03 英雄一族アレクトーの親戚
アレクトー公爵家はグレートリーフ王国では英雄の血筋として有名だ。昔、外国から英雄がやってきて王族の姫君と恋仲になったらしい。そのまま二人は結ばれてこの土地に根を下ろした。その末裔アレクトー家は英雄一族とも言われている。
クローディア叔母様と言うのはその英雄の身内の子孫で隣国に居を構えている。我が家とずっと交流していて時々会いにやってくる。そのお陰でこの国と隣国は今も友好関係が続いているから王家も我が家を雑に扱えない。
そしてクローディア叔母様の家も隣国では公爵家なのは同じ様に隣国の王女が嫁いだ為だ。英雄を数多く輩出する家系を王族は取り込もうとする。そうして帰属意識を持たせて自分達の味方になる様に仕向けるのが政治だ。
顔色が悪い私に「もう少し寝ていなさい」とレオボルトお兄様は言ったけれど私は必死に叔母様にご挨拶したいとお願いした。それで仕方なく私を抱きかかえるとお兄様はすぐに私を応接間まで連れて行ってくれた。
応接間ではお父様とお母様、それにクローディア叔母様がいてお話をしている。だけどお兄様が入室してその胸に私が抱きかかえられているのを見るとお茶を飲んでいた女性――クローディア叔母様は私の元へと駆け寄ってきた。
「――ああ、可愛いルイーゼ! 久しぶりね、身体の具合が悪いって聞いて心配したのよ? 大丈夫なの?」
「叔母様、おひさしぶりです。おげんきでしたか?」
笑顔でそう言うと叔母様はお兄様から私を軽々と抱き上げて嬉しそうに笑う。細腕なのに凄く力持ちだ。
クローディア叔母様は「叔母様」とは言っても実際はまだ若くて二十七歳だ。結婚はしているけど三人の子供は全員男の子ばかりで「こんな女の子が欲しかった」と言って私にとても構ってくれる。はつらつとして可愛い印象が強い。
抱き上げられた私は叔母様の首筋に抱きつく。子供がよくする親愛表現だけど私が身体を離すと今度は叔母様から嬉しそうに頬擦りしてきて思わず私も笑ってしまった。
「――だけどごめんね。ルイーゼの四歳のお誕生日に間に合わなかったわ。だから去年約束した通り、何でも一つだけお願いを聞いてあげる。さあ、私に何をして欲しい?」
「ルイーゼは、叔母様のお家に行きたいです」
「……えっ?」
私が躊躇無く答えると叔母様はお父様とお母様の方を振り返る。叔母様も両親も無言で苦笑していた。
これが叔母様が来たと聞いて私が考えた事だ。叔母様は隣国の公爵家で当然家も隣国にある。つまりここで暮らすよりも遥かに安全だ。
公爵家ほどの高位貴族は家でお茶会やパーティを催す事も多い。そうなると攻略キャラ達がやってきて面識が出来てしまう可能性が高い。特に公爵家なんて王家の次に地位の高い貴族なら王子が訪れてもおかしく無いのだから。
だけどそうは言っても簡単に叔母様の元に行かせて貰える訳がない。公爵家の娘に生まれたと言う事はこれからも多くの催しが待っている。お茶会やパーティも全て顔見せが目的で私の存在を周知させる為に行われる。なのにその義務も果たさず家や国を出る事は常識的に認められない。
だから私としてはいわゆる駄目元。叶わぬ望みを子供の我儘として口にしただけだ。当然認めてはくれないと思っていた――んだけど。
「――そっか。じゃあルイーゼ、私の処に来る?」
「えっ……え、良いのですか?」
「ええ、構わないわよ? 丁度義兄さん達とその話をしていた処だったの。だけどまさかルイーゼが自分からそれを望むとは思っていなかったから少し驚いたわ?」
それで私は両親に視線を向ける。座っていたお父様が叔母様に抱かれた私に近付いてくると頭を優しく撫でる。
「まさかルイーゼが元気になる為に倒れる位無理をすると思っていなかったんだ。ここは王都で環境も余り優しくはない。クローディアが暮らすアレクトーの本家なら周囲は自然に囲まれて静養にも最適な筈だよ?」
そしてお母様が近付いてくると私の頬に触れた。
「……マリールイーゼ、強い身体に産んで上げられなくてごめんなさいね……ルイーゼが望むのならお母様は止めたりしないわ――クローディア、この子の事をお願いね」
辛そうに笑うお母様にそんな事を言われて私は思わず抱きついてしまう。そんな風に私の事を考えてくれていただなんて考えた事が無かった。
結局、私は叔母様が明後日出発する時に一緒に行く事になって、それまでの間はずっとお母様と寝食を共にした。