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悪役令嬢マリールイーゼは生き延びたい。  作者: いすゞこみち
アカデメイア四年生編(十八歳〜)
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360 お医者様の条件

 テレーズ先生の元を訪ねて翌日にはもう、私は王宮に赴いていた。


 理由は簡単だ。後一年で成果を出せば良いと言うもののアカデメイアの一年は実際は半年しかない。九月に始まって十一月一杯でもう冬季休暇に入ってしまう。その後後期授業が始まっても四月から六月一杯。実質三ヶ月ずつしか正規授業時間が無い。だからあっと言う間に過ぎてしまう。


 私が王宮に上がるとすぐ王様の私室に呼ばれた。これは今までと同じで余り私の姿が人目に触れるのを避ける為だろう。だけどそれで部屋に入ると私を見た王様とお父様はギョッとして何度も目を擦り始めた。


「……なあ、セディ。俺には凄く普通の娘が来た様に見えるんだが……」

「ええ、俺にもそう見えます。と言うか……本当にルイーゼなのか?」


「……伯父様やお父様まで……何ですか、またおっぱいですか?」


 だけど私がそう言うとお父様は妙に納得した顔に変わる。


「……ああ、アレックス。これは俺の娘で間違いない」

「……いや、セディ……お前、何故断言出来るんだ?」


「決まっている。人前でおっぱいなぞ口にするのはうちの娘しかいない」

「……お前……親として、本当にそれで良いのか……?」


 ……いや……おっぱいはおっぱいじゃん……お父様も伯父様も一体何を言ってるんだか……大体私の胸が大きくなっただけで何でこんなに大騒ぎしてんのよ。ひょっとして私バカにされてる? 小さいままずっと大きくならないと思われてた? と言うか……喧嘩売ってんのか?


 そんな思いが顔に出ていたらしく、お父様と伯父様は慌て始める。


「……あっ! ち、違うんだルイーゼ! お父様は心配してただけで!」

「……へぇ……」


「そ、そうだぞ! 伯父さんも姪っ子を心配していただけだよ!」

「……ふぅん……」


 なんだろう、これ。お母様や叔母様に言われた時よりお父様や伯父様に言われる方がイラッとする。やっぱり中年男性相手だからだろうか?


 でも明らかに不機嫌な顔の私に伯父様――王様は言い訳っぽく続ける。


「ま、まあ、それで……マリーのお話って何なのかな⁉︎」

「ああ……お聞きしたい事とお願いしたい事があったんです」


「な、何を?」

「ええと……お願いしたいのはお父様、私の英雄魔法についてアカデメイアの先生に調べて貰う許可って戴けますか?」


 私が先ずお願いしたい事を口にすると二人は顔を見合わせる。お父様は少し渋った様子で口を開いた。


「……いや、ルイーゼ……一応英雄一族に関しては国家機密扱いなのだがそれを例えアカデメイアとは言え公開するのは問題があるよ」

「公開はしません。テレーズ先生の補佐をしている先生が魔法の専門家で今回私が色々トラブルに遭った原因を調べて貰いたいんです」


「……いや、しかしなあ……」


 だけどお父様が渋る中、王様は少し考えてにこりと笑う。


「……ふむ、テレーズ先生の補佐……身内か。セディ、それなら別に構わないんじゃないか?」

「……いや、アレックスお前……国家機密を研究させる事自体、色々と危険なんだが。それで困るのは俺ではなくお前なんだぞ?」


「いやまあ、あのテレーズ先生の管轄だろう? 先生はそんな不手際な事はせんよ。むしろ許可を出さない方が後々恐ろしい気もするしな?」

「……まあ、それは確かにそうなんだが……」


 そう言うと二人は深刻な顔になって考え込んでしまう。と言うかテレーズ先生って本当に恐れられてるなあ。まあ王様――伯父様も昔、家庭教師の先生だったしお父様もお母様の関係で余り強く言えないみたいだし。


「……仕方ない。但し研究結果はアレックス――陛下と私にだけはきちんと報告する事。それと他の人間には絶対口外しない事。これは例え家族であろうとリオン相手だろうと禁止だ。それを守れるか、ルイーゼ?」

「えっ? お父様、リオンにも言っちゃダメなの?」


「当たり前だ。国家機密と言っただろう? そんな研究をする事自体余り人に知られる訳にはいかん。それが例え同じ英雄一族だろうとな?」


 そして次に伯父様が苦笑する。


「まあ、そうだな。あくまで個人的な事だけに制限する。マリー個人の事に関してのみ許可しよう。その代わりドラグナンでの成果褒賞は出さない物とする。国家への貢献に対する許可ならその重さが分かるだろう?」


 それで私も頷いた。研究とは言ってもあくまで可能性を調べて貰いたいだけだし英雄魔法自体の解明が目的じゃない。それにアカデメイアからも学票って形でご褒美が出されるし他の皆だって充分潤った筈だ。


 それで一つ目の話が終わると今度は王様が尋ねてくる。


「それで……もう一つの『聞きたい事』とは何かな、マリー?」

「ええと……この国で女の子がお医者様になれないのってどうしてなんですか?」


「えっ? ああ……そんな事か。別に禁止はしていないんだよ。ただ適正のある女性がいなかっただけで」

「え……そうなんですか?」


「例えばそうだな。典薬医男爵のデュトワ家当主は代々女性だ。だがそれ以外に女性の医者がいない。原則、同じ医者の三人から承認を受けないと医者として振る舞えない規則があるんだよ。これは医療技術を認められた者の証明として必須条件だ。そして典薬医自体がかなり減っている」

「あの……典薬医って何です?」


「医者にも幾つか種類がある。典薬医とは薬等を用いて医療を行う医者の事だ。魔法を使わず純粋な技術だけで医療行為を行う医者だね」


 そんな王様の一言に今度はお父様も頷く。


「ルイーゼ、フランク先生やピエール先生がうちの専属医なのは英雄一族の近くで魔法が使えないからだよ。昔は多かったが最近は典薬医自体がいないんだ。だからデュトワ家はほぼアレクトー家専属なんだよ」

「あー……でもクロエ様もフランク先生に診て貰ってますよね?」


「そうだね。ハイレット伯爵家のクロエ殿の様に魔法が効きにくい体質もある程度いる。しかし大半は魔法で何とかしてしまう。治療自体は無理でも痛み止めや熱冷まし程度なら魔法で何とかなる。氷で痛覚を麻痺させたり水で体温を下げる程度なら魔法でも可能だからね。だから貴族相手の医者は原則、魔法での医療技術が必要になる。フランク先生も息子さんのピエール先生も結婚前に承認を受けて貴族医としての資格があるのだよ」


 まさかお医者様になるのにそんな条件があるなんて知らなかった。でもそうだとすると……あれ? じゃあ平民のお医者様ってどうなるの?


「あの……伯父様、お父様……なら平民のお医者様は? 平民って魔法の知識がないし、その『典薬医』の人が大半なんじゃ……?」

「うむ、そうだね。しかしそれでも女性が医者になるのは難しい。平民であっても女性は家を守る者と言う認識が強い。承認を得る条件は同じだが医者自体が特別な職で伝統を重んじる傾向が強いのだ。だからクラリスが承認を得るのは相当大変だと思うよ?」


「……え……お父様、どうしてクラリスの事だって思ったの?」

「ルイーゼがそんなに懸命になるのはクラリスしかいないだろう?」


 何だか完全に見透かされている。もしクラリスがお医者様になれるなら生徒会の会長だって大丈夫だと思ったのに。だけどそこで王様が笑う。


「まあ、あれだ。三人の承認が必要というのも親や祖父が医者で承認を出しても後一人が準備出来ないからだ。曽祖父が生きている事は殆ど無いし曽孫が十五歳で承認を得られるまで生存している事はほぼ無い。そう言う抜け穴を塞ぐ為に三人必要だとしてあるのだよ」


 でもそれを聞いた瞬間、私はハッとした。『親や祖父が承認を出しても後一人が準備出来ない』? それってもしかして、フランク先生やピエール先生もクラリスの承認が出せるって事?


「え、あの、伯父様?」

「うん、何だい?」


「もしかして……フランク先生やピエール先生の承認をクラリスは受けられるって事ですか? 身内なのに?」

「うむ、そうだ。承認を出す側にも責任が発生するから例え身内だろうが承認を受けられる。承認者とはいわば保証人だ。だから責任を背負いたくない医者は簡単に承認を出さない。特にクラリス・デュトワ――彼女の様に未だ幼く実績がない女性に対して他の医者は承認自体出さない。それに承認を出せるのは一人三度までだ。これは医者自体が増え過ぎず減り過ぎない為だね。何せ医者になれるだけで稼ぎが増える物だから」


 王様とお父様は顔を見合わせて申し訳なさそうな顔に変わる。だけど私は逆に可能性があると考えていた。だって卒業すればクラリスだって立派な大人だし実績さえあれば承認を受けられる可能性もある。要するにアカデメイアで生徒会長をして実績を作ればクラリスに承認を出してくれるお医者様だっているかも知れないって事だ。


「……あの、その『実績』ってどんな実績でも良いんですか?」

「ふむ? いや、医者の承認だから原則医療の実績だよ?」


「じゃあ……もしクラリスがアカデメイアで何か実績を残せば、承認してくれるお医者様もいるかも知れないって事ですよね?」

「確かにそうだが……承認とはそれ程簡単に出す物ではない。医療で事故を起こした時、承認者が責任を取らされるから基本断る。普通なら弟子に対して付与する目的で承認する物だからね」


 それでも可能性は充分ある。クラリスみたいにお医者様を目指す女の子がいれば、クラリスがお医者様になればきっと救いになる。問題は承認をしてくれるお医者様を探す事だけど可能性がない訳じゃない。


「……分かりました。伯父様、お父様、有難うございます。それだけ分かれば何とかなるかも知れません。ちょっと頑張ってみます」


 それで私が退出しようとするとその背中に王様が声を掛けてくる。


「――ああ、そうだ。マリー、この後出来ればシルヴァンやエミリエ姫の処に顔を出してやってくれないだろうか?」

「え……はい、元々そのつもりでしたけど……?」


「そうか。エミリエ姫がマリーやクラリスに会いたいと少し不機嫌気味になっているらしくてね。まだしばらくは人前に出す訳にもいかないし困っていたんだ。丁度今回来てくれて助かった」

「分かりました。私も久しぶりですしエミとお話していきますね」


 そう答えて私は王様の私室を後にした。


 だけど考えてみたらエミリエ姫と会うのも随分久しぶりだ。この国に帰ってからすぐ私は倒れちゃったし、ちゃんと歩けて日常生活を送れる様になるまで半年近く掛かっている。まあ閉じ籠もってるとは言え王宮自体は広いし多分庭を散歩位はしてるだろう。シルヴァンしか知っている相手がいないから寂しいんだと思う。でもそれなら何かお菓子やお茶の差し入れでも準備して来たら良かったな。


 そう思いながら私はシルヴァンの部屋へ向かって王宮の廊下を歩いて行った。


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