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悪役令嬢マリールイーゼは生き延びたい。  作者: いすゞこみち
イースラフト編(17歳〜)
318/321

318 私がしたい事

 あの後計画を立てた私達はすぐにその準備に入った。


 参加するのはシルヴァン。婚約相手を守る為には彼自身の立場は一番効果的だ。何しろ王族でもし何かあっても手出し出来ない。何しろ彼に手を出せば完全に全面戦争に突入する。それこそアベル伯父様が絶対に黙っている筈がない。きっと伯父様は数日で国を落としてしまう。


 そして私とリオン。私とリオンは英雄一族だけど世間的には英雄扱いされないらしいしリオンもこの前アンジェリン姫の披露式で初めて公開されたばかりで認知度も低い。何故か私は知られているけど女の子だから英雄扱いされる事は無いらしいし。


 私に付いてくれるのはクラリスとコレットだ。当然クラリスは魔眼が物凄く強い。下手をすれば英雄魔法よりよっぽど平和で最強だ。そしてコレットが行くと言う事はレイモンドも来る。どうやらレイモンドはコレットの事が好きみたいだし当然と言えば当然の話だった。


 そしてバスティアンとルーシー、ヒューゴとセシリアもエミリエ姫を助ける為に参加する。バスティアンが参加する、と言う事はあの特製の馬車を使うと言う事でもある。最新版と旧版の二台は安全な旅行をする為に装甲車みたいに頑丈で何かあっても大丈夫そうだ。そこにヒューゴとセシリアが加われば野盗が現れてもきっと余裕で対処出来るだろう。


 更にマティスとセシルの二人も参加を決めた。どちらかと言うと本当の意味での護衛役をするつもりらしい。特にお父様が騎士団長の二人は王家のシルヴァンとその婚約者を守る事を重視している。勿論他の皆の事も守るそうだけどこのメンバーだと戦える人が結構多い。リオンやヒューゴ、セシリア、それにレイモンドも戦えるし。もしそう言う危ない事があった時は凄く心強い。


 最後にマリエル。私が行くなら行くと言う事で特に他には理由らしい理由は無かった。だけどマリエルはある意味万能選手だ。戦闘も出来る主人公で身体能力も魔力の関係で物凄く高い。多分剣以外でリオンと肩を並べられる唯一の存在だ。ただ、話してはくれないけどマリエルにはマリエルの考えがあるみたいだ。今回の相談をしている最中も時折私の方をじっと見つめて何か言いたそうにしてる気がする。


 兎も角これにエミリエ姫を入れて全員で十四人。ぶっちゃけこの中で一番役に立たないのが私だ。だって戦闘もダメ、料理はリオンやクラリス、それにコレットも出来る。精々いるだけで魔法阻害領域が機能する位しか取り柄がない。それ処か馬車での長旅に弱い事を考えるとお荷物かも知れない。ちょっと凹む。私……一緒に行って良いんだろうか?


 そんな風に落ち込んでいる処に更に追い討ちを掛ける様に段取りを相談していたセシリアとルーシーがやってきて説明してくれる。


「――マリー、とりあえずマリーは王様に言ってドラグナンで開催される舞踏会の情報を貰って来てね? それと参加の申し込みはアレクトー家の名前だと絶対警戒されるからイースラフトの上流貴族の紹介を貰ってきてくれたら助かるよ」


 だけどセシリアがそう言うと聞いていたレイモンドが声を掛ける。


「ああ、それならうちの兄上に頼んでうちの紹介にして貰えると思いますよ? 一応うちはブレーズ侯爵家なんで」

「あ、そうなの? って言うかレイモンド君ってイースラフトの侯爵家だったのね。冷静に考えたらちょっと怖い話し方してるわね……」


「構わないっスよ? 家は兄上が継いでますし俺は一からやり直しが決まってますんで。それにマリーの姐さんのお陰でリオン様の叔母上が動いてくれて親父を隠居させてくれたんで随分助かったっスから」

「そう? じゃあ手間だけどマリーから聞いたら申請の手続きをして貰えるかしら? それさえあれば国境も簡単に越えられる筈だから」


 そんなやり取りを聞いて更に落ち込む。やっぱり私なんていなくても皆だけで出来ちゃうんじゃないかな。この処、自分の無力を思い知らされる事が多くてそんなネガティブな考え方になってしまう。


「……あの、じゃあ私、王様にドラグナンの社交界……舞踏会の日程を確認して貰えば良いのね?」

「うん。マリーはそれをレイモンド君に教えてあげてね?」


「うん……それでね、セシリア?」

「ん? どうしたの?」


「もし私が邪魔ならいつでも言ってね? 私がいない方が上手く行くのなら私、お留守番でも良いから。変に持ち上げなくて良いからね?」

「…………⁉︎」


 私がそう言うとセシリアは絶句する。何か言葉を考えてるみたいだけどすぐに出てこないみたいだ。そんな様子を見てルーシーが近寄って来ると突然私の両頬を掌で挟み込んで凄い剣幕で言い始めた。


「……だからマリーはなんでそんな卑屈になってんのよ!」

「え……えと、ルーシー……?」


「王様に聞くなんてお気に入りのマリーにしか出来ないでしょ! 上手く聞けるかどうかに今回の作戦が掛かってるんだからね! 大体この前の式からおかしいよ? なんでそんな卑屈になってんのさ?」


 だけど上手く答えられない。あの日、ベアトリス先輩に言われた事が今もまだ頭の中でぐるぐる回っている。私自身には何の力もなくて結局周囲に助けて貰ったり家の名前で何とかなってるだけ――そんな一言に今も反論出来ないままだ。例えば王様に聞くのだって別に私が聞かなくてもリオンがやれば事足りる筈だ。だってリオンはお気に入りだし私は無理やり持ち上げられてるだけなんじゃないかって考えてしまう。


 そしてそんな処にそれまで無言で私をじっと見つめていたマリエルが近付いて来る。彼女は私の両肩に手を乗せると真剣な顔で尋ねた。


「――ルイちゃんさ。結局何がしたいの?」

「えっ? えと……エミが助かって欲しいと思う。でもその為に私が邪魔ならいない方が良いかな、って……」


 私が恐る恐る答えるとマリエルは首を横に振る。


「そうじゃないでしょ? お姫様を助けたいと思ってるのはルイちゃんで、自分の知らない処で勝手に助かれば良いって思ってないでしょ?」

「……え……そ、それは……そう、だけど……」


「ルイちゃんは分かってないよ。もし私が助けたいって言っても絶対に皆は手伝ってくれない。酷い言い方だけど多分セシリアやルーシーが助けたいって言っても皆動いてくれないと思う。どうしてか分かる?」

「……え……?」


「それはね。ルイちゃんが今まで何度も自分が傷付いて誰かを助けようと頑張ったからだよ。ルイちゃんは誰かを助けたいから手伝ってなんて絶対言わない。貴方はさ、自分が助けたいと思ったら誰かに頼ろうとせずに最後まで頑張っちゃう子なんだよ。皆それを知ってるからルイちゃんが言えば手伝おうとするの。それを疑ってどうするんだよ?」

「…………」


「先輩って人に何を言われたか知らないけどさ。ルイちゃんは公爵家や英雄家の人だから誰かを助けようとするの? 違うでしょ? だったらそんな自分や信じてくれる人を信じてあげなきゃダメでしょ?」

「……それは……」


「私は公爵家とか英雄家の人に助けて貰ったんじゃない。今、目の前にいるルイちゃんに助けて貰ったんだよ。普通、偉い人はそこまでして助けてくれないんだよ。だからルイちゃんは……もっと自分を信じてあげなきゃダメだ!」

「……マリエル……」


「……私さ。その先輩に結構ムカついてるんだよ。その先輩はルイちゃんじゃなくて自分の事を言ってるだけだよ。自分がそうしてきたからルイちゃんも同じだって。ルイちゃんを良く知らない癖にさ?」


 マリエルは本気で怒ってくれている。そんな彼女の声に他の皆も会話を止めて黙り込んでじっと私を見つめている。沢山の向けられる視線は彼女が言った事を肯定する様に真摯で穏やかだ。


 でも……そんな事、私は考えた事も無かった。だって私は誰かを助ける余裕なんてない。自分が死ぬ事から必死に逃げてきただけだ。だから私に言える事なんてこれまでもこれからもたった一つしかない。


「……私は――私がエミを助けたい。だってあの子は私と良く似てるから。自分でどうにも出来なくて苦しんでる。だからそれを理解出来る私があの子を助けたいの」

「……うん」


「だけど……私はその方法を思いつけない。だから皆、あの子を助けたい私を手伝って欲しい。その為なら私、何だってするから……」


 そう言いながら涙が溢れてしまう。でもそれがどう言う気持ちで流れた物なのか自分でも良く分からない。悲しいとか悔しいとか嬉しいって気持ちじゃないのは確かだ。でもそんな風にボロボロ涙を流して酷い顔の私を胸に抱き寄せるとマリエルはスッキリした声で笑った。


「……あー、やっとすっきりした。なんか最近のルイちゃん、ぐだぐだ変な事ばっかり考えてて気持ち悪かったんだよね――大丈夫だよルイちゃん。ルイちゃんがやりたいなら助ける。だって私はそんなルイちゃんに今まで助けて貰ったからね。ルイちゃんは皆を引っ張ってるんじゃないよ。そう思っても踏み出せない皆の背中を押してるんだよ、きっと」


 そう言われて私は何も答えられない。ただ喉から漏れてしまいそうな泣き声を抑えるので精一杯だった。それでもマリエルが言ってくれた言葉は胸の奥で固まっていたしこりを綺麗に溶かしてくれた気がした。


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