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悪役令嬢マリールイーゼは生き延びたい。  作者: いすゞこみち
イースラフト編(17歳〜)
319/322

319 ばれてた

 ドラグナンに入国する名目は『貴族学校に通う上流貴族の子息令嬢達が後学の為にドラグナンの社交界に参加する』と言う物だ。その生徒の中にエミリエ姫が混じって学生のフリをする。制服の予備はクラリスの物を着せて一応すぐバレない様に多少の変装もするしシルヴァンが王族という事も最初は伏せておく。実際生徒だから嘘は吐いていないし余り喧伝するのも良くない為だ。


 そして入国する為に王様からドラグナンでの社交界日程も調べて貰う事が出来た。レイモンドのお兄様に手続きをして貰って準備も着々と順調に進んでいる。それに王様もエミリエ姫の護衛に出す予定の騎士団を幾つかに分けて同時にドラグナンに送る約束までしてくれた。そちらは同じ舞踏会に参加予定の貴族令嬢を護衛する名目でエミリエ姫がいるかどうかを判別するのも難しい筈だ。


 そして男子全員とセシリア、マティス、それにマリエルは特製馬車を操る練習をしている。流石に危険な処にシェーファー家の御者さん達を連れて行く事は出来ない。まあ建前上はそう言う事になってるんだけど私は知っている。リオンやヒューゴは実はノリノリだ。普通の馬車とは違う遠距離用の装甲馬車だ。男の子って本当にそう言うの好きだよね。


 そして女子には舞踏会で着るドレスをわざわざ王宮が準備してくれる事になった。私は例のホルターネックのドレスだけど他の皆のドレスも見た事の無い珍しい意匠や形状の物ばかりだ。はっきり言って目立ち過ぎる気もするけど王様曰く『往路は目立たない方が良いが社交界では逆に目立った方が良い』と言う事らしい。これは人の多い処では目立った方がむしろ安全だからだそうだ。大勢の人達が注目する場所では暗殺を仕掛ける事も出来ない。確かに王様が言う通りだと思う。


 それに特に私やリオンみたいに魔法無効化が出来ると不意打ち自体が困難になる。ドラグナンはイースラフトやグランドリーフみたいに英雄一族がいないから突然魔法が使えなくなると対処出来ない。それはまあうちの国でも魔法に慣れ過ぎた貴族は似た様な物だしね。実際準生徒の頃にお茶会でベアトリス先輩に因縁を付けられた時だって魔法が使えなくなった所為でズルが出来なくなったからだし充分効果的だと思う。


 だけど今回の事はお父様は勿論、お母様にも話していない。反対される事が分かりきっている。英雄一族が関わっているだけで今回大人達は満足に動けない。それに最悪の場合でも子供達が勝手にやった事として言い訳出来る。何せ子供達はエミリエ姫を助けたい一心で今回の計画を立てた訳だしドラグナン側だって強く言えない筈だ。お父様達に内緒と言うのはリオンと二人で決めたけど、そう言う駆け引きまで考えたのはルーシーとバスティアンだ。何て言うか末恐ろしいね、あの二人。


 そんな感じで今は全員がそれぞれ準備を頑張っている。私もお父様達に知られない様に気をつけながら準備を進めていた。



 遂に明日、ドラグナンに出発する――そんな時に私はお母様に呼ばれて一緒に食事をする事になった。今までも一緒に食事する事はあったけどお父様やお兄様まで一緒なのは随分久しぶりだ。アカデメイアに入学する前に数日間食卓を囲んだ事はあったけどそれ以前、四歳まで実家で過ごしていた時もお父様やお兄様がいない事が多かった。


 今日はリオンも叔父様と叔母様、それにエドガーと一緒に食事をしてるらしい。ジョナサンとエマさん、赤ん坊のジョルジュも一緒で家族が全員で集まってるそうだ。まあリオンの場合は特に家族が集まる事なんて私より珍しいと思う。だってジョナサンとエドガーは英雄として仕事をしているから家にいない事も多いしアーサー叔父様も普段は王様について仕事をしていて帰らない事も良くあった。


 クラリスも今日はコレットと一緒にエミリエ姫と一緒に過ごしてくれていて来ていない。本当ならクラリスも呼ばれていたけどそうなるとコレットとエミリエ姫の二人きりになってしまう。寂しくなると思ったのかクラリスは招待を断った。まあクラリスの事だから私にも気を使ってくれたのかも知れない。あの子はそう言う事を普通に考える子だから。


 とは言っても……何か緊張する。明日出発する訳でここでバレてしまったら絶対止められる。と言うか今までも時間はあったのに前日になって突然呼ばれて食事って時点でもうドキドキだ。ここはもうアカデメイアで培ったポーカーフェイスで乗り切るしか無い。


「――そう言えばルイーゼ?」

「えっ、ひゃい! 何でしゅか、お母たまっ⁉︎」


 いきなり尋ねられて噛み噛みになってしまう。どうした私、ポーカーフェイスが行方不明だぞ? 慌てて口元を押さえるとお母様は不思議そうに首を傾げる。


「……貴方、どうして緊張しているの? それで最近、お友達の皆さんも忙しく何かをしているみたいだけど一体何をしているの?」

「えっと……その、男の子達はリオンも一緒に修行とか? 乗ってきた馬車とか興味あるらしくて、使い方を習ったりしてるみたい?」


「ああ、あの馬車ね。あれは本当に凄かったわ。あんなの王族でも乗った事がないんじゃないかしら。アンジェリンとエマさんも感動していたしあんなに揺れなくて赤ん坊も安心して眠っていたものね」


 お母様が答えるとそれを聞いたお兄様とお父様が笑って反応する。


「へえ、あの馬車はそんなに凄いのか。だけどリオンや他の男子もあれには興味津々なんじゃないかな。剣もそうだけど男ってああ言う道具や仕掛けがある物は大好きだから自分でも使ってみたくなるんだよね」

「レオも私も表で馬に乗っていたからなあ。しかしあれは確かに凄い馬車だった。街道は結構道が酷いのに外から見ていても全く揺れている様には見えなかった。流石シェーファー侯爵だ、感心するばかりだよ」


「そ、そうでしょ⁉︎ あの馬車、実は内側に見えない車輪がついてて全部で八つも車輪があるんだって! だから道が酷くて車輪が浮いちゃっても平気らしいよ! 仕組みまではよく知らないけど!」

「成程、そうなのか。シェーファー殿は頻繁に各地を視察していらっしゃるからね。そのお陰で各地の貴族達も変な事を考えないのだから彼のやり方は正しいのだろうな。だが長距離用の専用馬車とは恐れ入った」


 お父様が感心した様子で呟く。それを聞いていたお母様は手を止めて少し心配そうな顔に変わった。


「でも……それでもルイーゼは体調を崩してしまったのよね。同乗していたけれどあれでも体調を崩すとは思わなかったわ。ライオネル陛下が心配して王妃様の部屋を貸して下さったけれど余程体調が悪く見えたのでしょうね。ルイーゼは遠方への旅は向いていないのかもね?」

「だ、大丈夫だよ! 次はそんな事にならないから……ほら、皆も一緒だし! セシリアやルーシーだって――」


 だけどお母様に慌てて返事をした時、私は黙り込んでしまった。余計な事を言ってしまったかも知れない。お母様はそんな私を無言でじっと見つめる。それで顔を上げられずに俯いているとお母様の優しげな声が聞こえてきた。


「――まあ、皆が一緒なら少しは落ち着くかも知れないわね。ルイーゼも俯いてないでしっかり食べなさい。ただでさえ身体が弱いのだから」

「……は、はい、お母様……」


 それでバレなかった事に安心して普通にスープに手をつける。だけどそれを口に含んだ時、お母様に突然――


「――そうそうルイーゼ。後で私の部屋にいらっしゃい」


 いきなりそう言われて私はむせ返る事になった。



 食事の後、お母様は随分先に自室に戻っている。少し怯えながら私はお母様の寝室に行った。


「……あの、お母様? ルイーゼです……」

「――入りなさい」


 それで入るとお母様がベッドを椅子代わりに腰掛けている。そのまま隣に促されて無言で座った。だけどお母様が怖くて顔を上げられない。


「……ルイーゼ、貴方……何かを隠しているわね?」


 そう言われて身体がびくりとする。だけどそれに留まらない。お母様は少し考えると腕を組んで呟く。


「……エミリエ姫を連れてドラグナンに行くつもりね? それもきっとアカデメイアの他の子達と一緒に。どう、違うかしら?」

「え、えっ? お母様、どうして……」


「そりゃあね。貴方のお友達が何をしてるかを見ればね。それにさっき貴方が口を滑らせたのはその確認にしかならなかったわよ?」

「……う……」


「それで……ルイーゼは全部話してくれると言った筈よね? 貴方の口から直接、何をどうするのかは話してくれないのかしら?」


 そう言われて私は物凄く迷った。だってお母様には私が日本の記憶を持っている事も全部話している。そんな突拍子も無い話でもお母様は真剣に聞いてくれたし真面目に考えてもくれた。そんなお母様に話さずに嘘を吐く事なんて出来ない。それについ先日、クラリスにお説教されたばかりだ。相手の反応を勝手に予想して諦めるのは相手を信用してないのと同じだ。それで私は覚悟すると話し始めた。


「……あのね、お母様。私、皆と明日、エミ――エミリエ姫と一緒にドラグナンに行く予定なの。本当はお手紙を置いて行くつもりだったの」

「……そう。やっぱりエミリエ姫の為なのね?」


「うん。あの子は私と似てる。だから放って置けなかったの」


 それだけ何とか言うと私は俯いてしまう。お母様が反対する理由なんて幾らでもある。身体も弱いし戦えない私が戦争をしていた国に行ってエミリエ姫を助けたり守るのは絶対不可能だ。だからダメだと言われても当然だ。なのにお母様の『ダメよ』と言う声が聞こえてこない。


 それで訝しげにお母様を見ると何か考えている。そんな私の視線に気がついたのか、お母様は私をじっと見つめるとため息を吐いた。


「……そう。それは……貴方が言い出して全部考えた事なの?」

「えっ? えと……エミを守りたいって言ったのは私だけどシルヴァンがエミと一緒に行くって言い出して。それで皆と相談して、お父様達が動けないのなら私達子供で勝手に動いた事にしよう、ってなったの」


 私がそう言うとお母様は私を胸に抱き寄せる。それがどう言う意味か分からなくて戸惑っていると頭の上からお母様の声が聞こえて来る。


「……そう。ごめんね、ルイーゼ……」

「……お母様?」


「きっとあの時、何とかなればそんな事は考えなかったのよね。子供が頼ってくれたのに動けない親でごめんなさいね」

「え……あの時って……?」


「エミリエ姫を守って欲しいってお父様やアーサー殿に相談しに来たでしょう? きっとあの時聞いてあげられなかったからでしょう?」

「……ああ……うん」


「でもね、お父様達が動けない理由も分かって頂戴。もしお父様が動けば必ず大変な事になってしまうの。だから……」

「それってお父様やお兄様達が国に認定された英雄だから?」


「……それを知っていたの?」

「え、うん。だからお父様達は動けないって。お父様達はドラグナンに入るだけで侵略扱いにされる筈だ、ってリオンが言ってたから……」


「そう……本当にちゃんと、他の子達と相談して決めたのね……」

「でもお母様、反対しないの? 行っちゃダメだ、って……」


 私がそう尋ねるとお母様は私の身体を離した。


「貴方がちゃんと理解していて、その上でお友達の皆と一緒に決めた事なのでしょう? 本当は止めたいけどお父様達も動けない事をちゃんと分かっているのに、私がルイーゼを説得出来る筈がないでしょう?」


 そう言われて今度は私の方からお母様に抱きついて全部を話した。

 もし問題になっても私達はまだ子供扱いだからドラグナンの王族であるエミリエ姫を助ける為に行動している事を言えば下手な事は言われない筈だ。きっと後は王様達が何とかしてくれる。それに元王族のお母様が分かってくれていれば絶対に何とかなる。だって私達は別に戦争する為に行くんじゃない。友達のエミリエ姫を手助けする為だから。


「……それで、どうやって行くのかはもう決めてあるの?」

「え、うん。社交界で舞踏会に参加する事になってるよ。王様に相談して色々調べて貰ったしもう手続きもして貰ってるから」


 最後にお母様に尋ねられて素直に答える。するとお母様は少し考えると苦笑した。


「……全く、ライオネル様は昔と変わらないわね。そうやって何かを企んでコソコソと動いている辺り、昔お会いした時と同じままだわ……」

「え、お母様って……あの王様と知り合いだったの?」


「ええ、まだ私が王女だった頃にね。アベル殿よりも年上で私より六歳年上だったのよ。随分と意地の悪い王子様だったわ」

「そうだったんだ……あ、お母様。これ、置いておくつもりだった手紙だけどお母様に渡しておくね。これが証拠になるかも知れないから」


 そう言って手紙を差し出すとお母様は封を開いて中を確認する。それで読み終えるとベッドの上に置いて私を見た。


「……ルイーゼ、危ない事はしてはダメよ? もし危ない事に巻き込まれそうならエミリエ姫を連れてすぐ逃げなさい。きっともうすぐアベル様も戻ってくる筈よ。そうなればお父様達も動ける様になるわ?」

「うん。分かったよ、お母様」


「それと……この事はお父様達には内緒にしておくわね。きっとリオン君もクローディアにも話さないでしょう。あの子はこう言う事は黙ってやりそうな気がするわ。母親のクローディアと本当に良く似てるもの」

「え、叔母様ってそうだったんだ?」


「そうよ――ほら、そろそろ戻ってお休みなさい。明日は朝から出立するのでしょう? 貴方は身体が弱いのだから絶対無理はしない様にね」


 それだけ言うとお母様は私の額に口付けをして、最後に『愛しているわ』と小さく呟いた。本当にクラリスが言った通りだ。相手を信用しなければ私も信じて貰えない。片方が一方的に信じても意味が無い。


 そんな事を痛感しながら私はお母様の部屋を後にした。


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