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悪役令嬢マリールイーゼは生き延びたい。  作者: いすゞこみち
アカデメイア/準生徒編(12歳〜)
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34 お互い所有物

 次に目が覚めた時にはお母様と叔母様、それにアンジェリン王女の姿は無かった。代わりにリオンが椅子に座っている。


「……あ、リゼ。起きた? 身体はもう大丈夫?」

「……え……う、うん……大丈夫……」


 だけど物凄く顔を合わせ辛い。寝顔を見られていたのも少し恥ずかしいとは思うけど小さい頃からよく倒れていたから余り抵抗自体はない。それより私が彼を物みたいに考えていた方がよっぽど気不味かった。それでシーツを目元まで被る。


 だけど彼は小さい頃からよくやっていたみたいに私のおでこに手を乗せる。熱があるかどうか見る為だ。だけどそこで眉がぴくりと動くと怖い顔に変わる。思わず顔を背けてしまう私に彼は少し怒った声で言った。


「……リゼ。何か僕に隠してる事があるよね?」

「え……あ、英雄の魔法……?」


「そうだよ。特にリゼは小さい頃からずっと一緒に育ったから他の人より良く分かる。今のリゼは僕に対して物凄く申し訳ないとか気不味いって思ってる……怒らないから言いなさい」


「……ず、ずるい……」

「ずるくない。それに魔法を使わなくても今までずっと一緒に居たんだしリゼの考えそうな事なんて大体予想が付く。どうせリゼは隠し事が下手なんだから正直に全部、ちゃんと話しなさい」


 こう言う時のリオンは本当に容赦がない。全部見透かされたみたいでこの時点で私はもう涙目だ。しばらくウンウンと唸りながら結局私は正直に話すしかなくなってしまった。


「……えと、その……あのね?」

「うん。それで何に負い目を感じてるの?」


「その……私もアンジェリン姫と変わらないな、って……」

「……ん? 変わらない、ってどう言う事?」


「だから……その、リオンの事を私の物、とか? 私の所有物みたいな? そう言う言い方とか、そう言う考えだったのかも知れないなあ、って……それで凄く自己嫌悪してたの……」


 だけどリオンは大して驚いた風には見えない。彼は少しだけ考えると大きなため息を吐いた。


「はぁ……何と言うか本当に今更だね。もしかして舞台の上でリゼはそんな事考えながら逃げ回ってたの?」

「え……うん……」


「母さんに言われた通りにすると思ってたら違う方向で考え込んでるとか、如何にもリゼがやりそうな事だね。どうしてそんな悪い方にばかり考えちゃうのかな、リゼは」

「……ごめんなさい……」


「まあ……もう、それで良いよ。僕はリゼの所有物って事で。幾ら僕の事を考えてくれるにしたって、そんな悪い意味で考えて貰っても嬉しくない」

「……えっ?」


「だからもうリゼも気にしない様に。大体リゼは昔から悪い方に考える癖があるしさ。勝手に自己嫌悪に陥って自分を虐めて納得されても困る。それならそう言う事にした方が全然マシだよ」

「……う、ううううう……」


 だけど私はやっぱり納得出来ない。だってリオンは無理をしてまで一緒にいてくれる大切な人間だ。そんな彼をまるで道具みたいに考える事は出来ないし本人が納得しても受け入れるなんて私には無理だ。それを認めたら私は自分を許せなくなる。


 だって私は自分が弱い事を知ってるから。仮に彼を道具としてしまったらきっといざと言う時、彼の人格を無視して都合良く考えてしまう気がする。


 そんな時、必死に抵抗していた私の頭にある良い考えが浮かんだ――そうだ、こうすれば良いじゃん!


「……分かった……じゃあリオンは私の物って事にする……」

「うん。最初からそう考えていれば良かったんだよ」


「だけどその代わり、私もリオンの物って事にしてね?」

「……は、はあ⁉︎ リゼ、何を言って……」


 リオンは呆気に取られた顔に変わる。だけど少し頬を紅潮させながら慌てた表情になった。そんな様子に私は勝ち誇るかの様に満面の笑みで答える。


「だって、それなら公平だもの。私は絶対にリオンを物扱いにしたくないし。だけどこうしておけばリオンもいざと言う時に私を物扱いして良いって事になるでしょ? 私だけが一方的にリオンを物扱いするのなんて絶対認めないからね?」

「……くっ……」


 リオンは本当に頭を抱えてしまう。人間って本当に困った時は頭を抱えちゃうんだなあ、だなんて感慨深く眺めていたんだけど彼は顔を上げて怨嗟の声を上げた。


「……そうだった……リゼはそう言う子だったよな……」

「……へ? 私が……そう言う子?」


「……守られてくれって言ってもリゼは絶対に守られるだけの自分に納得しないんだ。絶対に何かを返そうとする。こんなの昔から分かってた事なのに、すっかり忘れてた……」

「えっと……ごめんリオン、私よく分からないんだけど?」


 ごめん、本気で分かりません。昔から、って言われても私はそんなに難しく考えた事はない筈だし。だけどリオンは顔を上げると頬を赤くしたまま恨みがましい目で私を見る。


「……どうせリゼはさっき自分で言った言葉の意味、分かってないんだろ?」

「意味? そんなの当然分かってるよ?」


「……本当に?」

「うん。リオンが私の所有物なら、私もリオンの所有物。お互いに物扱いするんだから凄く対等。そしたら私も軽々しくリオンを物扱い出来ないから無茶を言ったり出来ないでしょ?」


「……はぁ……やっぱり分かってない……」

「えー? ちゃんと分かってるでしょ?」


「……もういいよ。でも後になって後悔しても遅いからね?」

「後悔なんてする筈ないでしょ?」


 私はベッドの上で無い胸を張って自慢げに言った。


 だけどこの時の私は自分が言った事を本当に全然分かっていなかったと後になって思い知る事となる。いやだって、大人になれる自分も想像も出来ないのに考えられる筈無いじゃん?


 もっと過ぎてからお母様と叔母様に物凄く責められる事になるんだけど、この時点で私はそんなの全く予想してなかった。


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