誰それ? 何処かで聞いた様な気もするけど一体誰の事なのかさっぱり分からない。まあでもあのお茶会講習の時のくだらない嫌がらせ程度なら割と何とかなる気もする。


「……先輩方、わざわざご忠告して下さって本当にありがとうございます。気をつける様にしますね」


 私はお礼を言ってお辞儀するとエマさんの部屋を後にした。


 だけど……それが私にとって本当に辛い出来事になるだなんてその時は予想も出来なかった。まさかあんなやり方で公爵家の私を追い込めるだなんて思ってもいなかったから。


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