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悪役令嬢マリールイーゼは生き延びたい。  作者: いすゞこみち
アカデメイア/正規生編(15歳〜)
222/368

222 シルヴァンと私

 お母様と一緒にボロ泣きしてからすぐ私は二年生になった。それとほぼ同時期からシルヴァンが私の部屋に頻繁に来る様になった。どうやら彼なりに私の事を心配したみたいで最初は物凄い勢いで駆け込んできた。お姉ちゃんや王様から私が泣いた事も知られていて最初は変に優しくされて物凄くやり難くて困る事になったけど。


 だけど今までリオンの部屋に通い詰めだったのに最近は全然訪れてないみたいだ。この処は直接私の部屋にやって来ているらしい。それが少し不思議な感じがしてある日思い切って尋ねてみた。


「――そう言えばシルヴァン、最近はリオンの部屋に行ってないの?」

「ん? そうだなあ。最近のリオンって凄くピリピリしてるんだよ」


「ピリピリ? そんなに機嫌が悪いの、リオン?」

「いやあ、機嫌が悪いって言うか思い詰めてる感じかな。けど何があったのか聞いても笑って誤魔化すんだよ。もしかしたらマリーが死に掛けた事が余程堪えたんじゃないかって思ったんだけど……あ、当然僕だって相当心配したんだからな? 約束だから他の皆には言ってないけどさ」


 それで思い出す。そう言えばお母様達が飛び込んできた時、リオンは自分の部屋にいた筈だ。叔母様やジョナサン、エドガーもいるのに何か用事があるって言って。叔母様やジョナサン達から大体の話はもう聞いてると言ってたから余り気にしなかったけどいつものリオンなら絶対に同席している筈なのにちょっと変だった。


 でもあの時、リオンが『もう力を使うな』って言ったのに約束出来ないって返しちゃったんだよね。だって実際私は自分の英雄魔法をそれ程自由に使いこなせてないし。今の処意識して使えるのは紫の炎だけで赤と青の炎は勝手に発動してしまう。どちらも誰かに触れた時にしか使えないのかと思っていたけどあの時は誰にも触れていなかった筈だ。


 うーん……だけど私の魔法の基準がいまいち分からない。紫の炎は今とすぐ直近の未来で今より二歩三歩先を知る事が出来る。鬼ごっこで捕まらずにいられるのはこの効果のお陰だ。唯一これだけは能動的に使える。


 だけど青と赤の炎については不明な点も多い。体感として青い炎は自分がいない未来の光景が見える。これはジェシカ・ゴーティエに関する未来についてセシルと触れた時に発動した。


 赤い炎はコレットに触れた時が初めてで多分自分がいる未来の光景が見えるんじゃないかと思う。だけど発動しそうな時に強制終了されたみたいに終わってしまったからはっきり断言出来ない。


「……だけどそっか。シルヴァン、リオンと顔を合わせるのが気不味くて私の部屋に来てるのね。まあ親戚だし別に構わないけどさ?」

「な、ち、違うぞ! 別にそんな事は……」


「じゃあなんで目を逸らすのよ?」

「いや、まあ……心配してるのは本当だよ。それも誰かにやられたんじゃなくて英雄の魔法を使った所為なんだろ? 特に姉上には相当堪えたみたいでさ。マリーの事情は分かってるけど自重した方が良いと思うよ?」


「ふぅん……そうなんだ。まあ、有難う」

「それに親戚だけどマリーの事は僕も好きだしね。リオンがいなかったら本当に惚れてたんじゃないかな。王家と公爵家の子供が結婚すると権力が分散しないから割とよくある事らしいんだよね」


 そう言われて私は思わず押し黙ってしまった。考えてみたらシルヴァンは元々攻略対象の一人で本来なら元平民で主人公のマリエルと悪役令嬢の私の間をうろちょろ――まあ表現は悪いけどそうしてマリエルに心移りする役回りだったんじゃないだろうか。特に攻略対象の中で唯一王族でトップクラスの存在だし。そうなるとシルヴァンが世間知らずで常識を余り知らないのもマリエルと触れ合う事で色々成長する筈だったのかも。


 だけど残念ながらここは私が生き延びようとする世界だ。悪役令嬢らしい悪い事も多分殆どやってない。しがらみややっかみも人間関係から生まれる物だし他人との付き合いを極力避けてる今の私は生徒達の間でもほぼノーマーク状態だと思う。消極的な方法だけどかなり効果的な筈だ。


 そしてリオンと婚約した私は恋愛ルートから完全に離脱した筈だ。他の異性が近付けなくなる最大障壁で乙女ゲーム必須の恋愛ルート自体が成立しなくなる。でも逆にその所為で攻略対象達が成長する機会もなぎ倒してしまっている。本来一番近い存在だった筈のシルヴァンもあくまで親戚で比較的接し易い身内の異性にしかなっていない。多分バスティアンやヒューゴも同じで私と接点はあったものの今はルーシーとセシリアが婚約者として彼らの隣にいる。


 マティスなんて性別と家族構成まで変化してるしセシルだって年上なのに後輩みたいだ。レイモンドも私じゃなくてコレットに関心があるみたいだし……と言うか私が恋愛から逃げた所為で主人公のマリエルも完全に恋愛ルートから外れちゃってる気がする。何か申し訳ない気持ちになるね。


 だけどシルヴァンに言われて黙る私を見ていたクラリスが少し呆れた顔でボソリと呟いた。


「……だからシルヴァンお兄ちゃんはダメなんですよ」

「えっ⁉︎ え、クラリス、僕の何処がダメなんだよ⁉︎」


「だから、そう言う処がですよ」

「そ、そう言う処ってどう言う処だよ⁉︎」


 そのやり取りを聞いて私は思わず笑ってしまう。クラリスってある程度心を許した相手には『お兄ちゃん』『お姉ちゃん』って呼び方をする処があるんだよね。様付けで呼んだり『お兄さん』『お姉さん』って呼ぶ時はまだそれ程心を許してないから余計な事も言わないし黙って聞いているだけの事が多い。シルヴァンをお兄ちゃんと呼ぶと言う事はそれなりに信用されて頼られてるのにシルヴァン本人はそれに全く気付いていない。


「んーまあそうだよね。シルヴァンはそう言う処がダメだと私も思うよ」

「え、えー⁉︎ 何だよマリーまで、僕の何処がダメなのさ⁉︎」


「具体的に言うと……シルヴァンって常識がないよね。普通、婚約してる女子に『実は好きでした』って告白は絶対しないよ? 王家の人間にそんな事を言われたら私以外の子は超困るだろうし。なんかシルヴァンって時々ポロッと余計で非常識な事を言ってトラブルを作る処があるよねえ」


 だけど私がそう言うとシルヴァンは黙り込む。少し恨みがましい目で私をみるとボソッと拗ねたみたいに口を開いた。


「……何だよ、これでも僕、マリーよりは常識があると思うけどな……」


 それを聞いて私はクラリスと顔を見合わせる。


「……私、なんでアンジェリンお姉ちゃんがシルヴァンに厳しく当たるのかを理解したよ。うん、軽くイラッとしたしこれは厳しく教育しなきゃダメだわ。そうしないと絶対に国が滅ぶもん……」

「……シルヴァンお兄ちゃんはもう少し常識を持ってください……」


「なっ……姉上が僕に厳しくする理由について詳しく!」


「えー……言われて最初に聞くのがそれなの?」

「……そう言う処が言われる原因だと気付いて下さい……」


 うん、ダメだこれ。シルヴァンって悪い人じゃないんだけどな。もうこの際だしレミみたいな小さい子に言い聞かせるつもりで言った方が良いかも知れない。私の所為で成長する機会を失った訳だしちょっとした罪悪感も無い訳じゃない。それで私は出来る限り穏やかな声音で優しく言った。


「……ねえシルヴァン? 取り敢えず今度から平民の常識や考え方、習慣を色々勉強してみて? それと女の子が何を言われたら怒るのか考えた方が良いかも。それと思った事をすぐ言葉にして言わない方が良いよ?」

「……え、何だよいきなり。それが姉上が厳しい理由と関係あるのか?」


「……これが関係ないと思う時点でダメなんだよ。シルヴァンは本当は賢い出来る子だって私は信じてる。だから頑張るんだよ?」

「……なんだろう。凄くバカにされてる気がする……」


「そんな事ないよ? ほら、シルヴァンは出来る子! ちゃんと上手く出来たら褒めてあげるからね?」


 だけど私が笑顔でそう言うと素の顔になったクラリスが呟いた。


「……お姉ちゃん……」

「うん、何、クラリス?」


「……お姉ちゃんが猫撫で声でそう言う事言うと、何だかいつもと違い過ぎて逆に怖いです。何か裏がある様にしか見えません……」

「え、クラリスはどっちの味方なの?」


「私は間違ってない人の味方です」

「…………」


 そこで思わず黙り込んでしまったのが悪かったらしい。やっと気付いたシルヴァンは涙目になってキッチンの扉へ駆け出す。


「ま……マリーの性悪令嬢! いじめっ子! やっぱりバカにしてるじゃないか!」

「えー……いじめっ子って……だって『お前より自分の方が常識があってマシ』なんて言われてイラッとしない筈ないじゃん? それにアンジェリンお姉ちゃんが厳しい事言ってるんだから優しい感じで言ってあげただけでしょ?」


「……お姉ちゃん、言い方が優しいだけで厳しければ意味ないんじゃ?」

「だからクラリスはどっちの味方なのよ⁉︎ クラリスだってシルヴァンに色々言ってたじゃん!」


「それは無遠慮な処を直した方が良いと思ったからです。でもお姉ちゃんはシルヴァンお兄ちゃんをちょっと弄るつもりでしたよね?」


 おう、ばれてーら。でもこれ位やり返して良いと思うんだよ。シルヴァンって良くも悪くも遠慮がないからきっちりその場で言い返しておかないと後でその事を言い出す事もあるし。だけど初めて会った時は王家らしい言動だったのに随分砕けたのはリオンと付き合う様になってからかも。


 だけど私はシルヴァンを嫌ってはいない。仲が良い親戚だからこう言うやり取りをしてる訳だし、実際こうして部屋に来て歩くリハビリを手助けしてくれたりする。ちょっと捻くれてるとは思うけど親戚で仲の良い男の子にこうして甘えているだけだ。まあシルヴァンもわざとそう振る舞ってる節もあるしね。真面目なリオン相手だと流石にこうはいかない。


 そうして少しするとキッチンの向こう側から大きな声が聞こえてくる。一体何かと思えばシルヴァンの声だ。どうやら私を呼んでいるみたいに聞こえる。それでクラリスと一緒にリオンの部屋に行くと取っ組み合いをする二人の姿が見えて、少し驚く事になった。


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