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悪役令嬢マリールイーゼは生き延びたい。  作者: いすゞこみち
イースラフト編(17歳〜)
300/337

300 答えのない答え

――結局、精神的にボロボロだった私はリオンに連れられて借りている王妃様の部屋に戻っていた。歩いた記憶もないしどうやって戻って来たのかも憶えていない。クラリスやコレットがいた様な気もするけど全然憶えていなかった。


「――ごめんリゼ。やっぱり一人で行かせるべきじゃなかった」


 やっと朦朧とした意識が少しはっきりしてきた時、ベッドに寝かせられていた私にリオンが後悔した様子で呟く。どうやら少し熱が出ていたみたいだ。だけど気力が保たなくて起きられない。それで諦めて横になったまま私はリオンに答えた。


「……ううん。でも……何も言い返せなかった……」

「それで……何を言われたか、憶えてる?」


「……うん……」


 だけどそう言うものの思い出すだけで胸が苦しくなる。結局私は周囲に迷惑を掛けるばかりで本当に役に立たない。もう私なんていない方が良いのかも知れない。それでも尋ねられるまま答えるとリオンは深いため息を吐いた。


「……そうか。道理でこんなボロボロな訳だよ。だけどあれだ、リゼは考え過ぎる処があるから完全にそこを突かれた形だね」

「……もういいんだよ……私、どうせ嫌われてるから……」


「だから、言われた事をそのまま受け入れてどうするんだよ?」

「……だって……自業自得だし……」


「大体言われた事って一面的な事でそれが全てじゃないだろ? それに敵対的な相手の言葉をなんでバカ正直に信じるのさ? それって何だか勝手に自家中毒を起こして不信感に囚われてるみたいにしか見えない」

「……えっ……?」


「それに完全に意趣返しだろ? リゼの正論が相手を封殺するって言うのならベアトリスが言った事も完全に同じじゃないか。要するに同じ事をやって見せられたんだよ、リゼは」


 そう言われて頭の中でネガティブな思考にブレーキが掛かる。え、一面的? それが全てじゃないって……どう言う事? でも考えようとしても精神的にまだ立ち直れてないのか思考が覚束ない。それで泣きそうになっているとリオンは苦笑して私の額に手を載せた。


「……でもここまでリゼが精神的にやられるとはね。流石王妃になれるだけあってかなりやり手だ。特に色々考える人にとっては天敵だね」

「……え……どう言う事?」


「要するに――ベアトリスは全然答えてないんだよ。リゼが聞いた事に対してまともに答えてない。最後は全部リゼに丸投げしてる。分かり易く言うと色々例を出して最後には『貴方がそう思うんならその通りなんでしょうね。そう、貴方の中ではね』って言った様な物なんだよ」


 ……え、何その煽り文句みたいなの。それで私が目を瞬かせているとリオンは凄く困った様子で苦笑いする。


「だからさ、リゼの解釈でどっちとも取れる言い方なんだよ。どんな判断も出来る言い方をしてる。でもリゼは真面目に考える処があるから精神的に参ったんだ。リゼはそう言う駆け引きは苦手だからね?」


 そう言われて私は沈んでしまう。只今ネガティブキャンペーンを絶賛開催中だ。そんな事言われたら落ち込む以外にないでしょ?


「例えばさ? 貴族は確かに自分より上の相手に言われたら封殺される事もあるけどそれはあくまで一例だよ。大体そういう手法を使う貴族は基本的にダメな貴族だ。良い貴族は耳が痛い事でもちゃんと聞くし検討して改善を試みる。その理屈はリゼが我儘な子だって前提なんだよ」

「……あ、そう言えば確かに……でも私、我儘じゃない自信ない……」


「何言ってんだよ。我儘な子が男爵家や子爵家の子達に請われてダンスの要点を教えたりしないだろ? 実際にそれでリゼはテレーズ先生から講師を頼まれて授業までやってるじゃないか。リゼは我儘なんじゃ無くて面倒臭がりなだけだよ。結局面倒見が良いから断れないけどさ?」

「…………」


 ……何だろう、これ。褒められてるのか貶されてるのか良く分からなくなってきた。だけどさっきより随分気が楽だ。ちょっぴりだけど立ち直れてきた気がする。


「結局、リゼは情報だけ取られた感じだね。ベアトリスの目標も狂った世界を潰すって曖昧過ぎる。確かにリゼが我儘な貴族令嬢なら悪意を向けた理由は説明出来るけど例示が例示になってない。それにシルヴァン達を子犬扱いする理屈も変だ。確かに仲はかなり良い方だとは思うけど『王族が尻尾を振る』って言い方の方がよっぽど失礼だろ?」

「それはまあそうだけど……でも実際、助けて貰うばかりだし……」


「だからリゼも助けてるだろ? だから皆助けてくれるんだよ。口だけで何もしない貴族と違ってリゼは先に助けようとするからさ。でなきゃ皆、あそこまで進んで助けてくれる訳がないだろ?」

「……うーん……でも私、助けた覚えが全然ないんだよね……」


「……いや、助けてるだろ? ルーシーが放校になりそうになった時もリゼがテレーズ先生に掛け合ったし。あれは助けたんじゃないの?」

「……え……だって友達が大変な事になるのって嫌じゃない?」


 だけど私がそう言うとリオンはちょっと嫌そうな顔になった。何かを言いたそうにしながら無理やり飲み込んで深いため息を吐く。そうしてしばらく無言になった後で少し呆れた感じで呟いた。


「……ああ、成程ね。リゼってそういう考え方なんだな」

「え、何よ? 私、何か変な事言った?」


「それを普通『友達を助けたいから助けた』って言うと思うんだけど、まあそれは本人達に聞けばいいよ。兎も角リゼに誰かを助けた自覚が無いってのは良く分かった。その癖自分は助けて貰ってる意識が強いって厄介過ぎるだろ? 変な処で自分に自信が無い感じだ」


 何だか小馬鹿にされてる気もするけどリオンが最後に言った一言はその通りだ。私は誰かを助けられる程強い人間じゃないし助けられる自信だって無い。だから何とかならないか必死で考えてる訳だし。そんなに器用なら人見知りな性格になってない。


 だけど……皆は元気にしてるんだろうか。丁度三年生になる頃に出て移動だけで一月近く掛かったから随分長い事会ってない。それに確か去年の今頃に国境の峠が積雪で通れなくなったと言ってた筈だから下手をすれば私も来年まで帰れない可能性がある。皆いつも騒がしかったけど今はそれが少し懐かしい。ホームシックになってるのかも知れない。


 そんな風に物思いに耽っている処で扉が開く。クラリスとコレットがいて手にはトレイを持っている。どうも熱を出した私に薬や水を準備してきてくれたみたいだ。ベッド脇のサイドテーブルにトレイを載せると二人は心配そうに私の顔を覗き込んでくる。


「――お姉ちゃん、大丈夫ですか? でも熱を出して倒れるだなんてやっぱりまだ馬車での疲れが残ってたのかも知れませんね」

「そうですよお嬢様。そういう時は無理をせずにちゃんと休息なさってください。その……お友達としてもそういうの、やっぱり心配です」


 そしてクラリスがベッドに上がると私の前髪を避けて自分の額を私の額にくっつけてくる。熱を測る時によくするアレだ。だけど何だか私も寂しくなって思わずクラリスの身体に抱き付いてしまった。


「……んー、お熱はもう大丈夫みたいですね。だけどお姉ちゃんは疲れが熱に出易いので――って、何です? 急に抱き付いて?」

「……何でもない。いつも有難うね、クラリス。それにコレットも」


「どうしたのです? 熱が出て甘えん坊さんになっちゃいましたか?」

「……そうかも」


「……何だか素直過ぎてちょっぴり怖いです」

「……おい」


「まあでも……お熱があると寂しくなっちゃいますからね」


 そう言って笑うとクラリスは私の頭を抱いて髪を撫でてくれる。この子って弱ってる時には本当に優しい。お陰で少しだけ気持ちが楽になってくる。しっかり抱き付いて目を閉じているとクラリスは私を寝かしつけるみたいに横にさせると小さく笑う。


「もう少し横になってて下さい。お姉ちゃん、全然食事を摂ってないでしょう? きっとそれで踊ったから疲れが出たのです。スープか何かを貰ってきますからそれをちゃんと食べて下さい。きっと式典が終わる頃にはまたホールに行かなきゃダメですからね?」


 それで私は頷くと大人しく横になる。あんな事があった所為か誰かの優しさや助けて貰える有り難さを凄く感じる。私はもっとちゃんと感謝を表に出さなきゃダメだな。それで少し躊躇いながら口を開いた。


「……クラリスも、コレットも……本当に有難うね」


 私がそう言うと二人は一瞬顔を見合わせてから楽しそうに笑った。


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