表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢マリールイーゼは生き延びたい。  作者: いすゞこみち
アカデメイア/正規生編(15歳〜)
201/315

201 束の間の休息

 監視者事件が収まってしばらくした後、私の部屋でお泊まり会をする事になった。いわゆる女子会という奴で知り合った同学年の皆とクラリスがいる。但しコレットだけは実家に帰っている為にいない。色々な事件があってからご両親にちゃんと報告出来ていなかったからその為にアカデメイアが正式に許可を出した形だ。


 そして私達女子が集まっている――と言う事は男子は男子で隣のリオンの部屋に集まって同じく男子会をしている筈だ。多分リオンがお茶やお菓子を準備しているんだろう。そんな事を考えながらお茶とお菓子を食べていると不意にマティスが意外そうな顔で言った。


「――だけどルイーゼさんって思ったより大人しいのね。あの時の様子を見る限り、もっとグイグイ来る人なんだと思ってたわ?」

「え? グイグイ、って?」


「だってほら、あの時はもっとはっきり言ってたし。こう、物怖じせずに言う事はズバリ言う、みたいな? だけど今日は凄く普通に静かだし余り自分から何も言わないから。ちょっと意外だなあって思ってたの」


 あの時――ああ、牢屋のジェシカ先輩の時か。あの時は私もちょっと怒ってたし言う事を言わないと気が済まなかったからなあ。だけどそんな処でセシリアとルーシーが口を挟む。


「ん? マリーって実はかなり大人しいよ? ねえ、ルーシー?」

「うん、マリーは必要な時以外は大抵黙ってるよ? でも大人しいって言うより様子を伺ってるって方が近いかも? 大抵何か考えてるしね」


 私ってそんな風に見えてるんだ……だけど伺ってるって何か企んでるみたいじゃん。考えてはいるけど企んではいないんだけどなあ。そしてそんな話をしているとキッチンから戻ってきたクラリスが首を傾げる。


「……お茶のジャムを取ってきました。何のお話をされてるんです?」

「ああ、クラリス。マリーがいつも何か企んでる様に見えるって話よ」


 ちょっと待てやルーシー、私が企んでるって言ってるじゃん! だけど私が唇を尖らせているとそれを見たクラリスが苦笑した。それでルーシーが不思議そうに首を傾げる。


「……そう言えばお隣でお兄ちゃん達が話してましたよ?」

「ん? 何を?」


「さっき聞こえてきたのはそれぞれ婚約者をどう思ってるのか、みたいな感じでしたけど。さっきはレイモンドさんが好きな人に付いて色々と尋問みたいになってましたね」


 だけどその瞬間、部屋にいる私以外の全員が目を光らせた。


「――それは是非とも聞かないと、セシリア!」

「……え、えー? そりゃ興味はあるけど……」


「ぴきーん! これはルイちゃんもリオンくんの本音聞かないとね!」

「……えー? んー私は別にいいよ、マリエル……」


「ちょっと何言ってるのよルイーゼさん! そう言うのは聞き耳を立てておかないと後になって後悔するのよ⁉︎」


 マティスまで妙にやる気になっている。何と言うか女の子だけで集まっているとこう言う時の団結力が凄くて微妙についていけない。結局無理矢理手を引っ張られて全員がキッチンへと移動する事になった。


 キッチンはそれ程広くはないけどじっとしていれば六人位なら居られるスペースがある。元々調理する為の部屋だし荷物をどければ余裕だ。そして全員が無言でいると隣のリオンの部屋から話し声が聞こえる。そう言えば前にキッチンの声は丸聞こえだってリオンが言ってたっけ。それで聞き耳を立てていると男子のやり取りが聞こえてきた。


『――だけど君ら、この後彼女らとどうするつもりなんだ? ヒューゴも将来の事はもう考えてるんだろ? セシリアとどんな感じなんだよ?』


 この声はシルヴァンだ。どうやらレイモンドへの追及が終わった後らしく次の話題に移る処だったらしい。そしてシルヴァンの質問から少し間を置いた後でヒューゴの声が聞こえてくる。


『――どうするも何も、ここを卒業したらリアとは結婚だな。親達は早く孫を見たいとせっついて来ているしな。アカデメイアにいる間に子供を作れとバカな事も言ってくる。勿論そんな訳にもいかんのだがな?』


 そんなヒューゴの言葉の直後に全員が『おー』と歓声を上げるのが聞こえてきた。だけどシルヴァンが慌てた様子で続ける。


『――そ、そう言う生々しいのじゃなくて! ヒューゴは彼女とそう言う事をしたいとか思ってるのか? どうもそう見えないんだよな』

『――む? 殿下は俺を何だと思っている? 俺も健全な男だからそう言う欲求は当然あるぞ? 何よりリアは良い女だしな」


 そんな言葉が聞こえてきて不意にすぐ傍で誰かが床に崩れ落ちるのが見えた。一体誰かと思ったらセシリアで顔を押さえて悶絶していた。それを見てルーシーが厭らしい顔で耳元で囁く。


「……ふっ……どうしたんだ、リア?」

「…………⁉︎」


「……いやあ……シルちゃん、ヒューゴにリアって呼ばれてるんだ……」

「……うう……やめて……は、恥ずか死ぬ……」


 だけどその後にもヒューゴの声が続く。


『――それにあいつはもし、俺が居なくなってもちゃんと家と子を守ってくれる筈だ。勿論消えるつもりはないがそう言う心配は一切していない』


 だけどそれを聞いてルーシーの表情が曇った。セシリアも悶える事を忘れて真剣な顔で何か考えている。マティスも真面目な顔で物思いに耽る表情だ。マリエルだけはピンとこないみたいで目を瞬かせている。


 ヒューゴもセシリアも辺境伯家の子供で、国境守護の家だ。隣国はイースラフトだけど何も襲ってくるのは隣国とは限らない。国境付近には大森林や荒野で暮らす(まつ)ろわぬ民もいる。王家に従わず襲ってくる人達だっているのだ。今の王様はそう言う人達相手でも話し合って解決しようとしてるらしいけど相手が応じず暴力で解決しようとする事も多い。


 普段からそんな環境で育ったヒューゴやセシリアはそれで命を落とす事があると知ってる。そんな中での恋愛は覚悟も必要なんだろう。色恋で恥ずかしいと言えるのはそれが平和な場所だからだ。戦いがある土地で暮らす人にとって恋愛も命懸けの覚悟が要るから只の猥談にはならない。


 そうして全員が黙っていると今度はヒューゴが尋ねる声が聞こえた。


『――それはそうと、バスティアンこそどうなんだ? ルーシー嬢と一体どんな交際をしているんだ? 俺としてはそちらの方が聞きたいんだが』

『――え、ぼ、僕とルーシーですか? と言うか意外ですね、ヒューゴがそんな話を聞いてくるなんて』


『――そりゃあな? 他の奴が婚約者を相手にどんな付き合いをしてるのか俺も興味がある。俺はこんなだから恐らく女性に優しくないだろう?』


 ヒューゴの声はやけに明るい。きっと重くなった空気を何とかしようとしてわざとそんな尋ね方をしたんだと思う。それを察したのかバスティアンも変に明るい様子で答える声が聞こえてきた。


『――そうですね、ルーシーは積極的ですけど恥ずかしがり屋なので結局何かあるって事はないですね。手を繋ごうとして腕がうろうろしてるのを見て僕から繋ぐと顔を真っ赤にします。あれは本当に可愛いですよ?』


 今度はそれを聞いたルーシーがもじもじし始める。何処か嬉しそうに見えるのはきっと気の所為じゃない。多分自分の『好き』を弄られるのがちょっと嬉しいんだろうなあ。ルーシーもセシリアもそんな感じ。


 だけどそんな処でまたシルヴァンの声が聞こえてくる。


『――そう言えばさ、リオン。マリーって君と二人きりの時はどんな感じなんだ?』

『――うん? 僕と二人の時のリゼ?』


『――なんか想像出来ないんだよな。マリーって凄くズバズバ言いそうだし言葉も強い印象が強いんだけど。普段はどんな感じなんだ?』


 そんなシルヴァンの言葉に賛同するみたいに他の男子達が小さく声を上げる。それは否定というより賛同に近い感じだ。それで黙って聞いていた私は少し凹んで俯いてしまう。別に私、そんな強い事は言ってないと思うんだけどな。そんな風に皆に思われてるんだろうか。


『――普通だよ。と言うかリゼは別に強気じゃないしズバズバ思った事も言わない。むしろ怖がりだし気も弱いよ。自分が言った事を後悔する事もよくあるし、自分が間違ってたんじゃないかっていつも悩んでるよ?』


 でもリオンのそんな言葉が聞こえた。それで顔を上げると更に彼の言葉が続く。


『――皆が見てるリゼは大抵誰かの為に頑張ってる時なんだよ。そう言う時はリゼも無理をしてる。もう皆も知ってるだろうけどリゼはアカデメイアにいる間に死ぬ未来を見てる。だから本当は他の事に気を配る余裕なんて無い筈なんだ。この前も庭園で犯人を捕まえたけど、あれも皆が辛そうにしてたから捕まえて終わらせなきゃダメだって思ってたみたいだよ?』


 リオンの言葉に何も言えない。何て言うか嬉しいというよりも救われた気分になる。何も言ってないのにリオンは私の事をちゃんと分かってくれている。そうか、だから無茶するなってあの時あんなに怒ったんだ。


 そしてルーシーとセシリアは私の顔をじっと見つめたかと思うといきなり無言で抱きついて来た。そのまま髪を撫でられる。それで反応出来ずに戸惑っていると傍らで見ていたマティスが笑って呟いた。


「……そっか。だからルイーゼさんの周囲には人が集まるのね」

「……えっ?」


「だって……自分より友達の為に一生懸命になれる人だもの」

「……え、あ、いや、そう言う訳じゃ……」


 頬が熱くなる。何これ、なんか物凄く恥ずかしいんだけど。それで首を竦めているとマリエルも抱きついてきて嬉しそうに笑う。


「そうだよ、マティちゃん。私もルイちゃんに助けて貰ったの。ここに入学する前にね。前に話した事、あったよね?」

「ええ、覚えてるわ。それに私やセシルの事も守ろうとしてくれてたって聞いたわ。あのジェシカって人に私もセシルも殺される筈だったって」


 私は思わず俯いてしまう。皆の顔を見られない。気恥ずかしい? 照れ臭い? こんな時、私はどう反応すれば良いか分からない。それで視線を泳がせているとクラリスが楽しそうに笑って耳打ちしてくる。


「――お姉ちゃん。それは『嬉しい』んですよ」


 それでやっと理解する。そうか、私は嬉しいのか。こんな風に友達に囲まれて過ごせる未来なんて昔は考えられなかった。私には一番無縁だと思っていた物が今、ここにある。そう思うと涙が出そうな位嬉しい。それで目を閉じて感慨深く噛み締めていると不意に扉が薄く開かれた。


「……これで満足だろ? 余り盗み聞きは良く無いよ?」

「……え、り、リオン……な、なんで?」


「……扉の隙間から影がチラチラ動いてたし。だけどまさか女の子全員が集まって盗み聞きしてたとは思わなかったよ」


 それを聞いてその場にいた女子全員の顔が青褪める。いや……これは流石に言い訳出来ねえ……どうすんのコレ?


 だけどリオンはそれ以上何も言わずキッチンに入ってくるとお茶を淹れ始める。それを全員で黙って見つめていると彼は苦笑した。


「……お茶を淹れに行くって抜けてきただけだよ。取り敢えず皆には黙っておいて上げるからさ。あんまりこう言う事はしない様にね?」


 それで皆はスゴスゴと私の部屋に戻っていく。最後に私は立ち止まるとリオンを振り返った。


「……リオン。色々ありがとうね?」

「いや、どういたしまして」


「それとその……これからもよろしくね?」


 私がそう言うとリオンはキョトンとした顔に変わる。だけど私の顔をじっと見つめると彼は少しだけ嬉しそうに微笑んだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ