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悪役令嬢マリールイーゼは生き延びたい。  作者: いすゞこみち
アカデメイア/準生徒編(12歳〜)
28/319

28 負けられない

「――なんで、そんな事に……と言うかあの人は本気で僕と結婚したいと思ってるの? とてもそうは思えないんだけど……」


 あの後、特別寮の部屋に戻って私はリオンに王女と勝負する経緯について話す事になった。流石に私も大分落ち着いて冷静に戻っている。泣きたい気持ちだけど今はそんな場合じゃない。それで私が話した内容を聞いてリオンはそれこそ目が飛び出しそうな勢いで驚いた。だけど彼女が本気だと言う事を私は嫌と言う程理解出来てしまっている。


「……あの人は本気よ。あの人にとって相手が好きかどうかは別にどうでも良いの。あの人が狙ってるのはリオン――英雄一族の本家の子供を取り込めるかどうか、だもの」

「……だとしたらあの人、相当怖い考え方だよ。だって僕ら兄弟の結婚に関してはイースラフト王国陛下の許可が必要なんだから。勿論うちが公爵家って言うのも大きな理由だけど自由に結婚なんて出来ないのが普通だからね」


「そんなの分かってるよ。だけどあの人はきっと婚前交渉でも平気でやる。それで子供さえ出来ちゃえばイースラフトの王様に文句を言われても平気だと思ってる。特に隣国の王族との結婚なら反対し辛いと思うしね?」


 私がそう言うと流石にリオンも顔を赤くする。だけどため息をつくと疲れた様に彼は口を開いた。


「……まあ、ちょっと変だとは思ってたんだ。普通、どんなに仲が良くても年頃の女性が男を抱き寄せたりなんてしない。例えそれが身内だろうとね。なのにあの人は出会った初日に僕を抱き寄せた。あんなのもう、全然普通じゃないからね」


 ああ、それであの時リオンは凄く慌てたんだ。予想もしてない事をされて反応出来なかったのね。だけどそれを聞いて私もちょっと思う事がある。


「……ふぅん。リオンってそう思ったのにあの人から逃げずに素直に抱き寄せられたんだ?」

「そりゃリゼが先に捕まってたもの。僕だけ逃げるより一緒に捕まった方がリゼを守りやすいからね」


「うぐ……そ、そう……つまり、やっぱり私の所為って事、なのよね……」


 だけど呆気なく返されて私はそれ以上何も言えなくなってしまった。それよりもアンジェリン姫との勝負について考えておかないといけない事がまだまだ沢山ある。


「……それで? あの勝負内容を出したって事はリゼは負ける気なんて全くないんだろ?」

「決まってるでしょ。私の所為でリオンの将来を政争の真っ只中に放り込む訳にはいかないもの」


「……あ、そう……」

「それにあの人、私が絶対負けると思ってる。提示された勝負を『遊びみたいな』なんて普通言わない。それだけ私を舐めてる証拠だと思うのよね」


「だけど……あれをやるとリゼ、倒れちゃう事も多かっただろ? 別に僕を代理に立てて勝負しても良かったんだ。なのにどうして自分でやるだなんて言ったんだよ?」

「そりゃあ……リオンがアカデメイアじゃもう誰にも負けないって言っちゃったから、かな? それに英雄本家出身って事も知られてるし、そうなるとあの人は絶対にお父様とお兄様を代理に出すよ?」


「……え。幾らなんでも、そこまではしないだろ……?」

「……あの人なら絶対やる。だって私が王女の立場なら絶対にそうするもん。それに私、家族に愛されてるから娘がリオンに取られるとか言えばきっと二人共、手加減とかしないと思うんだよね……」


「……リゼの家族ってなんか、愛が重い……」

「仕方ないでしょ。身体が弱くて本当にずっと心配してくれてたんだもん。それに本家相手なら分家を出すのが道理だし」


 そう……リオンが本家ならお父様とお兄様は分家だ。だけどいわゆる本家分家で力の差はない。アレクトー家でいう処の本家や分家と言うのは元々所属していた処が本家で外に出て結婚したのが分家と言っているだけだ。大体名を残した英雄自身が結婚した末裔が私の家な訳だし本家分家で分けられない。


 そしてあの時、アンジェリンは私がリオンを勝負の代理に立てる事を先に口にした。と言う事はそれも織り込み済みで考えたって事だ。そうなれば確実にお父様とお兄様を代理に立ててくる。詳しくは知らないけど二人だって英雄の魔法が使える筈だからリオン一人で立ち向かうのはかなり厳しい筈だ。だってお父様もお兄様もこの国でトップクラスに強いんだもの。


 それにアンジェリンは私を小さい子だと思ってる。あの勝負を決めた時だってずっとちゃん付けだった。きっと小さい子が我儘を言って、仕方なくそれに付き合ってやっている大人みたいな考え方に違いない。


「――リオン。私は絶対負けないから。絶対にリオンはあんな人にあげたりなんてしない。リオンは私とずっと一緒にいるんだからね?」


 私がそう言うと何故かリオンは頬を赤くする。


「……そ、そう? それはまあ、嬉しいけど……」

「だから私、全力でやる。勝負の後で倒れちゃうかもしれないけどその時はお願いね。まあリオンや叔母様とあんなに練習したし倒れないのが一番だけど、そんなの言ってられないから」


 そして一ヶ月後の勝負を前に私は固く誓うのだった。


 だけど恐ろしい事にその後もアンジェリンの態度はこれまでと全く同じままで一切変わらなかった。これってきっと余裕とか言うんじゃなくて本当に自分のやる事が国の為になると信じてるんだろうな。


 でも……だからこそ私は、絶対に負ける訳にはいかない。


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