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悪役令嬢マリールイーゼは生き延びたい。  作者: いすゞこみち
アカデメイア/正規生編(15歳〜)
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218 記憶の混乱

 私は薄暗い中で瞼を開いた。全身の皮膚がヒリヒリと痛む。身体を動かそうとしても動かない。だけど誰かが手を掴んでいるのだけ分かる。不思議とその手から温かい熱が伝わってくるのを感じて私は視線だけ向けた。


 ああ、叔母様だ。叔母様が私の手を掴んでいてくれる。もしかして私、また倒れちゃったのかな。折角叔母様のおうちに来たのに、いつも倒れてばっかりだ。こんなんじゃお母さまのところに、まだまだかえれない。


 もっと、もっと、がんばらないと――そうおもいながら、わたしはてをつないでくれるおばさまのてを、にぎりかえす。だけどちからがぜんぜんはいらない。でもうつむいていたおばさまは、ゆっくりかおをあげた。


「――ルイーゼ? 大丈夫?」


 ああ、やっぱりおばさまだ。おばさまはいつも、わたしがたおれると、てをつないでくれる。それでこえをだそうとするけど、でない。


 そんなわたしをみて、おばさまは、ぬのにみずをひたして、わたしのくちもとにあてた。


「……良い? 一気に飲んじゃダメよ? 口に入れるだけ。そこで少しずつ口の中を濡らすつもりで一滴ずつ飲みなさい」


 そういわれてわたしはまばたきすると、ぬのをくちびるでくわえる。いわれたとおり、すこしずつ、くちのなかにみずをふくんでいく。


……あれ? そういえば前にもこんな事があった気がする。あれっていつだっけ? たしかダンスでリオンやジョナサン、エドガーに捕まらない様に踊った時だっけ? ってあれ?


「……おば、ざば……」

「ルイーゼ、今は無理に声を出さない様にしなさい」


「……おじざば、や、りおん、は、どう、じてる、の……?」

「叔父様って……アーサーの事?」


「……う、ん……」

「そりゃあ……家にいるけど……」


「……はやぐ、おがあざば、の、どごろに、がえり、だい、な……」

「……ルイーゼ……あなた、まさか……」


 わたしがそういうと、おばさまはくちびるをかんで、つらそうなかおにかわる。だけどすぐ、わたしをあんしんさせるみたいに、わらった。


「……大丈夫よ。まだ身体が辛いでしょう? 今はゆっくり休みなさい。また明日、起きてから色々考えましょうね?」


 それでわたしはうなずこうとする。だけどうごかない。それでなんとかちいさく『うん』というと、おばさまはむかしみたいに、ほほえんだ。


 なにも、かんがえられない。からだがつらくて、それいがいを、かんがえられない。だけど――あれ? 『むかしみたい』、に? 


 だけどけっきょく、わたしはそのまま、ねてしまった。



 つぎのひ。わたしはめをさました。

 きのうおきたのは、よるだったらしい。

 でもいまは、まどのそとがまぶしい。


 きのうより、ちょっぴり、からだがらくだ。

 それでとびらがひらくおとがきこえて、わたしはしせんをむけた。


 そこにはおとなのおにいさんがたっている。

 じょなさんより、もっととしうえにみえる。


 だけどへんだ。わたしはこのおにいさんを、しっている。


「――リゼ」


 おにいさんがわたしをそうよぶ。だけどそれはりおんがわたしをよぶときにしかいわないなまえだ。それでかんがえていると、そのおにいさんがいまにもなきそうなかおで、いった。


「……ごめん、リゼ……僕はまた、守れなかった……」

「……え……」


「……昔、守ってあげるって約束したのに……」


 守ってあげるって、約束――その瞬間、眠っている間に見た夢が逆回しに頭の中に浮かび上がる。逆回しというか、幼い頃から今までにあった思い出が順番に再生されていくみたいだ。情報が多過ぎて頭が追いつかない。頭が少し痛い。あれ、私って今何歳だっけ? 何だか凄く長い間夢を見ていた様な気がする。


「――ッ、リオン……だよね? ごめん……私、ちょっと……混乱、してる……」

「……えっ?」


「……私、また倒れたんだよね? え、でも……なんで?」

「な、なんでって……リゼ、全然覚えてないの?」


「……ごめん、ちょっと今……頭の中が、ぐちゃぐちゃで……」


 だけどそこで扉から叔母様が入ってくる。私とリオンの様子を見て叔母様は本当に胸を撫で下ろすと深くため息をついた。


「――リオン。今はルイーゼを休ませてあげなさい」

「え、でも母さん!」


「今慌てても仕方ないでしょ? それにまだ体力が回復してないんだから今は眠って頭の中を整理しなきゃダメなのよ。ちょっと錯乱して記憶が幼児退行してたし。あんたに会わせたのはショック療法みたいなものよ?」

「けど! リゼは本当にもう大丈夫なのかよ⁉︎」


「大丈夫よ。それにあんたの顔を見て思い出したんだから、その事を素直に喜びなさい。だけど随分久しぶりだったわ。昔はよくルイーゼにしてあげてたけど、まさかこんな事になるなんてね」


 そう言って叔母様は私の目元に手のひらを乗せる。周囲が見えなくなった暗闇の中で叔母様の優しい声だけが聞こえる。


「……だけどルイーゼ、本当に良かった。記憶障害が出たかと思ったけど大丈夫ね。かなり肝が冷えたわ……」

「……え……?」


「今は考えずに眠りなさい。凄く混乱してるのは分かるけどそれも眠れば落ち着く筈よ? とにかく今は体力を回復させないと不味いからね? だから無理に考えずに体調が戻るまで大人しく寝てなさい」


 そう言われて私はうとうととし始める。そういえば叔母様の家にいた頃もこんな風に言われてよく眠ってた気がする。どこか懐かしさを感じながら私はそのまま眠りについてしまった。


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