表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢マリールイーゼは生き延びたい。  作者: いすゞこみち
アカデメイア/正規生編(15歳〜)
194/321

194 気休め

「――あの、マリールイーゼ様……ちょっとご相談したい事が……」


 マリエルの深夜訪問から数日後、今度はコレットがやってきた。勿論常識のある普通の彼女は日中だ。丁度クラリスがいてお茶を出してくれる。


「それで? 相談って何かな?」

「あの……その、ええと……実は、殿方から告白されてしまって……」


「……もしかしてレイモンド?」

「ええっ⁉︎ どうしてお分かりになるんですか⁉︎」


 ……またかー。と言うかなんで皆、恋愛相談を私に持ってくるの? そりゃあ確かに婚約したのは私が最初だったけどさ? でも婚約したからと言って別に恋愛マスターじゃないし、むしろ教えて欲しい位なのに。


 まあコレットは真面目な本当の優等生タイプだし生々しい事は言ってはこないだろう。そう思って彼女の言葉を待っていると――


「……その、私は公爵家にご奉公が決まってますしどうお答えすれば良いか分からなくて。それでご相談に乗って戴きたいんです……」


 あちゃー……他人の恋愛事だと思ってたら無関係じゃなかった。と言うか思い切りうちの所為じゃない、これ。お父様どうすんの?


 と言ってもお父様相手にこんな相談、コレットに出来る筈がない。同い年だから私を頼ってくれたんだろうなあ。となれば私に言えるのは一つ。


「……うちの事は気にしなくていいと思うけど。だってほら、お勤めに出る人も普通に結婚するらしいし。何ならお父様に言ってあげようか?」


 だけど私がそう口にした途端、いきなり肩をトントンと叩かれる。それで振り返るとクラリスが凄く怖い笑顔で首を横に振っている。思わず固まっているとコレットに向かってクラリスが明るい調子で尋ねた。


「それより……コレット様はどう思っていらっしゃるんです? 悩んでいると言う事は嫌だと思ってないって事なのですよね?」

「え……あ、あの……は、はい……」


 クラリスが尋ねた途端コレットは顔を赤くして俯いてしまう。流石クラリス、十一歳なのに十五歳の私より遥かに恋愛マスターだ。と言うかもうこの際、私よりクラリスに相談した方が早いんじゃないかなあ……そんな事を思っているとクラリスに滅茶苦茶睨まれた。クラリスさん超怖い。


 だけどコレットにとって公爵家にお勤めするのは実はそれだけで破格の待遇だ。元々うちは余り侍女を雇わない。と言うのも家族全員が自分で何でもやってしまうから。魔法が使えない中で普通に家事をこなすのは結構大変な事で普通の侍女だと役に立たない。だからこそ高位貴族なのに侍女がいないと言う貴族なのに珍しい状況になっている。


 当然、公爵家にお勤めすればそれだけで箔が付く。魔法無しで一流の仕事がこなせると認められた様な物だ。分かり易く言えばテレーズ先生なら例え王宮でも喜んで受け入れられるのと同じだ。多分テレーズ先生は王家の人間を平気で叱れる数少ない一人だ。まあ私の周りだとお母様とか案外多いんだけど、コレットはその一人になる可能性が高い。これって多分、女性にとってはトップクラスの栄誉でコレットが悩むのもその為だろう。


「……お勤めと好きな殿方と結ばれるのは別ですよ? どちらを選ぶと言う物じゃありません。ですからコレット様も一度落ち着いて、その殿方をどう思っているのかゆっくり考えてみるのは如何でしょうか?」


 クラリスがニコニコ笑顔でそう言うとやっとコレットは顔を上げた。


「……有難うございます、マリールイーゼ様、クラリスさん。私もう一度ちゃんと考えてみますね。あの、出来たらこの事は……」

「はい、大丈夫です。お姉ちゃんも私も人に言ったりしません」


 そしてコレットは何度も頭を下げて部屋を出ていく。だけど彼女の姿が見えなくなるとクラリスがキッチンの扉に向かって声を掛けた。


「――リオンお兄ちゃん、これで良かったです?」


 その声と同時に扉が開かれてリオンが現れた。どうやら話を聞いていたみたいで苦笑している。


「うん、流石クラリス。だけどいきなり過ぎて少し焦ったよ」

「いいえ、大丈夫です。だけど――お姉ちゃん、恋愛の相談をされて放り投げるのはよくないですよ?」


「……えっ? え、別に私、放り投げたりはしてないと思うんだけど?」

「えとですね。コレットお姉さんは問題無いと言って欲しかった訳じゃあありません。自分の気持ちが分からなくて不安だっただけなのですよ」


「え、そうなの?」

「そうですよ?」


「でもそれって、クラリスみたいに魔眼が無いと分からないんじゃ?」

「こんなの魔眼を使うまでも無いのです。お姉ちゃんも女の子なんですから、そう言うのは理解しなきゃですよ? でないとお兄ちゃんがちょっと可哀想だと思います。時々頑張って色々アピールしてるのに――」


「ちょ、ちょっと待ってクラリス! それ以上は言わなくていい! リゼに変な事教えなくて良いから!」

「え、そうなのですか?」


 キョトンとして首を傾げるクラリス。リオンは必死になって何とか止めると疲れ果てた様子でため息をついた。と言うか私、二人から一体どんな風に思われてるんだろう。そして少ししてリオンが口を開いた。


「……だけどまさか話してすぐ告白するとは思ってなかったよ。レイモンドはヒューゴとよく似てる。特に今は不安があるからだろうね。皆今回の話には興味があるみたいだったよ」

「……え、不安って?」


「そりゃあ……監視者とか気の休まる暇がないだろ? だからホッと出来る話を皆求めてるんじゃないかな。セシリアとルーシーも一緒だったけど応援するとか色々言ってたしね」


 そう言われて私はハッとした。ああそっか、それでこの状況なのに皆恋愛話に花を咲かせてるんだ。そんな話でもしていないと疲れてしまう。私はリオンにそう言われるまで全く気付いてなかったのだ。


 私は小さい頃からずっと大変な状態のまま今も続いている。緊張状態が慢性化してしまっている。以前一度一杯一杯になりかけた事もあったけど今は割と平気だ。平気というか……そうじゃないとやっていけないから普通に過ごすしか無いんだけど。


「……だけど……そっかあ。だから皆、こんな時でも他人の恋愛話とかを聞いてほっこりしたいんだね。私、そんなの考えてなかったよ……」

「……ほっこりって……まあ、休憩したいってのはあるだろうね」


「でも……リオンやクラリスは大丈夫? 疲れたりしてない?」


 私がそう尋ねるとリオンとクラリスは顔を見合わせる。


「僕は特には。ずっとリゼと一緒で慣れてるから、なのかな?」

「私も平気ですよ? だって魔眼で心の声とか聞こえてますし。それに比べたら別に大変っていう程じゃありませんね」


「ああ、そう言われると僕も似た感じかも知れない。確かに相手の感情がずっと伝わってきてた頃に比べると全然大した事じゃないな」


「……そっか。なら良いんだけど……」


 どうやら二人は全然平気らしい。だけどそれで安心して笑うと二人はそれぞれ複雑そうな顔に変わった。


「……それより私はお姉ちゃんが下手な事を口走る方が慌てますし疲れますよ?」

「あー……そうだね。リゼが何をやらかすかの方が大変な気はする」


「え……ちょ、二人とも酷くない? と言うかさ、私は恋愛とか全然ダメだって言ってるのに何でそんな話ばっかりされるの? ルーシーやセシリアの時もそうだったし! その後も恋愛絡みのトラブルばっかり起きてる気がするんだけど! これってリオンとずっと一緒にいる所為?」


「……いや、僕の所為にされても困るんだけどな……と言うかリゼは僕とずっと一緒にいるの、嫌なの?」

「そうは言ってないでしょ! 単に恋愛相談がどうして私の処ばっかりに来るのか分かんないだけ!」


 だけど私がそう言うとクラリスが苦笑する。


「……そりゃあ婚約してる時点で恋愛最先端ですからね。真っ先に婚約したお姉ちゃんとお兄ちゃんは最高の相談相手と思われて当然と思うのですよ?」


「……えー、そうなの?」

「……まあ、それは……うん……」


「だけど一番問題なのはそのお兄ちゃんと、特にお姉ちゃんが恋愛に全然無自覚な事だと思います。もうちょっとしっかりしてください」


 クラリスがそう言ってわざとらしく頬を膨らませる。それを見て私とリオンも顔を見合わせて大笑いする事になった。


 だけど私も少し気を配らないと。皆が疲れ始めてる事にも気付いてなかった。今回の事件が一区切りつけば大分楽になる筈だけど、何とか出来ないのかな――そんな事をぼんやりと考えていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ