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悪役令嬢マリールイーゼは生き延びたい。  作者: いすゞこみち
イースラフト編(17歳〜)
332/369

332 信用してはならない

 結局他に手段が思いつかずロックの案を実行する事になった。迎賓館は王都の中心にあるから周囲を囲まれている状況だと何処かから逃げる訳にもいかない。そこでハンター――俗に言う冒険者ギルドにエミリエ姫と後見人のロシュフォール侯爵の連名で協力を依頼する。アレクサンドラ様はエミリエ姫の祖母で結構な有名人らしくエミリエ姫自身も平民に人気がある。どうこう言ってもまだ八歳の女の子だから地位や権威に染まってなくて分け隔てなく民衆に接していたらしい。偉そうで太々しい貴族より可愛くて素直で優しい女の子の方がウケが良いのは何処でも変わらない。但し狙われている本人だから実際に依頼に行くのはロックだけで書状と前金を持って行くそうだ。そんな訳で残ったアレクサンドラ様とアカデメイア生徒一同は出発する準備を進めていた。


 だけど流石にあの特製馬車は使えない。目立ち過ぎるし馬がやられると動けなくなってしまう。野盗相手なら耐えられても一国の軍隊相手に持ち堪えるのは難しい。だから一旦ロシュフォール侯爵家に預かって貰って王都を出た処に旦那様に運んで貰う手筈になっている。じゃあ私達はどうするかと言うと勿論徒歩だ。荷物も少ないし上からローブを羽織れば誤魔化せる。それで今は皆その準備をしている。


 舞踏会にも出なかった私はいち早く準備を終わらせてホールにやってきていた。そこにはアレクサンドラ様が先に来ている。


「――随分早いな、マリー殿。エミリエは時間が掛かっている様だ」

「私の場合は寝込んでたみたいな物ですからね。荷物も開けてないですから殆どそのまま荷物を持って来ただけなんですよ」


「そうか。折角遠い処から来てくれたのに申し訳ない事をした」


 そう言うとアレクサンドラ様は黙り込んでしまった。変に気を使わせてしまったみたいで何だか申し訳ない気がする。この人はエミリエ姫の事を本気で大事に考えているし子供の私達に対しても出来るだけ被害に遭わない様に気を遣ってくれている。結果として私は体調不良になったけどそれだってこの人が狙われている事を教えてくれたお陰だ。


「それで、体調不良の方はどうだ? まだ男性が怖いか?」

「あ……いえ、頭では分かってるので怖いと言うより身体が勝手に反応してしまう感じです。それに皆、よく知ってる相手ですから」


「そうか。ドラグナンにいる間は落ち着かんと思うが自分の国に戻れば改善するだろう。魚も水が合わねば生きていけない物だ。だから余り気にしない方が良い。ただ、こんな国で申し訳ないとは思っている」


 私が何を言えば良いか迷っている内に先に言われてしまう。それでも何か言いたくて私はアレクサンドラ様に頭を下げていた。


「あの……今回はお世話になりました。本当に有難うございます」

「うむ? いや……」


「まだ解決してないのでお手数をお掛けしますけど。でもいつかこんな風に国同士が仲良く出来れば良いと思います。きっとエミ――エミリエ姫もそう願っていると思います」


 だけど私がそう言うと彼女は真剣な顔に変わる。今まで何か歯に物が挟まったみたいな顔をしていたけどそれが不意に消える。


「……マリー殿。一つだけ、これは忠告でもあるんだが……」

「はい? 何ですか?」


「お前様は随分買ってくれている様だが私を信用すべきでない。私とてエミリエを守る為にお前様を切り捨てるやも知れん。無論一番守りたい物を守ってくれた恩義があるから可能な限り手助けはする。だが目的が同じだから味方なだけで仲間では無い。確かにいつかそうなれば良いと思うが今はまだそうではない。だから余り心を許さない方が良いよ」

「え……でも……」


「あのリオン殿もあの一族にしては優し過ぎる気性の様だ。だが忘れてはいけない。イースラフトやグレートリーフは英雄一族を大事にしているが本来そちらの方が異端なのだ。我が国以外でもお前様の一族を良く思っていない国は多い。強過ぎる力は危険視される。たった一人で他国を圧倒出来る力があるのだ。それを畏れない人間はいないのだから」


 それは……何となく分かっていた事だ。アベル伯父様は一人で相手の軍隊を蹴散らす事が出来るらしいし圧倒的に強過ぎる。多分お父様やお兄様でも同じだしジョナサンやエドガー、そしてリオンも同じだ。


 英雄一族は異端過ぎる。一言でチートと言えばそれまでだけど世界のパワーバランスを呆気なく覆してしまえる。イースラフトやうちの国は味方だから庇うし守ろうとしてくれるけど敵対する相手の国にとっては忌避する排除すべき存在だ。それに今回ロックが私達がいる事を知った魔法妨害だって厄介極まりない。魔法みたいな特別な力まで無効化してしまうんだから普通の人間には抵抗する余地も与えない。


「でも……サーシャ様は私を人間として扱って下さいました。だから私も同じ人間として尊敬してます」

「……マリー殿……」


「それに……私のお友達も助けてくれますし皆仲良しです。エミももうお友達ですし困っていたら助けます。英雄一族だから特別に扱われてる訳じゃないです。それにきっと、いつかドラグナンの人達だって分かってくれると思います。それで皆が仲良しになれたら素敵ですよね」

「……そうか……そうだな。私が生きている内に見てみたい物だ」


 そう言ってアレクサンドラ様は笑う。だけど彼女は少し寂しそうな顔になって言った。


「だが……それでも気を付けなさい。確かに三つある派閥の内お前様を狙っているのは旧王党派だけだ。しかしだからと言って他の二つが味方になる訳ではない。例え派閥が違っても英雄一族の血を手に入れた方が将来的には良いと考える者もいる。同じ派閥だからと言って賛同者全員が同じ目標を掲げる訳ではない。単に自分の目的と重なるから集まっているだけだ。その事を決して忘れてはいけないよ?」

「……はい、分かりました」


「他人を信用し過ぎてはならない。まあ大人としてこう言わねばならぬのは心苦しい物があるが……だがお前様は相手に対して同じ人間と言う考えが強過ぎる様に感じる。平時ではそう言う物も多いが戦場や今回のドラグナンの様な状況下では人は凶暴になる。本来思っていた事が表面に出易い。それを見聞きしても絶望しない様に心構えをしておくれ」


 そう言ってやっとスッキリしたのかアレクサンドラ様は今度こそ本当に笑顔になる。エミリエ姫と再会を果たした時と同じで本当に優しい、我が子を見守るみたいな微笑みだ。お母様や叔母様、それにテレーズ先生が時折見せるのと同じだ。それで私は『はい』と答えた。だけどそんな処に荷物を持ったエミリエ姫がやってくる。彼女は私とアレクサンドラ様が神妙な顔になっているのを見て頬を膨らませる。


「――あっ! お婆様、またマリーお姉ちゃんをいじめてたんでしょ!」

「えっ? エミリエ、私はそんな事はしていないよ」


「嘘! だってその所為でお姉ちゃん、お身体の調子が悪くなっちゃったでしょう!」

「いやはや、これは参ったな。どうやら私は孫の信用を失ってしまったらしい」


 そう言って苦笑するアレクサンドラ様。だけどさっきみたいな緊張した空気はもう無い。結局エミリエ姫は私が何度も説明して言い聞かせた結果、やっとお婆様に対して素直にごめんなさいする事になった。


 だけどこの時の私はまだ、英雄一族が世間でどう思われているのかをちゃんと理解出来ていなかった。何故『悪魔』と呼ばれるのか、それはアベル伯父様の態度や持っている特異能力の所為だと思っていたけれどそれだけじゃなかった。クレバロイと言う部族出身のアレクサンドラ様が何故こんなに心配してくれるのか。アレクトー家の人間を悪魔と呼ぶ人達がどう思っているのか、後に思い知らされる事となるのだった。


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